9-8.鰻屋
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
9-8.鰻屋
「お客さん、困りますよ。うちは人類の代表様から秘伝を受け継いだ、全うな鰻屋です。本場中の本場ですぜ」
「あー、俺がその人類の代表なんだが」
「げえーっ、ほほほ本物の?お世話になっておりやす!」
店主は平身低頭だ。
「ここの鰻は俺譲りという事だが、まずはこの俺に提供して貰おうか」
「お安いご用でさ」
タレの焼けるいい匂いがして、出てきたのは
「ひひえぇ〜っ」
アヌビスが悲鳴をあげる。尖らせた棒に鰻を頭からぶっ刺して焼き上げた物が…。
まあ蒲焼の語源は蒲の穂の様に見える。と言うのだから、確かに最初はこんなだっただろう。
お客さんは串から外して、ナイフで輪切りにして食べている。
「このゴムみたいな歯ごたえが癖になるよな」
「「違がーう!」」
俺と奥の客が同時に叫ぶ。尖ったつば広帽子。ポンチョみたいの着てるな。
「お客さん、どこで本場の鰻を?」
「蓬莱ですよ。あそこのは四角い肉だ」
ちゃんと開いて焼いている地域がレムリアにもあるのだ。
前回ナイラスを訪れた時、ナイラス川のほとりで野営して、オコと一緒に鰻を料理した。
オコは串打ちを知っていた。妖狐の里ではナマズをそうやって食べるのだ。何代か前の外来入り婿に、蓬莱人がいたらしい。同様に醤油の製法も伝わっており、俺は別に日本の料理人が料理人がレムリアに転生した。とかじゃ無いんだが、妖狐のナマズの蒲焼のレシピは、例の第一の恩寵でマスターしていた。
後は小骨を丁寧に取る。とか、何回も付け焼する。とか、細かいところを前世の記憶から見よう見まねで再現した。
ちなみに俺の前世の棲息地域から、腹開きで蒸さずに焼く関西風だ。江戸は侍文化なので、切腹を連想させる腹開きを嫌った。と言うが、他の魚は全部腹開きなのはどうなんだろう。また蒸してから焼くと本当にふんわりと柔らかく焼けるが、面倒なので、そのまま焼く事にした。
「ははっ、こんなものを鰻だと有難がって食べるとは滑稽だな。主人、厨を借りるぜ」
「へい」
主人はメモを持って身構える。なかなか熱心だ。
「人類の代表直伝」
と言うのは、前回川から鰻を釣り上げて、蒲焼にしてるのを地元の料理人達が遠巻きに野営地を囲んで、何やら鰻にいい匂いのタレを付けて食べているのを見て、独自の蒲焼を開発したものらしい。俺達は料理教室を開いた覚えは無いからな。
前世でも
「インスピレーションでアレンジした」
独創的な日本料理を出している
「(自称)日本料理店」
が世界各地にあり、そう言う料理に慣れた外国人が日本に来て本物の日本料理を食べて愕然とする。と言うパターンが多いらしいのだが、中には、自国のナンチャッテ日本料理に慣れて
「物足りない」
と言う人もいる様だ。
カリフォルニアロールなどは逆輸入されて日本でも定着した部類だが、日本自体がラーメンだカレーだトンカツだと、散々アレンジしまくって来たので、まあ美味しければアリだと思う。
が、棒状の蒲焼はいただけない。
「へいお待ち!」
炭焼きの台は結構広かった(そりゃ鰻一本丸焼きだからね)ので、一度に沢山の串が焼き上がり、小皿に分けて試食用に供する。
「う、うめえ〜っ!」
「なにこれ、口の中で優しく解けるの」
「あぁもう死んでもいい」
客達はうっとりし、店主は目を丸くして俺たちのレシピをおさらいしている。
彼の脳裏にはビッグウエーブが到来しているのだ。
「おー代わり!おー代わり!」
アンコールにお応えしてもう一度串を打とうとして、ふと店主を見る。
「やってみるかい?」
「ハイッ!」
料理人なので手際はいいが、オコの熟練技や、俺のミリグラムの切れ味の冴えには敵わない。しかし目釘を打ち、鰻を開いて内臓や小骨を取り、背骨を抜く技は何度かダメ出しするうち、じきに様になってきた。
「3年ほど毎日やれば、納得の行く串が打てるよ」
自分はそんな域まで達してないのだが、偉そうに俺が言うと、
「有難うございます。これで正真正銘人類の代表直伝を名乗ってよろしいでしょうか?」
後はタレの合わせ方。付け焼に掛けたタレは壺に戻し、継ぎ足し継ぎ足し保存する事で、本物の蒲焼のタレが生まれる。などと薀蓄を垂れ、店主はきっちりメモに書き留めた。
「あっぱれあっぱれ、後は山椒があるとなあ」
奥の客が呟く。
忘れてた。
「失礼ですが、ドスルさんですよね」
途端に男の姿が消えたが、店の外でパーサがしっかり確保した。
「お客さん、喰い逃げは行けねえ」




