11-19.第五階層
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
11-19.第五階層
「とうとう二人きりになっちゃったわね」
オコが呟く。
ロマンチックなセリフだが、もちろんそんな場合ではない。
でもオコは俺の手をぎゅっと握った。
「アタシは多分ここまでだと思う。早く助けに来てね」
「それは判らないよ。この階層で俺しか解けない課題があるかも知れない」
「多分それはないと思う。メグは主人公。アタシのヒーローだからね」
ジョウザのボンと妖狐の歴史の中で、ボンより妖狐が長生きした例はない。
ボンが死ぬと、妖狐の命が終わるからだ。だが妖狐の方がボンより先に死んでしまった事が一回だけある。
暗殺者からボンを守って矢を受け、絶命した妖狐がいるのだ。
ボンには不殺の戒があるので、自ら命を絶つ事は出来ない。
周囲は次の妖狐を置く様ボンに進めたが、彼は首を縦に振らなかった。やがてそれでも妖狐の里から一人の赤子が送られて来たが、この娘は実は死産すべき定めだった胎児に、亡くなった妖狐が憑依したのだと言う。
ボンはこの娘を我が子の様に可愛がって育て、やがて老齢になりボンが入寂される時は、娘も共に亡くなったので、この事が判ったのだ。
俺がここで捕らえられるという事は
「もしかしてそのまま命を落とすかも知れない」
と言う事を意味する。師匠を除けば皆、殺しても死なない様な者ばかりだが、俺と師匠は生身の人間だ。
俺がここで命を落とすと、同時にオコの命もない。オコはその事を言っているのだ。
「四娘は全員無事に帰ってくるのが使命だと言った。俺も大丈夫さ」
全く根拠のない自信。もちろんゲームと違って残機を使って復活。とかはない。
「さて階段を探しましょう。でもその前に」
オコは自分のマジックポーチから、テーブルセットを取り出した。
「腹が減ってはドラゴンもトカゲ」
レムリアのことわざを言って、ランチの支度を始めた。
このへんの肝の据わり方は元妖狐らしい。調理中ならフライパンで戦う。と言うのが妖狐というものだ。
「確かにお腹すいたけど、他の連中も腹ペコだと思うと、申し訳ないな」
「一緒にお弁当を作って、みんなが解放されたら、すぐ食べさせてあげましょう」
実は旅の最中、キャンプで毎食を作るのは俺の方が多いのだが、オコはジョウザでの妖狐生活で料理は徹底的に仕込まれている。
行儀作法や掃除洗濯(例の水汲みも)は侍女頭のおばさんに習っていたのだが、武術(ボンを守る為)と料理はタンジンに仕込まれていた。
昔の傭兵時代の古い革鎧を着たタンジンは厳しい師匠で、オコには木剣を持たせなかった(侍女が剣を佩く事はないため)ので、稽古の後は青あざだらけで、俺に軟膏を塗ってもらいながら
「あのクソ親父が」
とか悪態をついていた。
料理は例のメイド衣装を着て(萎)、丁寧に教えてくれた。俺も武術は不要と言われた。攻撃技も攻撃魔法も、基本俺には使えない。今も危険を察知して勝手に飛び出す小刀だけが俺の武装だ。料理は教えてくれた。
各地から不思議な大鉢(托鉢と呼ばれる)に毎日信者から喜捨される食材は、魚や肉はきちんと処理され、スーパーでパックに入って売られる様な切り身の形で送られてくるので、例えばウサギや鳥をどう処理するかは調理人は知らない。しかしテンジンは、そう言った鳥獣肉の処理も教えてくれた。ジョウザが陥落し、ボンが亡命の旅をしなくてはならない状況を想定しての事らしい(実際過去数回あった)。
これは旅に出てからどれだけ役立ったか判らない。あのメイド装束には参ったけれども。
俺の時間経過なしマジックポーチにしまってあった鹿肉をローストし、ナイラスの平たいパンに挟んで食べていると、トントン。と背中を叩くものがいる。
振り向くと、一人の少年が立っていた。
「ボクニモチョウダイ」
誰だお前?と思ったが、オコはサンドイッチの一切れを与える。
「オイシイ。モットチョウダイ」
「オナカスイタ。ベツノガホシイ」
鹿肉サンドイッチの最後の一切れには手を付けず、皿を差し出す。
「モット、モット。ベツノヤツ」
小柄なのに、滅茶苦茶食べる。オコが作っているうちに、さっきのサンドイッチも食べてしまった。
「コンドハ、トリノ、マルヤキガタベタイ」
「ごめんね。今鶏肉は切らしてて」
オコが言うと、少年は指をパチンと鳴らす。
10羽程の山鳥が飛んでくる。
オコが弓を取り出して、全部仕留める。
「ウマイネエ。オネイサン。リョウリモ、ウマイケド」
微笑む少年の顔はあどけないが、目は狡猾そうに光っていた。
オコはため息をつく。
「判ったわ。あんたが満足するまで、色々な料理を作ってあげるから、さっさと出しなさいよ」
少年はニヤリと笑って
「ハナシガ、ハヤイネエ。オネエサン」
と言って、指ををまたパチンと鳴らす。
階段が現れた。
「メグ、早く行って!」
「待てよ。料理なら俺だって…」
「メグじゃダメなの」
そうだ俺のキャンプ料理のレパートリーは少ない。それに鳥獣を殺したりも出来ないのだ。
「アタラシイ、リョウリガ、デキナクナッタラ、オマエヲ、クッテヤル」
とシェヘラザードに告げる王様の様に、暴食鬼が告げる言葉を聞きながら、俺は急いで階段を降りた。




