9-22.誰が殺したオシリス神
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
9-22.誰が殺したオシリス神
「犯人が自白したのね?」
オコがまた直球を投げてくる。
だがこれはわざとボール球を投げている。
誰もが到達出来る結論に、さも知らない事の様に質問するインタヴュアーの様に。
「いえ叔父は自分が殺したとは言っていませんでした」
だから俺たちは椅子から転げ落ちなかった。
「では何を謝っていたんですか?」
師匠の灰色の脳細胞が稼働し始める。
「兄を助けられなかった。と」
事故だったというのか?
それとも別に真犯人がおり、その魔手から救えなかったというのか?
「オシリス様の死体を発見したセト様はそれを切り刻んで川に捨てたと?」
これも一番遠い推理から潰して行くセオリーだ。
「叔父は『兄の死体が川に落ちた』と言いました」
まあギリギリ
『刻んで川に放り投げたら落ちた』
とも取れる表現だが、これは詭弁が過ぎる。
子供が空き地で野球をしていて窓ガラスを割り、神成さんが
「こら〜!」
と怒ると
「ガラスが割れました」
「割れましたじゃないだろ!誰が割ったんだ?」
「ボールです」
と言う様な詭弁のシーンがあるが、
大人でも謝罪記者会見とかで、同じ様なロジックをたまに見受ける。
セトはそんな無責任な大人より、誠実なはずだ。
「叔父はそれしか言わなかったです。『俺の責任だ』と」
「マァトさんは審判を担当されたのですよね?」
「はい。でも人間とは違って、神々の魂は計量出来ませんし、死者の書にも記述はありません」
マァトは現物を見せてくれたが、単純な記号が2つ書かれていただけだった。
「審判の時のセト様の様子は?」
「黙秘されていました」
「黙秘と言うより」
アヌビスが口を挟む。
「黙秘と言うより?」
「いや、なんでもありません」
気になるな。
「ちょっと途中経過を整理しようか?」
師匠が切り出す。
「敬称略で行くよ。セトの妻ネフティスが不貞を働き、アヌビスを身籠った。セトは激怒したが、結局妻を許しアヌビスを息子として育てようとした。ネフティスは逆恨みしてアヌビスを殺そうとしたので、ネフティスの姉イシスはアヌビスを匿った。セトはアヌビスと連絡を取っていたが、ある日アヌビスの実の父オシリスが死んだ。と告げた。死体はバラバラに川に 投げられた。と。今ココまでかな?」
「そうですね、師匠」
「で、これが殺人事件だとすると」
「「「「はい?」」」」
「容疑者は5人いる」
「5人ですか?」
「まずセト。これは世間的に最も疑われている人物だ。妻を寝取られて怒りが暴発。とか」
「でも父は私を息子として」
アヌビス、今"父"って言ったな?
「まあ推理の道すじを立てるためだ。色々矛盾点があるから真相がはっきりする」
師匠はそう言って指を二本立てた。
「次はイシスだ。夫が浮気をして怒らない妻はいないだろう」
もちろん夫オシリスには非はない。だが理性では判っていても、感情ではそうは行かないだろう。仲の良かった姉妹だけに裏切られた感もあるだろうし、やっぱり夫が許せないのかも。
「でもイシスさんの線は薄いわね」
「せやなイシスはんはないわ」
「うんイシスおばちゃんいい人」
女性陣の評判はイシスノンギルティだ。
「ただ、小説だと一番怪しくない人が犯人なのよね」
ベンガニー小説の悪影響だな。
「3人目はネフティスだ。自分が誘惑した事が原因だから、オシリスを殺す動機はない様だが、仲の良い姉妹。しかもオシリス、セトの兄弟とも幼馴染で、結局自分だけが離婚して孤独になってしまった。一方でオシリスへの恋慕は消えなかった。そのためオシリスを永遠に独り占めしようと」
「でもネフティスは改心して」
「今のネフティスは冥王オシリスを主として、懺悔の毎日を送っている様にも見える」
「4人目はオシリス自身」
「薬を盛られたとは言え、妻を裏切ってしまった自責の念ね」
「でもそれなら誰がオシリスの体をバラバラに?」
「自殺なら遺書くらいありそうやし」
「これで4人ですよね。ノヅリ殿は5人と言われました。あと一人は?」
アヌビスが首をひねる。
師匠はこれ以上はないというくらいに格好を付けて、指差す。
「5人目は君だよ。アヌビス」




