18-31.ノヅリ・セレクション
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
18-31.ノヅリ・セレクション
マルブ公演まで2カ月もない。
それぞれ忙しく仕事をこなしていたある日、師匠から召集がかかった。
と言っても呼ばれたのは俺だけ。
なんだろう?
と思って妖狐の里から少し離れたコリナンクリン社長の住居に行く。
「かえるとき、よんでね。ステルはワタリガラスの赤ちゃん見てくる」
師匠から直々の呼び出しという事で、ステルも一緒に話し合いに出る。とか我儘は言わない。
広大な屋敷のノッカーを叩くと
「呼び立てしてごめんね」
白衣姿で出て来た師匠の傍には、実に意外な人物が立っていた。
「どうした?わしがいては邪魔か?」
「あんたはマルブのファンクラブに乗り込んでウザがられてたんじゃ無かったか?」
「ふん。忙しいところ抜けて来たんじゃ。しかもウザがられてなんかおらんぞ。"名誉会長"とか"先生"とか尊敬を集めておる」
「どうだか。師匠、なんで因業爺を?」
「もちろんマーリン師とウラナさんの力を借りたいからですよ」
「わしらの?」
「魔法使い・魔女協会が制定する"魔術師ランキングベスト10で、トップ3に入る実力のお二人ですから」
そう言う協会があるのは知らなかったが、レムリアでは男性の魔術師を魔法使い。女性の魔術師を魔女と呼ぶ習わしがあり、最近は看護婦じゃなく看護師とか、色々配慮があるので魔術師と括る事が多い。
師匠が言うのには、このベストテンは成果主義、すなわちこの一年にどれだけ凄い事をやったか?で順位がつく。魔法に対する造詣の深さ、とか使える呪文の数、とかは外部からはなかなか分からず、弟子同士の
「うちの先生は凄い」
「いやいや我が師こそ」
とか言い争いになるので、客観的に
「どんだけ凄い事をしたか?」
で得点化するらしい。
一位マーリン、二位ノヅリ師匠。そして何故か三位が俺なのだそうだ。
マーリンはここ1000年程二位以下になった事がない。
これとは別に
「最優秀魔術師賞(別名マーリン賞)」
と言うのがあって、こちらもマーリンが独占している。
全く大人気ない。
ちなみに魔術師の世界では善悪と言うものは殆ど問題にしないので、今回の第四位は大御所だったりする。
レムリアでの魔女は、治療とか結界術など、大衆的には地味に見える魔法を得意とする人が多く、ベストテンに入る事は殆どない。
だが唯一の例外、ここ千年でマーリンが一度だけトップの座を譲った相手は魔女だった。
説明するまでもないと思うが
「暴風の魔女 メル=ハバ(現:メルファ)」
である。
「で、トップ3が何を力を合わせる事があるんじゃ?」
明らかに機嫌が良くなったマーリンが言う。
「立ち話もなんですので、私の実験室にどうぞ」
結構長い廊下の突き当たりに金庫の様な鉄の扉があり
「KEEP OUT! ここには結界も呪いもかかっていない。だがこの扉を開けて入る者は多いが、出る者は少ない」
とか意味深な警告文が掲げてある。
「ああ、これは」
一歩踏み入れて分かったが、ここは浮遊神界だ。師匠もセト神から浮遊神界を授かったし、俺と一緒に野良神界を狩りに行った事もある。
これは所有者の許可無しで出る事は出来ないよなあ。
「いい感じじゃな。男のロマンが詰まっておる」
珍しくマーリンが人の物を褒める。
マーリンも別荘建築には煩いが、この師匠の私室は余人の介入を許さず、自分のリラックスのみを目的とした家具調度が、やかましくない程度に配置されている。
基本は彼の生まれたバクロン調だが、師匠が旅した各所で気に入った物がさりげなく置かれており、それがどれも俺たちプロ魔術師の感性を刺激する魔具だったりして、なんだか
「成人男性のワンダーランド」
みたいになっていて、羨ましい。
「師匠、これは商売に出来るレベルですよ。精密画に説明文を付けて『ノヅリセレクション・魔術師の休日』とか言う題名の雑誌を小金貨1枚位で売れば」
「うむ、小金貨2枚までなら定期購読しよう。最近いささかアウトドアにも飽きてきたのでな。参考になる」
「この部屋には男心の琴線に触れる何かがある。社長に言って、ビジネスにしたらどうかな?」
前世で言う
「モノマガジン」
とか、ああ言う奴だ。
何本か壁にかかっている、蓬莱やヤクスチランの名刀など、おそらく師匠は生涯使って戦う事はないだろう(師匠は魔法戦に杖さえ使わない)が、本来人殺しの道具であるはずのそれが、男子には堪らない。だがそれらのグッズが、武器マニアの様には主張していないのだ。
「いやいや、でもハニーはこの部屋嫌いなんだよな。殺風景だって」
そこがいいんじゃないか!女子供には分からない、男のロマンなのさ。
(※結局この企画を何人かの知り合いに見せたところ、シバヤンとかダガムリアルとかダンチビとかフィリッポスとか、一流の創造者達も強い関心を寄せたが、一番食いついて来たのは、なんとベンガニーだった。こう言う、仕事の合間にくつろぐ空間。と言うのは性別関係ないらしい。ベンガニーが説明文を書くと言いだし、さらに精密画をジェライスの父アンジェロ・三毛が描く。と言う、もう成功が約束された内容になったので、出版にノリノリだったリュナは小金貨3枚と言う、もうそれ雑誌じゃないだろ?と言う価格を設定したが、師匠が気に入ったダンチビ工房やアポルコミューンの気の利いた小物を付録に付ける。と言う戦略が功を奏して、初回予約は数日で埋まった。この後レムリアでは"ノヅリ・セレクション(ノヅリ好み)"と言う概念が定着したのである)
使役霊が飲み物を持って来る。
シバヤンの所の侍女人形に似ているが、性別は余り感じさせない。執事にも見える。これもいい趣味ですね。と褒めると
「いやあ、侍女姿にするとハニーが妬くんでね」
との事。参考になる。
「あれ?師匠コーヒーはお好きだったですっけ?」
と聞くと
「ミルクと砂糖をたっぷり入れれば飲める程度には。これは必要に迫られた時に、1日何倍も飲むんだよ」
なんか嫌な予感がしてきた。マーリンを見ると、奴もソワソワして来ている。
「ああわし、そろそろ3メタルファンクラブの会合に戻らんと」
「俺も妖狐の里村長と元筋肉兵の人材活用について話し合い…」
俺たちが席を立とうとすると、いきなり使役霊にガッチリ羽交締めされた。こいつら意外とタフだ。
「いいじゃありませんか。助けて下さいよ。僕だけじゃとても終わらなくて。ここはひとつレムリア三大魔術師の総力で、ね?」




