9-21. オシリス
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
9-21. オシリス
神殿に進むと、帷が玉座にかけられ、
オシリスが座っているようだった。
「オシリス様。 ご報告いたしましたウラナ様です」
「……」
返事がない。ただのしかばね。ではない。
「ジンルイノダイヒョウダネ?」
絵に描いたような人口音声。
「オシリス様は、声を出す事ができません」
「はい。私が人類の代表ウラナ・ストロです」
私は歴史家としての作家名で答えた。
「ナニカキキタイコトガアルト?」
「はい。弟様のセト様について」
「セト?キイタコトガナイガ…」
どう言う事だ?確かにオシリスはセトに殺害され、マァトの審判を受け、ラーの仲介によって仲直りしたはずだ。
「今回の面会はここまで。と言う事で」
マァトが言って、俺たちは退室した。
「びっくりされたでしょう。父はあの状態なのです」
アヌビスが淡々と状況を語った。
「私が再生させた父はあそこまでです。喉を含む頭部が損傷しています。冥王としての職務は十全に果たしますが、記憶の多くが欠落している。感情も余り現れていないので、それも失われているのかも知れません」
大氷原で見せた、アヌビスの神業としか言えない(神だけに)修復再生術をしても、オシリスを完全には再生できなかったのか。
「殺害された時の状況をオシリス様は?」
「全く覚えていないようです。本来ならば冥王の職務も引退させてあげたいのですが、一度死んで復活した王としての権威はナイラスの人々に大きな影響があり、死後の世界が安定している事が民の生前の生涯を安定させる。と言う面があるため」
高校の倫社で習ったが、世界中にの宗教が存在する究極の理由は
『死んだらどうなるか?』
である。俺はまさか転生するとは思ってもいなかったが、日本人は漠然と仏教的な輪廻転生を信じている人が多いと思う。
ナイラス人もミイラになれば復活出来る。と言う信仰があるので、人生を安穏に暮らせるのだろう。その元締めとして、一度死んで蘇った。つまり死に勝利した神はうってつけだ。この辺はキリスト教にも近い気がするな。
「気が進まなければいいけれど、君が父上の破片を集めて修復した時の経緯を教えてくれないか?セトは本当に兄殺しなのか?」
「そうですね。あの頃はまだ少年だったので、トラウマみたいになって、余り人に語った事はないのですが」
そうだろうな。アヌビスがどんな思いだったか?想像を絶するものがある。しかもナイラスを治める神の子に尋問する事も出来ず、公式の調書などもないので、全ては憶測が流布したのだ。
「判りました。思い出す事が出来ない所もありますが、語ってみましょう」
しばらくの逡巡ののち、アヌビスは口を開いた。
父上が亡くなった衝撃で、記憶が飛んでいて、記憶を掘り起こすのに時間がかかる。と前置きして
「私が父の死を知ったのは、伯母イシスの下にいた時でした」
隠れていたのだな。
オコとコンコンが身を乗り出す。
女性は事件もの好きだなあ。女性週刊誌にはよく残虐事件の記事とかが多い気がする。
そう言えばウイークエンダーなんて言うテレビ番組も凄い視聴率だったんだよなあ。
「父の死を知らせてくれたのは、叔父のセトでした」
コントではなく、俺たちは椅子から転げ落ちた。
「アヌビス、君はセト様の手から逃れるために、イシス様に匿われていたのでは?」
「伯母がそう言う事にしておけ。と言うので否定はしませんでしたが、私が逃げていたのは母のネフティスからです」
座りなおしたのに、また椅子から落ちた。この畳み掛けはドリフ系だな。
「なぜ実の母が?!」
オコが東スポの見出しの様に言う。
「母は、オシリスを慕っていましたが、子供の頃から華のある姉と比べて陰気な自分を卑下していました。浮気がバレて夫セトの怒りを買い、大好きなオシリスを窮地に落とし入れる事になり、母は性格が変わってしまったのです。この子さえ生まれてこなければ。と母は赤子の私を殺そうとしました。間一髪伯母のイシスに私は助けられ、匿われたのです」
なるほどなあ。
「一方セトは一度は激怒したのですが、最後はアヌビスには罪はない。自分の息子として育てよう。とも思っていたようです。結果的に母がそんな針のムシロの様な生活を望まなかったので、離婚したのですが。」
今は改心した女神ネフティスは、冥界で魂が羽毛より重い罪を犯した亡者の浄化を助け
『死者を守る女神』
として崇拝されている。一度は罪を犯した神の方が信用出来る。と言うのはバクロンのエルロンに似ている。
「叔父は伯母には内緒で時々私に手紙をくれ、励ましてくれました。そのセトが父が死に、破片が神界のナイラス川に落ちた。と告げて来たのです」
やはり神界の方の川だったか。
「セトは酷く落ち込んで、手紙は私に謝罪する文面でした」
やっぱり犯人はセトだったのか?




