9-20.マァト
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
9-20.マァト
「マァト様はラー様と虚無の女神様の間に生まれた。とお聞きしておりますが」
「私は何も持っていない。と言う時、『私は虚無を持っている』と言う言い回しがありますでしょ?」
「はい」
日本語にはない表現だが、確かにそう言う表現が特にアーリア語系の言語にはある。数学では"0"を最初に発明したのは、やはりアーリア系のインド人だが
『何もないもの』
を現実の対極において、太陽神ラーが全ての望みを失った心理を
「虚無の女神に囚われた」
と表現しているだけなのか。
「ではマァト様はラー様の」
「娘ですわ。神は独りで子を成す事が出来るのです」
確かにキャーリーはパトゥニーの美白術の結果、老廃物として生じた垢の様なものから生まれているので、シバヤンの子ではない。と言えるが、事の原因がシバヤンの心ない言葉であるし、婚姻関係でもあるので、シバヤンにとってはキャーリーは可愛い娘なのだが、キャーリーはそうは思わず、結局父娘の不和を生んでしまった。マァトもラーの心の暗黒面から生じているため、母がいない。と言う何かの葛藤があるのかもしれない。
「しかし、マァト様をラー様の元に送り届けた方がおられますよね。虚無の女神だから実在しない。と言うのは一概には言えないのでは?」
「その事は運命だったとしか言えないのです。私は赤子の姿で葦のゆりかごに入って、神界のナイラス川に流れ着いたそうですが、私にはレムリア様の御心としか」
旧約聖書のモーゼの生い立ちにも似ているな。モーセはイスラエル人だが、ゆりかごをエジプトの王女が拾い、宮廷で育てられ、後にイスラエル人をエジプトから脱出させた。それにしても、神界にもナイラス川があるのだな。オシリスの破片が捨てられたのもこの神界のナイラス川なのかも知れない。
なんかこの女神様の事も気になりだした。
「マァト、この二人の死者の書を書いてみたのですが」
アヌビスがメモ書きを手渡す。
マァトは目を通し
「アヌビス。これではお二人が戻る時、ミイラがないと復活できませんわよ」
なんかお互い呼び捨てで仲の良い同僚。といった感じだ。
「そうか。やっぱり一般的な死者の書の先入観を取り払わねばならないな」
「お二人の履歴を簡単に記して、オシリス様にお会いしたい旨書き述べればよろしいのでは?」
「だが父上は面談はお受けにならないのだ」
「ウラナ様、そもそも貴方がたの真の目的は何ですの?」
俺はここへ来た経緯を説明した。
1.異世界ゴンドワナとレムリアの絆として、ヴァルガに予言された犬人と橇犬の子供達の絆を完成させたい事。
2.その為犬と犬人の神マルモ屋の力を借りようと神界を訪れた所、マルモ屋がナイラスで不思議な事件に巻き込まれた事。
3.それはナイラスで発見された魔具によって起こった事件で、マルモ屋が見た事もない神界に送られ犬の姿で戻ってきた事。
4.その魔具を調べにナイラス川上流のメンフィスの神殿に行った所、セトについての普通とは異なる伝承を聞いた事。
5.セトの事も気になったのでオシリスに面会したい事。
「なんか脈絡がありませんね。魔具の秘密とセト様の真実には、何の関係もないでしょう?」
「ああ。まあそうですよね。魔具はこれから考えるとして、俺は人類の代表と言うお節介を焼く仕事なので、セト神の事を聞くと黙ってはいられないんです。今マァト様のお母様の事も、気になって仕方がないのです」
「まあ、苦労性な方ですね。でも魔具の事は、満更的外れではないのですわ」
何だって?それは一体。
「その魔具を作ったのはセト様だからです」
「「ええ?」」
俺たちは声を上げた。
「とりあえず、オシリス様にお会いして下さい。わたくしが話をしておきます。それからセト様から、魔具の事をお聞きになればいいと思います。もちろんウラナ様の本来の目的に魔具が役に立つかどうかはわからないですが」
しかし、俺たちの気まぐれお節介が、ここで繋がるとは。
「ではアヌビス、お二人の死者の書を」
「履歴の後には何と?」
「セト様の件で、オシリス様にお会いしたい。委細はマァトより話した通り。とだけ」




