9-12.マルモ屋の犬
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
9-12.マルモ屋の犬
「まかしゃーて」
パーサがアヌビスの姿になる。
2頭は鼻を突き合わせ、ふんふんと何かを話す様にし、お互いのお尻の匂いを嗅いだ。
「パーサあんた、はしたないわよ!」
オコが叫ぶが、
「しゃあないで、あれは挨拶と情報交換や」
昔、例の神番組伊東家の食卓で
「犬と仲良くなりたいなら、犬にお尻を向けて匂いを嗅がせる」
と言うのがあった。犬は言葉を話す代わりに様々な仕草や匂いで情報交換するらしい。
やがてパーサは人間の姿に戻り、
「訳すのめんどいで、犬翻器使うでよ」
「何だいそれ?」
「こないだの改修でついた機能だわ。犬語をそのまま同時通訳するんだで」
パーサが口を開ける。懐かしい、ちょっとくぐもった声が聞こえる。
『みなさんこんにちは。いやあひどい目にあいました』
「マルモ屋さんか。何があったんだい?」
『何が何だか…。私はパリトネカビル持ってないんですが、間違いなくあれは神界だと思います』
「神界へ連れ込まれたんですか?」
『多分。私がドスルから受け取って首に嵌めているチョーカーが急に私を吊り上げて』
神界は別に現世の天空にある訳ではないのだが、パリトネカビルは確かにエレベーターで上に上がる感覚がある。
パリトネカビルは上位神が眷属や許された人間に貸し与える通行手形なので
「より高みに登る」
判り易いイメージを擬似的に作り上げているのだ。神話にも天に梯子をかけて天国に行く話があるが、空中都市みたいなものがある訳ではない。
「そこってナイラスの神界なの?」
と社長が訊く。
「違いますよ。彼が来たなら我々には分かります」
急にアヌビスが姿を現した。
例えば大氷原の様に、該当する神界がない場所もある。基本的にレムリアの神々は、信者がいるから存在する。と言う構図なので、人の住まない大氷原には神界が存在しないし、信者を失った人間以外のエルフやドワーフや獣人達の神々も神界を去るしか無かった。ただ獣人に重なる鳥獣が絶滅していなければ、獣神は辛うじて存在出来たし、マルモ屋や獺は神界に住んでいる。ワタリガラスの神コリナンクリンはレムリアで暮らしている。
社長からすれば、自らの神界を取り戻したいのかも知れないな。
「ナイラスの中にアヌビス様も知らない神界が来ているとすると、もしかしたらあの浮遊神界なのかしら」
「浮遊神界?」
オコが聞く。
「ああそれは一時オリビアでも話題になりました。あくまで仮説ですが、そう言うものがあってレムリア内を移動している。と仮定しないと解決出来ない現象がいくつかありまして」
とアヌビス。
「あったら便利よねえ」
ああ、社長は仕事の便利しか考えてないのか。だからあんなに食いついたんだな。
「小さいのでいいから、浮遊神界1匹捕まえたら大儲けよ!」
いや、何匹とか捕まえるとか言うものなのか?
『そんなに狭いものには思えませんでしたよ』
マルモ屋が言う。
「具体的にはどんな?」
『いや私が暮らしてる神界と同じで、森があって、川が流れていて。で、ああここがナイラスの神界か。と思ってたら、"失敗だ!"と言う声がして、チョーカーの宝石がパリンと割れて、私は街に戻って来たのです。ところが犬の姿から戻る事が出来ず、言葉も喋れないので、とりあえずドスルさんを探したのですが見つからず(そのころ鰻屋で苦情を言ってた)、お腹が空いて困ってたところをさっきの少年に保護されたのです。あの子にお礼をしなければ』
「ナイラスに入った時は、犬の姿だったんですか?」
『いえ人間の姿でしたよ』
「じゃあなんかのエラーだね」
と師匠。
「エラーって?」
「マルモ屋さんは、何らかの条件付きでその神界に召喚されたのさ。でも本当に呼びたいものでは無かった。だからエラーが起こって違う形状に固定された」
「条件って?」
「全部は判らないが、一つはマルモ屋はドスルがナイラスで買った魔具を身につけている。と言う事だろう」
『でも宝石が割れちゃって』
「と言う事は、元に戻すにはこうすればいい」
と、唐突に天幕に入って来たドスルが首輪を引きちぎった。
確かにマルモ屋は人間の姿になった。




