19-14.韋駄天
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
19-14.韋駄天
「この度は誠に申し訳ござらぬ。原因究明と、再発防止に努める所存でござるが、まずはお詫びまで」
佩剣をスラリと抜くと、自分の首にあて
「スパァン」
と切り落とした。ドン引きする俺に
「御詫びの誠意として、受け取ってくだされ」
と、いつの間にか新しく生えた首が言った。
あれ?小津じゃない。もっとイケメン。
「頂いておきよし、韋駄天はんの首は6つしかないよって、希少品やで」
と勧めるコンコン。
しかし…。
何に使うんだ?小津の首とか。
それにしてもシバヤン家の兄弟は首を粗末にする伝統でもあるのか?
「韋駄天はん、と言うよりS・神田はんは、6つの首と12本の腕を持つ神さんやで」
何でそんな事に?
「わからへん。一説によるとシバヤンはんには6つ子のお子達が居はったけど、あんまり可愛いよってシバヤンはんがぎゅ〜っと抱きしめはったら、くっついてしもたんやて」
何だよそのDV。
「あれは俗説でござる。確かに拙者は末っ子ゆえ、父シバヤン、母パトゥニーに蝶よ花よと可愛がられ申して、6人のうら若き乳母をつけられ申した。6人が代わる代わる世話をしてくれ申したが、お互い競い合う様になり、流血の惨事も起こりました故、首と両腕を6対に分け申して、それぞれ対応する事にした次第にて」
なんか嫁さんが6人。ありがちなラブコメみたいだな。と思ったら、S・神田が成長した後も、全然歳を取らない乳母達のせいで結婚出来ないそうだ。
究極のマザコン?いや乳母コン?
「でも首一つ落としちゃったら、担当の乳母さんが悲しまない?」
小津の乳母さんなら小日向さん似かな?
「心配ござらぬ。また生えてくる故」
何だよそれじゃ誠意が…。と思ったら、コンコンが耳元で
「韋駄天はんの首は漢方の希少薬や。子供の病全般の特効薬として高う売れますで、値、大金貨6千枚」
げぇ〜!ろ、六千まんえん!
そんな高価な落とし前って、何の?
「言うまでもなし、先だっての多重チケットの件でござる」
チケット販売代行業の韋駄天サービスとしては、ダブルブッキングは絶対あってはならぬ事なので、社長以下大変な衝撃が走ったと言う。
「しかも偽造とか人為的ミスとかではなく、寸分違わぬチケットが二枚発行されており、チケットに刻印された魔法陣も我らの確認システムで二枚とも認証されたのでござる。たまたま若い方のお客様がグッズ予約をされ、我らの係員が、氏名年齢に相違がある事に気付かねば、来るバクロン公演にて大変な混乱とご迷惑をお掛けする所でござった」
韋駄天は深く礼をした。
「国王陛下が寛大な方で助かりましたね」
俺も頷いた。
「はい。これも人代殿のご人徳のなせる技でありましょう」
コンサートと言う物は必ず当日来られない客はいるものだが、妖狐の里公演で1人、ナイラス公演で2人いただけで、中には高熱を押して参加し、救護室に強制送付された客がいた程の皆勤賞ぶりだった。
バクロン公演で当日キャンセルが出るとは限らず、しかも今回重複が見つかったチケットは隣同士のカップルチケットだったので、二人揃ってキャンセルする客となると更に可能性は低く、思い余ってアポルに相談したところ、なんとフサイ国王に願い出て、国王陛下・王妃殿下のチケットを譲って頂ける事になった。
ご夫妻も公演を楽しみにしていたが、本来これは可愛がっている末子の王太子(10歳)が3メタルの大ファンで、誕生日の祝いに両親が企画したものだった。王太子は結局一人で供を連れて参加したが、思いがけずもロイヤルシートに座る事になった若い夫婦と仲良くなって、その後も文通などしたらしい。
「この夫の方が後の宰相誰某である」
と言う顛末にならない所がフサイ国王らしい公正さだが、王太子は後々まで文通を続け、細かい庶民の事情などを聞いて政治に活かしたので、家臣は
「王の目、王の耳は驚嘆すべし」
と感服したと言う。
このエピソードは、もちろんフサイ国王の寛大さを示すエピソードだが、人代でも伎芸天事務所でもなんともならないチケット問題を、兄国王に相談する。と言うアポルにしか出来ない方法で解決し、後述するがバクロン王室と伎芸天事務所、韋駄天サービスを救ったこの行動は、昔のアポルを知っている俺たちから見ると感慨深い。
昔の彼は予約お構いなしに入場しようとするような人物だったのだから。
「さいはつぼうし、うまくいった?」
とステルが声を掛ける。
ちょっと驚いたが、ステルは幼い頃、天帝の宮庭で韋駄天に遊んで貰った事があるのだ。
大東には天帝神界と醍醐神界が緊張的共存をしており、お互いの行き来もある。
「はい。白虎令嬢様のご助言を得て、バクロン、タリフ公演全ての新型チケットの送付が終了しました」
大東四獣の西域守護神、白虎の御令嬢であれば、増長天の元部下と言う韋駄天が、そこまでへり下る必要はないのだが(しかも今や大企業のCEO、こっちは子供である)、ステルはヤクスチランの守護神と言う、主神(酒神)パトニカトルに次ぐ貴神であるので、今は韋駄天より神としては格上なのだ。
「ん?なんなのステル、助言って」
オコが訝しそうに聞く。
「大した事じゃないよ。同じ二まいのチケット見せてもらって、紙のにおいいがちがう。って」
どうもベンガニー推理小説に刺激されて、単独で韋駄天サービス本社に行き探偵ゴッコをしていたらしいが、流石ステルの嗅覚で、真相に達してしまったらしい。
「嗅覚に強い眷属を総動員して、社に残りしチケットの耳を総点検致したところ、嬢様の言われる匂いが、確かに我ら発行のチケット用紙にはない事を確認致しまいた。図案を変えた新チケットを、全顧客に送付済みでござる」
※この時点ではまだ我々は気づいて居なかったが、実はこのステルの行動がバクロンでの大御所の作戦を頓挫させる事になった。
韋駄天はその後、バクロン国王とステルに、盆暮れの付け届けを忘れ無かったと言う。
ちなみに我々からは国王一家をツアー終了後のライブ盤予備映像・音源録画会場にご招待した。
「ステル、大手柄じゃない。」
オコは嬉しそうだ。
「で、どんな匂いだったの?」
好奇心の強い師匠が聞く。
「うーんとね。ようせいさんのにおいだよ




