19-9.マァトの解釈
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
19-9.マァトの解釈
マァトの母は誰か?
この超デリケートな問題は、如何な馬鹿助でも流石に触れないし、周囲も何より本人が触れない。
神話によると太陽神ラーが夜の船メセケトで通行中、暗闇の海に落ちそうになり、危ういところをセト神に助けられたが、この時海底に潜む虚無の女神に捕らえられそうになり、この時ラーに触れた虚無の女神が生んだ子がマァトだと言う伝説がある。
しかし俺が調べた所によると、マァトは女神イシスの手によってナイラス川(神界の方)に流され、イシスが拾ってセベクとレネネトの夫婦が育てた。この様な回りくどい事をしたのは、真の母の素性を隠すためだった。レネネトは赤子の素性を見る神であるので、その父がラーである事を見抜いた。
最終的にはラーが自分の子である事を認知し、冥王オシリスの補佐官として死者の裁判を行っている。言わばアヌビスの上司である。
神々の世界では、人間や動物の様な父親としてのDNAの継承がなくてもペンジクのシバヤンの様にパトゥニーのみから生まれたキャーリーを実の娘として反抗期に苦闘したりする。
ラーがその覚悟をして認知を公表した時点で、セベクとレネネトは引き下がらずを得ず、親娘の間がギクシャクした。
マァト自身は
「自分は虚無の女神(神界から見れば負の存在)を母として産まれたのではないか?」
と言う疑惑を拭う事が出来なかった。
俺は太陽の船マンデト号の船長アケンに会い、マァトがラー神自らの体内に生じたサソリの形をした黒い塊で、それがアケンの妻で侍従長のセルケトの腹に飛び込み、赤子マァトの形で産み出された事を聞く。
つまりマァトには実の母はおらず、強いて言えばラー神のみから産み出された神なのだ。
神界ではこう言う事は珍しくはない。
普通の分娩のみが神の子が生まれる条件ではないのだ。
なので正義の女神マァトには母はいない。と言うのが結論だった。
物心ついた時には両親が居なかったオコは、マァトにひどく共感し、育ての親のセベクとレネネトこそ真の両親だと熱弁し、頑なだった親娘をとりなした。
俺はマァトに調べた事を話し、マァトはセベクとレネネトの子。そして産みの親(父でも母でもある)は太陽神ラー。と言う事で、ついに自分のアイデンティティを確立した。冥界の正義の女神の精神が落ち着く事は、人類の代表として誠に満足の行く仕事であった(自画自賛)。
(以上第10部より要約)
「マァトさん、いまさら何を変な事言い出すんですか?俺がきちんと調べた事を説明したでしょ?」
「して頂きました。その節は本当にありがとうございました。このご恩は永遠に忘れません」
神だからね。"生涯"じゃないのね。
「しかしながら、いかに人代様のお言葉であっても『ああ、そうなんですね。分かりました』と納得するこのマァトとお思いでしたか?もちろん人代様が嘘をついていない事は、見透す事が出来ましたけれど」
そうだった。この子はこう言う子なんだ。正義感が強く、しかしアヌビスの様な馬鹿助を愛する情も持っている。理想の風紀委員長。心優しき正義の子。アヌビスの幼馴染でかっこいい上司の女神マァトはこう言う子なので、アヌビスも惚れてしまったのだ。
「人代殿、黙っていて申し訳ない。あの話を聞いてから、マァトは密かに『裏を取って』いたんですよ」
とアヌビスが謝るが
「貴方は私のイメージが疑り深い女。と思われない様に、人代様に内緒にくれていたんでしょう?貴方の様な口の軽い馬鹿助が、必死に黙っていてくれてありがとう。そう言うとこ、嫌いじゃないわよ」
"嫌いじゃない"頂きましたぁ〜。
アヌビスはディスられてるのか、褒められてるのか分からず、微妙な顔をしている。
喜ぶとこだよ!
「いいんですよ。俺だってマァトさんの立場だったら、同じ事したでしょう。しかも俺の場合、そう言う内々の種明かし話を持ってくるのが、あの因業爺でしたからね」
「ご理解頂き、ありがとうございます。自分でも面倒くさい女だと思うのですが、きちっとしないと納得出来ない性分で」
「でもマァトちゃん、馬鹿助と付き合う様になってから、随分丸くなった。仕事にも良い影響出てる。って、給湯室ではもっぱらの話題よ」
オコがどこかのOLモードで言う。
「俺もそう思う。明るく正しい冥界。これこそが人類の代表としては望ましいので、あんな馬鹿助でもマァトさんの精神の安定に寄与しているんだなぁ。と思うよ」
「うんうん。最近は僕が人間に贔屓して天秤皿にちょっと指を掛けたのがばれても、僕の指切り落としたりしなくなったしさ」
馬鹿助らしいフォローにならないフォロー。しかし指詰めるって、女親分かよ?
「ふんあれは、あんたの指を切り落としてもすぐまた生えてくるんで、ちっとも罰にならないからよ」
とツンデレみもある。
「まあ痴話喧嘩は後にしてさ。そろそろバルバル人、じゃなかった魔女の軍隊が再度攻めて来そうだからさ。サクッと説明してよ。俺の説明を聞いた上で、それでもまだ自分の母親が虚無の女神?実は滅びの魔女メハシェファ?だって言うの?」
ちょっと強めに言ってしまった。しまった!
「はい、人代様がご気分を害されたのも無理ありません。ちゃんと説明しましょうね。まず最初に、私の母はメハシェファではありません」
そりゃそうだろう。
「じゃあどうして?」
オコも心底判らない様だった。マァトとは一緒に多いに飲んで、馬鹿助や俺の悪口言って盛り上がって(想像)、妹みたいに思っていたのに、突然なんか変な宗教にハマって、言ってる事全然判らない。みたいな。
「虚無の女神には父の太陽神ラーは危うく捕まりそうになったけど、セト神が助けたんですよ。貴女と虚無の女神は、赤の他人ですって」
これはナイラスで日蝕の説明となっているエピソードだ。
「そうですね。色々自分でも調べて、自分なりの結論がてたのですが、私には母が5人いるんですよ」
意外な言葉に、一同驚愕だ。ステルは
「さんかんじゅぎょう、まんいん」
とか呟いている。
「まず私を育ててくれたお母さんのレネネト。私を守るため巧妙に私を隠してくれた女神イシス。私を産んでくれたアケンの妻セルケト。そして私をお腹の中でゆっくり時間を掛けて大きくしてくれた、父でもある太陽神ラー」
「4人」
「後は?」
「虚無の女神です」
なんでだよぉ〜!
でもなんとなくマァトの気持ちが判ったよ。
ラー神を母に加えた時点で。




