19-8.戦略会議(戦う前から勝ちです)
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
19-8.戦略会議(戦う前から勝ちです)
師匠はすぐ戦場に行きたがったが、とりあえずパーサを偵察に出した。
「ひでえもんだで。バルバル人であらすか。完全に筋肉兵に入れ替わっとる。頭だけバルバル人ださいが、あれは殭屍だわ」
どうもバルバル人の襲撃と言うのは濡れ衣で、将軍(海の民なので提督か?)は殺害されており、殭屍化されてナイラスに宣戦布告した様だ。
「つまりはおなじみ大御所の筋肉兵が、殭屍魔術兵士をスカウトに来たわけだな」
「だ。戦ちゅうより"狩り"ちゅう感じだったらしいで。奴らの戦車も、絵本に出てくる様な小んびきせゃあのではにゃあて、細長い屋根無し二輪馬車。みてゃあなやつだでよ」
それってつまりはリアカーか。
魔術兵士の遺体を持ち帰る気満々だな。
「とりあえず無効化魔法か。そして出来れば浄化魔法だが…」
師匠がブツブツ作戦を立てる。
無効化とは、敵の主力魔法である土魔法の効果を失わせるもので、飛んで来た大岩はそのまま威力を失って地面に落ちる。現実の投石機で飛ばした岩には効果がないが、魔法で飛ばした岩には効く。
「岩に潰された兵士にまだ命があれば、私が治癒するわ」
オコが言う。
「オコさんには浄化魔法をやって貰おうかと思ったのですが」
師匠が考え込む。
「一応アシが応急処置はしてあるでよ。怪我人、50人ぐりゃあかな?残念ながら死んでまった衆で盗られなんだのが10人くりゃあ」
と言う事は、4〜50名は敵の殭屍魔術兵士にされてしまったわけか。
「一旦退却しやぁたので、今はナイラス軍も一息ついてござるわ。ただよう、残った兵士がパニクっとるでかんわ」
敵に倒された戦友が殭屍になって攻めて来たら、そりゃ心が折れるだろ。
「それは僕が喝を入れるよ。ナイラス軍の残存兵力は?」
「400人くりゃあかな?」
500人隊か。ナイラスも舐めてたな。だが数が少なくても魔法軍は10倍くらいの戦力だし、何より小編成だったおかげで敵に奪われた遺体も少なく、不幸中の幸いというものか。
「後は、浄化魔法だが…」
初級の浄化魔法は淀んだ空気や汚染された水を綺麗にする魔法なのだが、中級になると死者の魂を冥界に送る力を持つ。そして上級浄化魔術師は悪霊に取り憑かれたり、ネクロマンサーに操られた死霊を浄化して冥界に送る悪魔祓の力を持っている。
だがそれには邪念があってはならず、俺や師匠、ましてやマーリンには出来ない技だ。
「オコはどこまで出来るの?」
「中級止まりよ。浮気症の亭主の不満をいつもブツブツ言って汚れちゃってるからねえ」
ごめんて。本当に四娘とは何もないって。
「もちろんマーリンを縛り付けておけるセイコαは現存唯一の上級浄化師だけど…」
俺が言うと、全員がシンクロで手を横に振る。俺だってそれは愚策だとわかる。パピーズをそんな目立つ所には出せないのだ。
「となると、後は神々か。聖狐天なら完璧だけど」
これも全員わかっている。ナイラスの問題に独立神の聖狐天は干渉出来ない事を。
「三娘さんも、敵味方区別ないからなぁ」
彼女のお掃除は、おそらく宇宙最強レベルで本気になればレムリア星ひとつくらい綺麗にお掃除出来ると思うが、流石に今回は出番がない。それにシバヤン眷属のナンバーズが、余り表の戦に出るのもマズい(裏の方は四娘が散々やってるが)。
「上警はんは事後の逮捕なら出来るやろなあ。メハシェファは逮捕したいやろけど…」
「となると、ナイラス神界か…。ねえ、アヌビスって死者を弔う神だけど、浄化って出来るの?」
「聞いた事にゃあなあ。あの馬鹿助には無理じゃにゃあの?」
「なに言うんですか!失礼な」
早速アヌビスを呼んで尋ねると、彼はこう答えた。
ナイラスの神だからナイラス国内なら、パーサが
「来てちょう」
と呼べば国内どこへでも喜んで顕現してくれるのだ。
「じゃあ浄化魔法出来やあすの?」
パーサがちょっと期待の籠った目で見る。
「出来るわけないじゃないですか!」
パーサの目が曇る。ガラス玉の様だ。
「使えないばかすけ」
ステルが吐きすてる様に言う。
「駄目よステル。そんな失礼な事言っちゃ。例え本当の事でも」
オコもきつい追い打ち。
「仕方ないじゃないですか。冥界って言うのはお役所なんですよ。僕の役目は死者を綺麗なミイラにする事と、死者の書を書いて義父に送る事。あと」
「例の天秤秤を持ってる役だよね」
苦労人の社長がフォローする。
人間の魂(心臓とも)を天秤秤にかけて、羽根より重かったら有罪。と言うやつだな。
「僕は死者の書を書く関係で、死者の方の色々な事情を忖度出来るんです。可哀想な境遇で運命に翻弄されて犯罪を犯した人なんか、ちょっと羽根の方の天秤皿にうっかり指を掛けたりしてね」
おいおい良いのか?
そんなナイラス神界の闇みたいな話。
馬鹿助なアヌビスが今もナイラスで深い信仰を集めている理由が、なんとなくわかる気がした。
「他に浄化が出来る神は?」
「まあ、居るっちゃ居ますが、果たしてやってくれるか…。お固いですからねえ、彼女は」
なんか誰だかわかったぞ。確かに冥界の審判の女神、正義の女神だ。
アヌビスが一人の女神を連れてきた。俺たちは全員サングラスを付けている。真昼の太陽を直視する様に、目を焼かれるほど眩しいからだ。
「そう言う訳でマァト、この婚約者の願いを聞いてくれ」
「どう言う訳ですか?貴方いつから私の婚約者になったの?貴方にはパーサさんと言う交配相手が」
ああ、マァトとパーサは今は友達なのだが、アヌビスを巡るライバルでもある。パーサが納得している
「自分はあくまでもアヌビス体の時の伴侶」
と言う理屈をマァトは真には納得していない。普通は納得しないのが当たり前だろう。
仲睦まじく愛の歌を歌うデュエット歌手の男の方には実は別に妻がいて、マネージャーやってる。みたいな感じか?(生々しい話になってしまった)
俺たちはマァトに詳しい話をした。
マァトの輝きがますます増大した。
「あかん、怒ってはる」
コンコンが俺の影に逃げ込む。これ以上光を浴びるとコンコンの様な霊は、分子レベルで浄化されてしまうのだ。
「ネクロマンサーは悪です。違法行為です。しかも我がナイラスの子供たちを殭屍化していると?良いでしょう。迷える魂を救い、あの魔女を今度こそ始末しなければ!」
「マァトさんは滅びの魔女メハシェファをご存知なんですか?」
「ご存知も何も。あの者はナイラスに現れた分身のひとつに過ぎませんが、元をたどれば私の母ですから」




