18-32.デスマーチ
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
18-32.デスマーチ
「ウラナよ」
「はい」
「わし、言ったよな。"あやつはいささか常軌を逸しておる"と」
「そうですね。俺も師匠との付き合いも長いですが、流石にこれほどとは」
「どうですかぁ〜お二方、リラックスして頂いているでしょうか?必要な物があれば、なんでもおっしゃって下さい」
「「自由を!」」
「それはご要望にはお応えかねます。お腹は空きませんか?一流シェフが腕によりをかけたお料理をお楽しみください」
「流動食じゃねえか!」
「飲み物はいかがですか?残念ながらお酒はお出しできませんが、お茶、果汁各種ご用意しております」
「そりゃどうも」
「毎日お仕事お疲れ様です。こちらの式人形はバクロンの一級按撫師の技術を移植しておりますので、最高のマッサージをご提供出来ます」
「いらんわ!そんなも…あぁ気持ちいい…」
「懐柔されてどうするんですか?師匠!早く我々を解放して下さい」
「やだです。日頃お疲れなので、十分リラックスして頂きたい。とスミティと考えたスーパーリゾート装置なんですから」
「おっの〜れ〜スミティ!」
「ん?そのスミティと言うのは?」
「あ、ああ社長の事ですよ。ちょっとしたあだ名で」
あぶないあぶない。俺の脳内相談室、謎の高度宇宙生命体が残したナノロボットの事はマーリンには秘密にしないと…。
「とにかくわしをすぐ解放せよ。こんな仮想空間では退屈で敵わん!」
「美しい風景はお好きではないんですか?」
俺が前世で通っていた歯科では、診察台に座って歯科医師の来る間(一人で診られる先生なので、5室程の診察室に順番に先生が来るシステム)液晶テレビで環境映像が流されているのだが、世界各地の美しい風景をドローンで撮影した素敵な動画で、結構俺は楽しみにしていた。
「じゃあこんなのはどうですか?」
目の前を女の子が歩いている。
いきなり強い風が!
oh!モーレツ!(知らない人は昭和世代のお父さんかおじいさんに聞いて欲しい)
「どうですか?選りすぐりのラッキースケベ集です」
ってスミティが編集した俺の偶然遭遇した記憶からのエロデータじゃねえか!やめろよ、人のプライバシーいじくんの。
『ちなみに今のは顔は見えてないけど、コリナンクリン社長だからな。あの人はなかなか隙が多いんだ。いいのか?師匠、嫁さんのあられもない姿をマーリンに見られても』
「そんなもんには興味がない!」
「じゃあ仕方ない。質が向上した睡眠を、お楽しみください」
俺の意識がそこで落ちた。
易々と体の自由を奪われる俺たちではないのだが、師匠の素晴らしくリラックス出来る部屋の効果か、仲間と言う気安さか、俺はマーリンの忠告を忘れていた。まあ忠告したマーリンも同じ罠に嵌ったのだから、仕方ない。
マーリンは元来こう言った罠・毒薬の類を避ける事は一切なく、体の自由を奪われ様がかえってそれを楽しむ風がある。いざとなれば魔法でなんとか出来るのだから。
今回は呪文詠唱すら禁じられているが、最悪冥界に戻ってしまえばいいのだ。それをしないのは遊んでいるのかもしれない。
いや、そうじゃない。冥界に戻るとまた現世に来るのに魔力の充電期間が要るので、下手するとコンサートツアーが終わってしまうからだろう。
まあ今の状態がもちろん師匠による
「期間限定」
のものであり、すぐに解放されるのが判っているので、俺もジタバタしてはいないのだが、それにしても
「手足の自由と視界」
を奪われて長時間仮想空間に居るのは、確かに飽きるよなあ…。
で、師匠が俺たちに何をやったかと言えば、世界最高の心理脳外科医であるスミティとの共同開発で、俺とマーリンの
「イメージセンサーと目視データ分析能力」
を俺たち本体から
「切り離し(あくまでもイメージです)」
「マルチ撮影装置付き飛翔体"トンボくん"」
があのグロテスクな複眼(撮像素子6億個)で撮って来た
「空間の穴の向こう側」
の映像データを一挙に並列処理させるためだった。
師匠と俺とマーリンで
「情報の多さに酔いながら吐きながら」
処理をする数千万倍の速度で処理が出来ると言う。その代償がこの拘束、と言う訳だ。
「師匠、あと何分で終わるのぉ?」
「まさか。明日の夜明けまでには終了します」
「おしっこしたいの」
「申し訳ありません。オムツの中にして下さい。すぐに式人形が清潔にして交換いたします」
人間の尊厳を著しく損なう拷問が終わり、俺たちはようやく解放された。
「おのれノヅリ、覚えておれよ!この借りは必ず!」
マーリンが吠えている。
「何をおっしゃっているのです。これも全て大御所と金羊毛の情報を得るためです。それくらい前.人類の代表としては当然の助力でしょうが」
「じゃあちゃんと事前にそれを説明して…」
「説明したら承諾して下さいますか?」
確かにオムツプレイがご褒美な趣味は、俺にはない。
「じゃあ他の人のを使うとか」
「インプットデヴァイスとして他の人のを使うには、同時に5千人くらい必要とわかりました。しかもそれをやったとしても、お二方に比べると処理能力が決定的に、遅ぉ〜い!」
「そ、そうなのか?」
ちょっと嬉しそうなマーリン。本当にちょろい。
「それで何か判ったんですか?」
「まだ処理後のデータ平坦化に5時間程かかります。明日他のメンバーの前で公開し、精査いたしましょう」
「じゃあわしはそれまで、返還された視力装置の保養をしてくるぞ」
マーリンは例のマントと靴を身に付け、アメコミヒーローポーズで飛んで行った。
おそらく大氷原の3メタルのところだろう。
またしょうもない知識を仕入れて
「違う!そうじゃない!シロネちゃんが好きなのはチョコレート。クッキーが好きなのはアカネちゃんじゃよ。ソースはわし」
とかオフ会で威張りたいんだろう。
「しかし、マーリンの前でスミティの名を出したのはマズかったですね、師匠」
「申し訳ない、迂闊だった」
「これから、マーリンが"スミティ"と言ったら社長の事ですからね。ビッグセブン全体に周知願います」




