9-11.犬のジョン
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
9-11.犬のジョン
「ねえお母さんお願い。飼ってもいいでしょう?」
「駄目よ、お婆ちゃん犬嫌いだから。それにこんな大きな犬、どれだけご飯を食べるやら。うちにはそんな余裕はないよ!早く捨てて来なさい」
どの世界でも繰り返されるこのやりとり。泣きじゃくる子供。
俺達は城門の外の貧民街にいた。
レムリアのどの町にもある貧しい移民が作る町。ナランダーの町には市民と移民を隔てる強固な壁があり、身分制度を明らかに誇示していた。
国王ジャルディンII世は前王の子だったが、母の身分が低かったため町に住む事がなく、壁の外で育った。妃のシュニアも遠い異国から来て外の街に住みついた。
二人は即位した時、この壁を何とかしたいと思った。だがいくら国王になっても旧態依然のナランダー政府要人達にそんな甘い理想論が通じるはずがなかった。妃であり宰相でもある辣腕の政治家シュニアの努力で、何とか奴隷制度は廃止に漕ぎ着けたが、権益を失った奴隷商人と、それに繋がる政治家達に憎まれ、ついに爆弾テロ事件が起きた。
ジャルディンを突き飛ばして爆風をもろに受けたシュニアは大きな怪我をした。
ジャルディンは献身的な看護をし、その思いに打たれた大神シバヤンが…。
と言うのが、大ベストセラー作家ベンガニーの
「ペンジク物語」
だ。俺の本を読んで頂いている読者の皆様にはもうご存知だが、シュニアはシバヤンの大切な処女作、ナンバーズのプロトタイプ
「零式ナンバーズ」
だった。
大切な作品を取り戻したいシバヤンと、ジャルディンの幼馴染で奴隷に売られて辛酸を舐めたラダの献身に打たれたパトゥニーの意向で、シュニアの手術はキャーリーが成功し、両者の魂を宿した
「シュニア・ラダ」として蘇った。
ジャルディンから王妃兼宰相に任命されたシュニアは、次に国民を分ける城壁を撤廃しようとしたが、そんな理想論に従う程、王宮の守旧派は甘くは無かった。そこでシュニアはコンコンを通じて、思い切った手を打った。依頼を快諾した二郎神君は、まるで畑の麦踏みの様に丁寧に城壁を踏み潰した。
ジャルディンII世にまだ政敵は少なくないが、民衆が付いている。
ナイラスの移民街は、まだ出来て一年経って居ない。俺が鎖国を解いてからだからだ。
それでも神秘の鎖国国家ナイラスの繁栄の噂を聞いて、各地から難民が集まっていた。
日干し煉瓦で応急に作った粗末な小屋に住む家族達には、犬を飼う余裕などないのだ。
泣きじゃくる子供(少年)の横に大きな白犬。
何やってんだあいつ。
「シロ!」
「ウォン!」
臥せの姿勢で少年の横にじっとしていたシロ(ジョン)が吠えた。
「あ、すいません。それ、俺の飼ってる犬なんで」
母親は露骨にホッとした顔をしているが、少年は更に大きな声で泣き出した。
「嘘だ!そんな事言ってペスを食べるつもりなんだ!」
おいおい俺がそんな奴に見えるのか?
「あのな。こいつはシロって言うんだ。シロ」
「ウォン!」
「おすわり」
「ウォン!」
「チンチン」
「ウォン!」
「な?それにこいつ。こんなにモフモフだけど、風呂に入れるとライオンみたいになるんだぜ。食べるとこ少ないよ」
「ペスは本当はシロって名前で、おじさんの犬なんだね。よし!僕も金持ちになってペスを飼うよ!」
こうして何とか上手く行って、町の更に外の天幕にシロ(ジョン)を連れて来た。
「さて、説明して貰いましょうか、マルモ屋さん。オコお茶入れてくれる?済まないが」
オコがニコニコと一番いいカルダモンティを入れてきた。オコはマルモ屋のモフモフが大好きなのだ。
「どうぞ。ねえいつまで犬の姿でいるんです?」
マルモ屋は俺の顔をじっと見ている。
マルモ屋はいわば桁外れに巨大な白いサモエドだ。じっと目が合うとつい首の毛をモフモフしてしまう。
「あ、ずるい!アタシ次ね」
後ろで他の連中がジャンケンしている。
おい野次馬まで加わるなよ
「癒しモフモフ料」
とるぞ!
「ちょっとマルモ屋さん。早く人の姿に戻って貰えませんか?」
マルモ屋は足元の砂を前足でせわしなく払う。
爪で掘った地べたには
「戻れなくなっちゃって」
と書いてあった。




