19-16.マーリンの怒り
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
19-16.マーリンの怒り
マーリンは早々にバクロンに乗り込み、地元の3メタルファンクラブの中でブイブイいわせていた。
「なんじゃ、ワシは忙しいんじゃ。パピーズなら問題はない。ワシはいつも奴らを監視しとるからな」
自分が監視されてるんだろ。と思ったが、とにかく
「ランプのジン」
について情報を引き出さねばならない。
「おじいちゃん、むかし天帝さまのとこで会った事あるよね?」
「天帝の?ああ、あの時のチビ助がお前かい」
大壺に入って抜けなくなる位だから、そこそこ大きいのだろうが、まだステルが小さくて、子猫とかに変身出来なかった頃、虎の子ども位の大きさだった頃だろう。
「こ奴は本当にイタヅラ者でなあ。しょっちゅう何か物を壊したり、盗み喰いをしたりしていた。一度などまだ五千年しか経っていない人参果を食ってしまい、お腹を壊してなあ」
「おじいちゃん、むかし話はこんどにしよう。それよりランプのジンって覚えてる?」
「もちろんじゃよ。あれはワシが天帝のとこで働いとった時に」
「ちょっと待った。老子って本当にマーリンなの?」
「老子ってのは、お年寄りの先生。って言う意味でな。人間世界で言う老師のデラックス版じゃ。天帝の宮廷では役職みたいなもんじゃ」
前世でも思想家の老子は実在しない。と言われている。
荘子と言う思想家の書物にだけ出てくる存在で、世俗を超越した仙人の様な師匠として描かれている。俗世間のしがらみに縛られる実在の荘子にとっては、憧れの存在だった訳だ。老荘思想と良く言われるが、老子の教えは、あれこれ規則を定めて統治して行こうとする孔子の教え(儒教)の対極にある
「無為自然(Let it be)」
を体現した存在とされ、神格化されて行った。
レムリアの天帝宮廷において老子は、色々な問題を解決してくれる知恵と霊力のある便利な先生。と言う様な位置づけの役職だったのだろう。
「ふーん、じゃあその時はじいちゃんが老子をやってたわけ?」
「ちょっと訳があってな。ワシは天帝の元に身を寄せておったんじゃ」
「アトランティスとかで、なんかやらかしたんでしょ?」
「馬鹿を言え。丁度アトランティスに沈降の兆しが見え始めた頃でな。なんとかあの大陸が沈まない方法はないものか?と大東を訪れておったんじゃ。丁度友人の鎮元仙人が一万年に一度の有休をとったので、滞在費のバイト代わりに老子を引き受けたんじゃ。」
なんかブラックな職場だな。鎮元仙人と言えば、西遊記で悟空達に人参果を盗み喰いされて大変な迷惑を被った仙人だ。
「なんでアトランティス沈降を防ぐヒントが大東に?」
と師匠が食い付いてきた。
「かの国も隣国のムーが沈みかけておったからな。こちらも結局助からなかったが」
マーリンはちょっと悔しそうだった。
その頃はちゃんと人代の仕事をしてたんだなぁ…。
「それで、ランプのジンがどうしたって?」
「いや今もジンをお持ちかと」
「粉なら持っとるぞ。お主、作りたいのか?」
「いやそんな千年もかかるのは勘弁ですが、出来上がりのはお持ちかと」
「なんじゃ面倒くさがりな奴じゃな。あんなモノでも毎日世話をしてやると、可愛いもんじゃぞ」
「それで、持ってるの?持ってないの?」
「なんじゃオコ、またヒスか?あの日…」
おっと、セクハラはそこまでだ。
「マーリン、申し開きによっては、重大事件の参考人として、上警にしょっぴかれるかもしれないんですよ」
ちょっと脅しておいた。
「なんじゃなんじゃ。今のワシはあの怖いチビ助共に見張られてるんで、悪い事は出来ん身じゃぞ。ああそうかジンなあ…。あれは一回だけ願いを残して、アトランティス島嶼の別荘にしまっておいたんじゃが、大御所に別荘ごと燃やされてしもた」
「なんでそんなとこに置いたのよ。そんな貴重品!」
「そんな貴重でもないぞ。幾らでも作れるからな。あれは持ち主の意思を勝手に読むんで、願いが無駄使いされてしまうんじゃ。あの時のジンは、一つはここの馬鹿娘の母親がぶっ壊した壺を再生したじゃろ?あと一つは、ある日『ああなんぞ美味いものでも食べたいなあ…』とつぶやいたら、一瞬で山海の珍味を出しおった」
「ごちそう出せるんだ!ステルもジン作ろうかなあ」
「それであと一つしか願いが残っとらんかったので、下手打っちゃいかんと思って、当時余り使ってないあの別荘の薬種棚にしまってすっかり忘れとった」
そしたらこないだ大御所に燃やされた。と。
「でも別荘は、アーカイブとやらで復元したんやろ?だったらジンも戻って来たんやおへんの?」
「それがさ。復元しても、薬種棚にジンの入った瓶は無かったんじゃ」
「それって、大御所が火を付ける前に盗まれてた。って事じゃない?」
アーカイブ元に既に無かった。と。
「まあワシも、ここ数百年物忘れが酷うなってなあ。もしかしたら酔っ払って、アホな事に使うてしもたんかも知れん。と思っておったのじゃが、何かあったのか?」
俺は事の顛末を説明した。
「3メタルのチケットは、ファンにとってはプラチナチケット。いやアダマンタイト級チケットと言っていい。それを複製した奴がいたじゃと?許せんな!」
マーリンはブルブルと震えている。
こんなに怒っているマーリンを見るのは、
50回めくらいだ。
レムリアには存在しない超金属を引き合いに出すこの老人は、アインズ様の知り合いかなんかか?
「あの別荘には立ち寄った事があるけど、簡単には侵入出来ない結界魔法がかかってたよね。まあ外から天雷火矢を射掛けられたら燃えるけど。薬種棚にも厳重に鍵魔法はかかってたんでしょう?」
師匠が専門的な指摘をする。
「結界だの鍵だのは、無理矢理なら必ず破れる。問題は侵入の証拠が残る事じゃ。上警の鑑識であれば『これはペンジクアスラ派の術師が朱雀神界の呪法を偽装にかけたもの』とかすぐ解明できる。だから」
「「「「「燃やした」」」」」
証拠隠滅のためか。
「ざまみろ」
とか書いた袈裟を残すとか、大御所って幼稚な復讐をやるんだな。と思っていたが、実は理由があって、それを隠すための茶番だったって訳だ。




