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18-25.前夜祭

転生したら転生してないの俺だけだった

~レムリア大陸放浪記~


18-25.前夜祭


いよいよ泣いても笑っても、明日が五大ドームツアーの初日。

妖狐の里公演の前日になった。

夕方辺りから里全体がソワソワした雰囲気に包まれている。

コンサート参加者の宿舎は、俺の持っている浮遊神界の一つに封じてある。

昼頃までは自由に里に繋がる門が開かれていたが、メルファが赴き

「明日の準備をするので、これ以降里に入る事は罷りならん」

と通達した。


当然客達は不満を訴えた。

妖狐の里公演ではアリーナ席は販売しないので全席指定。コンサートに並ぶ必要はない。

昼から開くグッズ販売のために徹夜で並ぶ気満々なのである。彼らは何日も徒歩でこの辺鄙な妖狐の里へやって来たので、野宿などは平気なのだ。

何組か、既にドーム前に野宿していた者達もいたが、ステルが鳥ジャガー姿で、居住地へ追い払った。

今頃アポルのコミューンでは明日に間に合わせるために交代勤務で24時間グッズを作り続けた人たちが、束の間の休息を楽しんでいるだろうが、この分だと早々の完売は必至。また次のマルブ公演目指してフル生産の依頼をせねばならないだろう。


チケットで確認しているので、全員が居住地に戻った事を確認の上、門に結界を張る。

なん人かが、面白半分に ボンダイビーチの人気スポーツ

「オラオラ」

の様に固い結界に向かいダイブしたが、神界の地面はボンダイビーチの様に砂浜でも専用マットを敷いてもいないので打撲傷を受け(後でオコが治療に向かった)、諦めて仲間内で3メタルの音楽をガンガンかけて盛り上がっていたが

「夜明けと共に門の結界が解け、グッズ販売に向けて全力疾走せねばならない」

事に気付いて、常識的な時刻で眠りについたらしい。


一方数は千人もいないが、若い聖狐天信者達もそれぞれの宿舎から出る事がない様に申しつけられた。

サンコンが

「コンサートにはチケットなき者は絶対に入れぬ。コンサートが終わるまで、おとなしくして居れば翌週、そなた達専用の礼拝を執り行おう。聖狐天教会は協力への感謝をその場で述べようぞ」

玉虫色の回答だが、彼らにはもう

「その時聖狐天様が来て下さる」

としか聞こえない。

(まあ可哀想なので立体映像(ホログラム)で聖子ちゃんに挨拶してもらったが。結構ミーハーなアイドルオタク気分でやって来た彼らは、多くは故郷に帰った後、布教に邁進する。記念品として授与した、俺原型のガチャポンサイズの聖狐天像を"本尊"として地元に分教会を作った者もいた)


ようやく二大困った勢力のカタがついた夕方から、ドーム内の椅子が一部取り払われ、300人程の宴会スペースを作る(俺が土魔法で作った椅子なので、設営、撤収は一瞬だ)。


舞台にはスクリーンが張られ、二体の狐面人形(プロジェクタ)が置かれる。さらに巨大なパラゴンも持ち込まれ、三娘がオペレーター席に付いている。

ギョウザ歌劇団オーショー団長、ベンガニー先生、劇団付きの舞台監督らスタッフが、熱心に見つめている。

劇団スタッフは今後の舞台

「3メタル物語 序」

のためのイメージを得るために、わざわざ妖狐の里まで来ているのである。


主賓は妖狐の里村長と聖狐天教会妖狐の里本山の大司教。大司教は好々爺の教団創立メンバーで、聖狐天に直に謁見出来る数少ない人間だ。

村長は普段は畑を耕している様な人なので、ドギマギしていたが、挨拶を求められて開口一番

「オラは農夫だ」

と始めて、割れんばかりの拍手を受けていた。

まるでスミティが書いた台本の様だった※。


※映画"ウッドストック"で、会場の地主が開会の挨拶で言った"I'm a farmer."は有名。


来賓は各開催地の代表者で、タリフのオーショー団長は先程紹介したが、ナイラスからはシオ・ラメン宰相。バクロンからはアポル王弟が派遣されて来た。これは儀礼と言うより、自分のところの開催の視察なので真剣だ。次回開催地のマルブからは、なんとチャガマン太守ご一家が来ている。実質の責任者である長男のボーノは来ると思っていたが、まさか一家で来るとは…。


「非常識じゃね、常考」

戦略ボードゲームオタクでもあるヒデノリがポロッとこぼしてリュナにど突かれていたが、彼の言い分ももっともだ。国主一家が揃って国外に休暇とは…。クーデターだの亡命だの思われても仕方ないだろう。

チャガムIV世太守は、かねてより聖地の妖狐の里教会に巡礼したいと言う強い願いを持っており、前妻の仇、貪欲王タンランのクルタン国が滅亡し、周辺が友好国ばかりになった今、国を留守にしても構わなかろう。と言う事で自慢の高速馬車を連ねてやって来たのだ。


もっともクルタン戦争の戦傷が元の病気が癒えてダイエットにも成功した太守は、義子ウメダの失踪以来、東の要衝サマランドにも遠征し事態を収拾しているし、大街道の治安維持や奴隷制度廃止にも精力的に遠征するアクティブな君主に生まれ変わったので、マルブの住民は信頼する太守が留守でも余り動揺しなかった。

しかしそれにしてもこの間夫人が産んだばかりの御曹司(末子相続なのでのちのチャガムV世となる)まで連れて来るとは…。


太守は聖狐天教を国教とせず、代わりに掲げた

「信教の自由」

に則り、宰相と議会に

「太守一家の休暇法案」

を要求してゴリ押ししてしまった。

被征服民でアンゴルモア遠征前のこの地の王族の地を引く宰相は

「それがしが国を乗っ取ってもいいのですか?」

と詰め寄ったが

「いいとも、わしもそろそろ引退したい」

と言われて苦笑いするしかなかった。


この英邁な太守なしでは、チャガマン国など3日も保たない事を長く国政を支えた宰相も家臣も判っているからだ。国民の多く、特に人口の3割を占める聖狐天教信者の支持は当然厚かったし、古い祖先神を信仰する宰相だが、妻はすでに聖狐天教に帰依していた。


「しかしながら、何が起こるかわかりません(僅かながら大御所がマルブを急襲して乗っ取る可能性もあった)。監視の者をマルブ近郊へ送っておきます」

二娘が言った。

「しかしながら聖狐天様には手勢をお持ちでないでありましょう?」

不思議そうに太守が尋ねると

「私の弟子と娘子軍20名を派遣します」

娘子軍とは、二娘がペンジクから連れてきた自動人形だが、これはナンバーズとは違い、指揮官が必要だ。


紹介された弟子を見て、オコはちょっと涙ぐんでいた。

オコの弟、12歳の御供は凛々しく挨拶した。

結局この出動は、彼の長い戦歴の初陣としては、戦史家は数えない。結局何も揉め事がなかったからだ。

太守のいないどさくさまぎれに悪さをしよう、などと言う頭の悪いゴロツキは、あらかた大御所に拉致されていたからな。

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