19-7.戦局
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
19-7.戦局
俺たちは他国の戦争に干渉するつもりはない。
あくまでも神と人との仲介人なので、人間同士の争いには、極力どちらかの肩を持つ事は好ましくないのだ。
だがコンサートの成功を危うくする様な事態は回避せねばならない。
「バルバル人って何の事?」
オコが首を傾げている。
「まあ悪口ね。二つの国がお互いにそう言い合う事もあったわ」
事情通の社長が解説する。
「元々は言葉が通じない相手、なに言ってるか分からない。相手の言葉が『バルバルバルバル…』ってしか聞こえない。と言う意味で、相手をディスる言葉なんだけど。大昔は共通レムリア語以外を話す民族もいたし(現在は交流のなかったヤクスチランと蓬莱のみ言葉が異なる)、方言もきつくて他民族との意思疎通が難しかったのね』
方言きついって、青森のおばあちゃんと鹿児島のおばあちゃんが、話し通じない。みたいなもんか?
「だけどナイラス人が言うバルバル人が、どこの民族の事なのか、分からないわ」
前世だと古代ギリシア人が異邦人の事を同じ理由で
「バルバロイ」
と呼んでいた。英語の
「バーバリアン(野蛮人)」
の語源だったな。
とりあえず、シオ・ラメンの元に急ぐ。
いつもはウラナαを相手にリハビリをしている時間だが、流石に官邸から部下たちが慌てて駆けつけていた。
厳しい顔つきで指示を出すシオの姿を、ウラナαが猫の目、兎の耳で見守っている。
「お忙しい所恐縮ですが、一体何が起こっているんです?」
「バルバル人ってなに?」
オコは相変わらず直球だ。
「流石アヌビスの耳をお持ちで。(※耳が早い。と言うナイラス風言い回し)西方のバルバル人が攻めて来たのです。ああオコ様、バルバル人とはアズマシー族の事です」
アズマシー族?何だっけ?
「アズマシーって砂漠の民ですよね?」
歴史に詳しい師匠が聞く。
「過去はそうでしたが、今は西果ての海に出て、貿易をしている民です。たまに海賊も」
西果ての海とは、前世だと地中海に当たる。そこからアトランティス大陸のあった海に繋がっているが、その先には今は陸地がなく、ステルに乗ってどんどん飛んだ事があるが、元々ムー大陸があった島嶼を経て蓬莱に達する。
つまり前世でコロンブスが信じていた(南北アメリカ大陸が存在しない)地球の姿がレムリアだ。
コロンブスは
「大西洋と太平洋は同じ海で、ヨーロッパから西に向かえばアジアに達し、アラブ人が独占していた香料貿易を打ち破れる」
とポルトガル王を説得したが実現せず、スペインのイザベルI世女王の援助を得て
「海を西に進むとやがて海水が滝の様に落ち、船は奈落に落ちる」
と信じていた水夫達を説得して航海に出発する。
そしてコロンブスはカリブ海のどこかの島に到着し、その辺を
「西インド諸島」
先住民を
「インディオ(後に英語読みでインディアン)」
と呼び、そこをインドだと死ぬまで疑わなかった。
コロンブスの偉業を記念したコロンビアと言う国はあるが、コロンブス後にこの地を探検し、南米大陸の緯度がアフリカ最南端やアジア最南端より、はるかに南まであるため、これは新大陸だ。と最初に確認したイタリアの地理学者アメリゴ・ベスプッチにちなんで新大陸は
「アメリカ」
と名付けられた。
ちなみにレムリアでは北米大陸に相当するものはなく、南米大陸に相当するのは、もっと西側に移動していて、大氷原(南極大陸に相当)と陸続きのヤクスチランになる。
「アズマシー族はしばしばナイラスに攻め込むのですか?」
「そんな事はありません。彼らは主に海岸沿いの入江に住み、貿易や漁業で生計を立てています。他の船を襲う海賊行為をした事もありますが、カライ大佐様♡が、ナイラス海軍を派遣して屈服させ、むしろナイラスの貿易船の用心棒みたいな仕事をさせています」
いちいち♡つけるのやめれ!
ナイラスのガレー艦隊の話は聞いた事がある。
何人もの水夫に長いオールを漕がせ、敵船に体当たりして、一気にカタをつける勇猛な海軍らしい。
「じゃあナイラス河口の港に攻め込んで来たのですね?」
「それが今回はなぜか陸戦で。戦車を連ねて砂漠を超えて来たのです」
「ほぉらぁ〜」
とステルの得意顔。
「戦車とか、いつ時代の話だよ」
レムリアでも陸戦における戦車(馬の牽く二輪オープン馬車)の役割はとっくに終了していた。
戦車は戦車同士でガチの衝突をするからこそ威力を発するが、これはまだ上手に馬に乗れなかった時代の戦法で、横から攻められると非常に弱い。
古代ギリシアや中国でも、比較的早く戦車の優位は終わっている。
何より長い丸太を持った歩兵に横から車輪に差し込まれると、動けなくなるのだ。
余談だが近代戦における戦車も、敵の都市を攻める武器としては有効だが、戦闘機の空対地ミサイルや歩兵のロケットランチャー、その上自爆ドローンなどと言う珍兵器まで実用化されては、早晩姿を消す運命だろう(※予言的表現)。
「で、ナイラス軍はどのように戦っているのですか?」
再教育センターの教官としては、教え子が気になるようだ。ちなみにナイラス軍には歩兵は居らず、魔法軍中心である。
「よく戦っています。しかし敵がおかしいのです」
「おかしい?」
「戦車部隊が、どんなに強い魔法でも吹き飛ばず、真っ直ぐに突っ込んで来るそうです」
ナイラス軍に歩兵はいないので、車輪止め作戦が出来ない。そしてこの戦車には何か強化魔法がかかっているのだろう。
「最前線の数百人の魔術兵士が倒され、バルバル人はその死体を戦車で持ち去りました。そして翌日には戦車から強力な土魔法で大きな岩をドンドン投げて来たそうです」
「倒れた友軍兵士の体を絶対に渡すな!」
師匠が珍しく大声を出す。
顔が真っ赤だ。こんなに怒っている師匠を見た事がない。
「私もその様に指示した所です」
シオ・ラメンも、妖狐の里やチャガマンで何が起こったかは報告を受けている。
「くそっ!愛弟子たちをこれ以上殭屍魔術師にさせてたまるかっ!」




