9-13.仮説
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
9-13.仮説
「ドスルさんどこ行ってたんですか?」
マルモ屋が、ちゃんとした言葉で話す。
どうやら完全に戻っている様だ。
「それはこっちの話だよ。まあともかく私の持っていた魔具が迷惑をかけた様だ」
「それで、その声の主は何者でしょう?」
師匠が聞く。もう名探偵ノズルの灰色の脳細胞は、新しい謎の解決に向けて演算を開始している。
「ちょとまっとりゃあて。一娘様の資料庫(データベースで、よく似た伝承を探しとるで」
こっちも超演算装置が活動開始だ。
「あった!200年ほど前にナイラス川上流の田舎町で同じ様な拉致事件があったが、戻って来た時は猫の姿だったと言う。何か変な首輪が付けられており、外すと人に戻った。同じだがね」
パーサは何か記憶があったと言って検索したのだ。
一娘さんが管理している資料庫には、ナンバーズ達が蒐集してきた膨大な報告が保管されており、ナンバーズ達に共有されている。
「報告者。あれ?署名があらせん。これ最重要機密だがね」
ナンバーズにはシバヤン達から、極秘の任務を受けて動く場合があり、その場合は資料庫の閲覧権限がないので、この様な簡単な記事になっていると言う。ナンバーズが事件を調べたら、解決まで行く可能性は大変高いので、結構レアケースだ。
「一娘さんなら、誰の報告だったか判るかも知れないな」
「無駄だがや。最高機密となっていれば、一娘様でも知らない事だに」
「管理者なのに?」
「記録を保管した後に記憶消去を施されるんだわ」
「じゃあナンバーズに一人ずつ当たって」
「重要な調査なら三娘か四娘だろが、口が固い上に、普段からなかなか捕まらせん。当然機密保持の処置受けるだろなあ」
「そんなら本丸から落とすしかないやろ?」
コンコンがあっさり言う。
「そうだな。でも簡単には教えてくれないだろう?」
これは、言わば外交取引。シバヤンは見返りが無ければ動かない。
「何か対価を。そうだ。これは仮説だけど」
「ウラナ君が仮説って珍しいな」
師匠がまぜかえす。
「そうですか?いつも頭の中で、仮説がビュンビュン飛び交ってますよ」
「それが今回はあえて口に出したのは?」
「可能性が低くて一本道だからです」
"もし〜なら"だけで組みあげられた仮説だ。
「パーサ」
「ん?」
「一娘さんの保管庫に、最高機密はどれ位ある?」
「ちょい待ち。えーと署名があらせんの…。76件だわ。全体の5800兆分の一」
やっぱり少ないな。
「後でリストちょうだいね(しめしめ。今後の交渉材料だ)」
「メグルらしくないなあ。何が言いたいの?」
「笑わないでよ。こんなに少ない最高機密。厳重な記憶処理。これってさ。恥の記録じゃないかと思ってさ」
「恥の記録?」
ベトナム反戦世代の俺たちは、ロックやヒッピー。アメリカ文化にどっぷり浸かりながら、米帝を信じない青春時代を過ごした。
米軍放出のジャケットを来て、反米集会に参加すると言う…。
近年でもアメリカ政治の全てを今時の日本の政治家(右も左も)の様に肯定する気はしない。
だがアメリカの政治が間違いなく優れているのは、時間が経つとどんな極秘事項でも公開される事。
どんな国にも墓まで持って行きたい極秘事項。恥の歴史があるが、アメリカ民主主義はそれを許さない。
「つまり、シバヤンとしては知られたくない記録?でもそんなのに迂闊に手を出したら、消されない?」
社長は各地の神々とギリギリの交渉を繰り広げているので、シバヤンの怒りを買ったらそれこそ分子単位になるまで消される事は承知している。
「これも仮説に過ぎないんだが、ここにひっそり仕舞われている76の案件は、そう言う危ない恥じゃない気がする」
「じゃあどんなんなのよ!」
「迷宮入り」




