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11-18.第四階層

転生したら転生してないの俺だけだった

~レムリア大陸放浪記~


11-18.第四階層


俺はジョウザ宮殿の中庭に居た。

「主上!どこにおられますか?」

使用人が走り回っている。

座学や魔法学は好きなのだが、俺はすぐ覚えてしまうので、家庭教師の招聘代が嵩んで困る。と神殿長のキンランがこぼす。キンランは頭の固い男で、ボン様は醍醐教ジョウザ派の教えだけを学んでいればいい。と言う考えで、ボンが余り教養や魔術を身に付けるのは修行の邪魔だと言う。


育て親であるタンジン侍従長は、元武人の裏表のない人で、厳しいけどいつも俺の事を気にかけてくれている。

俺には父母がいない。いや親から生まれない人間はいないので居たのだろうが、俺は赤子の時にジョウザに連れてこられ、次期ボンになるための教育を受けている。


俺には義理の姉がいる。妖狐(ヨウコ)と言うこの娘も幼い時にここへ来て、俺の身の周りの世話をする侍女として一生仕えるため、一緒に暮らしている。ヨウコは俺より一歳年上なので、今12歳だ。ヨウコにも父母はいないが、出身はわかっている。歴代のボンに仕える妖狐は皆、妖狐の里から来るのだ。


今ヨウコは宮殿にいない。

妖狐は一生ボンの側を離れず仕える決まりだ。

しかし今回俺はヨウコの里帰りを提案した。

俺はこの宮殿の主人なので、大抵の我儘は通るが、今回は難航した。キンランが大反対だったのだ。しきたりにない。と言う理由で。


俺は座学でナイラス史を学び、かつてその国の民が、給料が安いと不平を言って、王墓の建築を拒否した事がある。という事を学んだ。ナイラス史の先生は

「民の不満をなおざりにすると、国が傾く事になります。為政者は気をつけねばなりません」

と言っていた。


俺はもっともだと思い、まず宮殿の使用人に休暇制度を敷いた。これは好評で、特に行儀見習いの為に宮殿に上がっている侍女達は、近隣の貴族や有力者の娘で、花嫁修行のためジョウザに上がるのだが、従来は3年間は一切家に帰れなかった。これは気の毒ではないか?と言う事で、夏の盛りと年末年始の数日間は帰省して良いとの決まりを作った。宮殿では下働きの侍女でも、国に帰ればお嬢様なので、親には大変感謝され、特に貴族階級の娘などは、帰省中にお見合いをする事もあった様だ。


この娘達は、元々花嫁修行とか、縁談に箔をつけるためジョウザに上がるので、年季が明けるとそのまま結婚する場合が多い。国元では俺に感謝し、ボンがくれた休暇。と言う事で

「ボンクレの宿下り」

と呼んで、お祭り騒ぎになっているそうだ。


ところが侍女たちがヨウコがこの宿下りをしない事を問題にし始めた。

侍女たちはヨウコより年上が多いが、幼い頃から俺に仕えるヨウコを女神の様に神聖視しており、なぜヨウコ様は宿下りをなされないのか?自分達だけがお休みを頂くのは、申し訳ない。

なんとかヨウコ様も宿下りを。と俺に直訴して来た。


ヨウコ自身は故郷の記憶などないので、別に妖狐の里に行ってみたいとは思わず、むしろ俺の側を離れたくない(愛されているのだ)と言ったのだが、俺はむしろ宿下りを勧めた。だってヨウコにも本当の親はいたはずだ。俺の親は誰だか判らず、我が子がボンになるのは名誉な事で、多額の支度金が出るので、俺は親に売られた。と思っているので何の未練もないが、ヨウコはそうではない。代々妖狐をジョウザに送るしきたりのためにある妖狐の里だが、調べれば多分ヨウコの親は今も暮らしているはずなのだ。


今日は俺はタンジンから逃げて来て隠れている。タンジンは俺やヨウコの事を父親の様に愛し、それは感謝しているのだが、いささか過保護というか、愛が過剰で正直迷惑な事がある。


ヨウコの宿下りをキンランに納得させる時、タンジンは

「ヨウコ様不在の間は自分が代わりに主上の身の回りのお世話をする」

と言った。キンランは

「ほう、それではタンジン殿はヨウコ様の侍女装束を身に付けて世話をなさるのか?」

と嘲笑した。それに対しタンジンは

「よかろう」

と言い、侍女装束を着て俺の世話をしている。

おっさんのメイド姿である。相当気味が悪い。

タンジンはそう言う真面目な男なのだ。

暑苦しくて、俺は居室を抜け出して、こうして中庭の生け垣に隠れているわけだ。


「メグ?こんな所で何してるの?」

突然声をかけられた。この秘密基地は俺とヨウコしか知らないはずなのに。

「あ!オコ(ねえ)。もう帰って来たの?」

「うん、仮宿(ホームステイ)先はいいご夫婦だったんだけど、やっぱりメグに会いたくて早めに帰って来たの」

「オコ姉!寂しかったよ。タンジンがね。気持ち悪いの」


「こないだも言ったけど、メグももう11歳なのだから、私はメグの事を主上。メグは私をヨウコ。と呼び捨てにしなければいけないのよ。身分が違うんだから」

「そんな事言ったって、オコ姉はオコ姉だよ。大きくなったら俺はオコ姉と結婚するんだ」

「そう出来たら、いいのにねえ。メグったら家臣の前ではいっぱしの大人なのに、二人だと赤ちゃんなんだから」

オコ姉ちゃん(幼い時に俺が"ヨウコ姉ちゃん"と言えなかった頃からの呼び名)は、俺の頭を優しく抱いてくれた。


と言う所で我にかえる。

ここはどこだ?洞窟の様だ。奥から何か呻き声が聞こえる。

幸せそうに、自分の膝小僧を

「よしよし。いい子いい子」

と撫でているオコを揺り起こし、洞窟の奥に進む。念のためオコはオルコンの弓に矢をつがえている。


「ウラナ…くん。気がついたか」

見ると師匠が白い糸にグルグル巻きにされ、天井から吊り下げられていた。

「うわっ!」

オコが叫ぶ。足元に巨大な蜘蛛が腹を見せて死んでいた。どうやら師匠が激しい魔法戦の末、退治したらしい。


「師匠!今糸を切って下ろします」

「いやそのままでいい。その蜘蛛はこの階層の主で、獲物に一番楽しかった頃の幻を見せて眠らせ、喰らう化け物だ」

「一番楽しかった思い出?だからあたしが初めての宿下りから帰ってメグに会う夢を見てたのね」

同じだ。ちょっと嬉しい。


「なぜ助けては行けないんですか?」

「その蜘蛛をどけてごらん」

オコが全長3mはある大蜘蛛を蹴っ飛ばすと、下から階段が出てきた。

「ここで一人囚われて、その上蜘蛛を倒すのが条件だった様だ。このまま進みなさい」

「師匠!師匠の尊い死は無駄にしません!」

「死んでないから、ちゃっちゃと一番下まで行って、早く助けて」


オコが

「ノヅリ先生は何かいい夢見たんですか?」

と聞くと、天井から

「当たり前じゃないか!ハニーとあんな事やこんな事…」

と言う声を聞かぬ様、俺たちは階段を下りた。

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