9-14.出帆
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
9-14.出帆
シバヤンはナンバーズに感情を与えた。
だから悔しい時には泣くのだ。
だから多分76件はのべ76人の悔し涙から出来ている気がする。
ナンバーズにとって主君から命ぜられた課題を果たす事が出来ない。つまり事件が解決出来なかった事は、彼女のキャリアの汚点であり、恥ずべき失敗なのだ。彼女たちはかなり凹んだと思う。
ボンダイの時も浜辺の怪現象を解決出来なかった八娘's(パー子とパーサ)も、かなり焦っていた。その点で、パーサは俺に深い感謝の念を持っており、俺に忠誠を誓う様になった(恋愛感情は困るのだが)。
「つまりナイラスで起こった拉致事件は解決されていないと」
「そう思うんだよ。アヌビスさんは、この事件知ってた?」
「いや知らないです。200年前と言うと鎖国前なので、色々外国人も入っていて全て把握していないですね。ただその事件で死者は出ていないと思います」
「どうして?」
「死者は全てミイラ師協会に連絡があるので」
なるほど。
「王宮に行けば記録があるんじゃないかな?」
師匠が提案する。
「では私はここで。パーサ、一緒に神界行くかい?」
「やめとくわ。こないだちょっとおそがかったで」
前回記録の神殿でアヌビスと休暇を過ごした時、アヌビスはちょっとナイラスの神界に立ち寄ったらしい。そこで彼女さんに物凄い目で睨まれたとか。
マァトは太陽王ラーの娘で、冥界で冥王オシリスの裁判を手伝っている。アヌビスも冥界に行った時は手伝うのだがミイラ師との二足のわらじなので、アヌビス不在の折にはマァトが死者の審判を手伝う。
例の
『死者の魂が羽毛より重いか?』
と言う奴だ。
つまり父親の秘書で、しかも得意先のお嬢さんなので、迂闊に告ったり出来ない。そのため周囲は何千年もヤキモキしているらしい。
マァトとしても、ナイラスには鳥獣の化身を持つ神々が多い(女神には少ない)ので、アヌビスの動物型の恋愛観と、人型の時の恋愛観は無関係なのは承知しているのだが、やっぱり二頭のアヌビス兄妹が仲良くしているのを見て、心穏やかで無かったらしい。
煮え切らない二人の関係が、パーサのせいでこじれないといいのだが…。と心配していたら、オコに笑われた。
「マァトさん焦って積極的になるに決まってるじゃない」
そう言うもんかね。
その辺の少女漫画的展開は、朴念仁の俺には分からない。
ドスルとマルモ屋も留守番すると言う。
まあ、事件現場とかにこの二人が行かない方がいいだろう。
「なんかあったら呼ぶよ。どこに居る?」
「「鰻屋!」」
「閉店の時間中は?」
「テント持ってきてるよ」
とドスルが荷物を指差す。あの三角形のテントだ。
と言う訳でまた七人になった俺たちは王宮を目指す。
城門で誰何されたが、俺と師匠の名を出したらフリーパスだった。特に師匠の名を聞いた門衛は震え上がっていた。
「よくいらっしゃいました。人類の代表様。そして大魔王様」
国王プトマス95世は、にこやかに俺たちを迎えた。
「おいおい僕はただの知りたがりの魔術師だよ」
師匠は不満そうだ。
師匠は前回のナイラス訪問の際、レムリアに轟く魔術軍を試合でほぼ潰滅させ、魔術師養成学校で教官として教鞭をとった数ヶ月で優秀な新人を数千人養成した。憎むべき敵で崇拝される教師。と言うもうやりたい放題で、しかもナイラスの魔術を根こそぎ自家薬籠中に納めてしまった。魔王扱いも仕方ないと思う。
「今回はどんな御用ですか?」
「200年程前の記録を調べさせて欲しいんだ」
「どんな?」
俺は今回の概要を話した。
「ああ、それなら警邏記録か、或いは怪奇現象だと神殿に届けたかも知れないので、神官の記録かも知れないですね」
いずれにしても首都には無く、事件の起こった管轄の地方に行かねばならないそうだ。
「一緒にお供したいのですが、あいにく政治改革がまだ終わっておらず、私も大佐も都を留守に出来ないのです」
王はかつての上司。現在の宰相を大佐と呼んだ。
代わりに勅令をしたため、預けてくれた。
『この令を持つ者は王の代理であり、その要望を全てかなえる様に』
と言う文書である。
「ありがとうございます」
「帰りには立ち寄って必ず報告して下さいね」
さすがにこれだけの勅許状だと、いくら国王の権力が大きくても、何に使ったかを臣下に説明しなくてはならないらしい。
「お舟もいいね」
葦を編んだ舟はオールで漕いで川の流れを遡るのだが、帆もあったので、風魔法で帆を孕ませてグイグイ上流に進む。
「おさかな、おさかな。おいしそう」
ステルはご機嫌だ。




