9-18.セト教
※第9部の主な登場人物
◯旅の仲間
メグル(ウラナ)…主人公。元ボン76世(未)。旅行家志望。生真面目な15歳と結構浮気症な66歳が同居している。"国民的英雄"に加え、"改革者"の称号を獲得。更にマーリンから"人類の代表"を押し付けられる。
聖狐天の父となる。
オコ…メグルの妻の元妖狐。メグルとの子作りを夢見ている。弓の達人。弱者の味方で直情的。聖狐天の母となる。
コンコン…先先代妖狐。子狐と伎芸天女の童女に憑依できる。
ステル(ラン子)…鳥ジャガー神。ラン(獅子)とヘレン(白虎)の娘。メグルをあるじと慕う優しい少女。第6章で進化を遂げ成体、幼体(子猫)以外に猫耳娘の形態をとる。
パーサ…元八娘2号。シバヤンから譲渡され、メグルの侍女となった名古屋弁美少女。諜報活動に大活躍。自称第二夫人。大型肉食獣アヌビスに変身出来る。
ノヅリ…バクロン第3王子。魔法省長官を辞し魔法修行の旅に出る。メグルの師匠。コリナンクリンの恋人。
コリナンクリン…ワタリガラスの鳥神。運送業ワタリガラス商会の女社長。ノヅリの恋人。
◯神界の住人
マルモ屋…亡き犬達の記憶を全て持っている。絶滅した犬人を探している。
ドスル…放浪者。トリックスターの異名を持つ。
◯ナイラス神界
アヌビス…ミイラ製造者の神。父はセトだが、実の父はオシリス。オシリスの体を繋ぎ合せて再生する。母はネフティス。パーサを妹とし、マァトに思いを寄せている。
セト…河馬頭の神。オシリスの弟。ネフティスの夫。
ネフティス…セトの妻だがオシリスに懸想し、オシリスと交わってアヌビスを生む。
イシス…オシリスの夫。ネフティスの姉。アヌビスを匿って育てる。
ラー…太陽神。
マァト…ラーの娘。アヌビスに思いを寄せている。
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
9-18.セト教
「私たちセト教徒は、ナイラスや他の神々を否定するつもりはありません。セト様の無念を思えば他の神々を信仰する気にはならないだけなのです」
ナセリと言う名の若き神官は、涙を流した。
厳密な意味での一神教ではない様だ。キリスト教もイスラム教も、他の宗教や神々を認めないからな。
しかし、これはフラグなんだろうなあ…。
「ちょっと回り道になるけど、話を聞きに行くしかないなあ…」
「セト様の所ですか?」
「いやオシリス神だよ」
「なぜオシリス様の所へ?」
ナセリは意外そうに言った。
「いや、少し気になる事があってね」
「じゃあこれから?」
とオコが聞く。主婦としては旅の食材買い出しの事を計算しているのだろう。
「いやまずアヌビスに会おうと思う」
「ちょっと待って下さい!オシリス神に会うとか、アヌビス様に会うとか、貴方がたは一体何者なんです?」
「いやただの人類の代表ですよ。俺の仕事は人間や神々の間の揉め事を調停する事なんです」
「バクロンの『投獄された神』エルロンを助けたのはこのウラナ殿なんです」
同じ様な冤罪で投獄されたバクロンの沈黙の神はナイラスでも知られており、何かここの神官達は共感を持っていた様だ。
「セト様の名誉回復を?」
ナセリは期待半分、疑い半分でそう言った。
「お願い申し上げます」
気がつくと、麻痺から覚めた神官達が正座して平伏していた。
パーサの電撃は行動を奪うだけの弱いものだったので、耳は聴こえていた様だ。
「では、協力して下さい。207年前に何があったのかを」
神官長が記録を持ってきた。
「このリボ村と言うのは?」
師匠が聞く。
「当時あった開拓村で、遺跡に一番近い山中にあったので、遺物を発掘しては、首都ラースに売りに行ったりしていた様です。革命の時、全員離村して強制移住しています」
カライ大佐がプトマス王朝を打倒し、軍事政権を樹立した時、ナイラスを鎖国し国内で自給するため、大規模な農業改革を行った。この時新しい大農場の労働力として、地方から多くの民が動員されたと言う。
ミスリル(アルミニウム)の輸出で栄えていたナイラスは、農産物の多くを輸入に頼っていた(レナウンの杉材もその一つ)。ミスリルを雷魔法で精製する方法が流出し、輸出が振るわなくなってもそれは変わらず、ナイラスの財政はどんどん苦しくなった。その上クルタンの貪欲王タンランの策略で麻薬が蔓延し、ナイラスは滅亡寸前だった。カライ大佐は革命を起こし、中毒者にされていたプトマス94世を退位させ、軍事政権を敷いたのだった。
「じゃあその民が、あの魔具の事を知っている可能性があると?」
「魔具?何の事ですか?」
ナセリが聞く。
俺は俺達がここに来た目的は、ドスルがナイラスで手に入れた不思議な魔具の調査である事を告げた。
「それって御神体の事かな?」
ナイラスが持って来た、壊れた首輪は、まさしく先日マルモ屋の首から引きちぎったものと同じだった。
「これをどこで?」
「昔から神殿にあり、セト様ゆかりの御神体。と呼ばれています」
セト様ゆかり?
これはセトにも聞かなければならなくなったな。
俺達はナセリに礼を言って首都に戻った。
「おお!いいところに。鰻、かなり改良されたぞ!」
相変わらず鰻の奥の座敷に陣取ったドスルはマルモ屋と共に鰻を頬張っていた。
「大将、鰻丼7つ!」
やがて鰻が運ばれて来た。
「どう思う?」
「おいしおいし」
「まあ、イナリさんとこでいただいたんに近くなったな」
「結構だわ。これなら各地で売れるかも」
「このタレがいいねえ」
「美味しいですね。ただちょっと」
俺の一言に全員の箸が止まった。
「皮が固い様な。身も少しパサついて」
「そうだろう?私が蓬莱で食べたのとは少し」
「もしかして、ここの鰻って大きいから」
確かにナイラス川のは大鰻だった。
「ここの店、何で焼いてます?」
「石炭だよ」
温度が高すぎるのだ。俺が最初調理した時、ちゃんとしたルディン村産の炭で焼いた。だがナイラスには木材がない。
「火からもっと遠ざけて、それから蓬莱(日本)の東部では、素焼きした串を一度蒸してからタレを付けて焼きます。こちらの方が柔らかくなる。柔らか過ぎて俺は好きでは無かったけれど」
「なるほど。予め蒸して置けば、遠火で焼いても生焼けにならない訳だね。早速店主に教えよう」
食事後、俺はドスルに、あの魔具をどこで買ったか聞いたが、それは千年も前で、その店は既にないとの事だった。
「では俺達、一度アヌビスと冥界に行ってきます」
社長は運送会社社長業をこれ以上休めないので、不参加との事。最近毎晩の様にオルフェから泣きが入っている様だ。
師匠はラースに残って、離村した村民を探すとの事だった。上手く行けばあの魔具の未使用品が手に入るかも。
俺達家族五人は、ステルのパリトネカビルでナイラスの神界に向かった。




