9-7.トリックスター
※第9部の主な登場人物
◯旅の仲間
メグル(ウラナ)…主人公。元ボン76世(未)。旅行家志望。生真面目な15歳と結構浮気症な66歳が同居している。"国民的英雄"に加え、"改革者"の称号を獲得。更にマーリンから"人類の代表"を押し付けられる。
聖狐天の父となる。
オコ…メグルの妻の元妖狐。メグルとの子作りを夢見ている。弓の達人。弱者の味方で直情的。聖狐天の母となる。
コンコン…先先代妖狐。子狐と伎芸天女の童女に憑依できる。
ステル(ラン子)…鳥ジャガー神。ラン(獅子)とヘレン(白虎)の娘。メグルをあるじと慕う優しい少女。第6章で進化を遂げ成体、幼体(子猫)以外に猫耳娘の形態をとる。
パーサ…元八娘2号。シバヤンから譲渡され、メグルの侍女となった名古屋弁美少女。諜報活動に大活躍。自称第二夫人。大型肉食獣アヌビスに変身出来る。
ノヅリ…バクロン第3王子。魔法省長官を辞し魔法修行の旅に出る。メグルの師匠。コリナンクリンの恋人。
コリナンクリン…ワタリガラスの鳥神。運送業ワタリガラス商会の女社長。ノヅリの恋人。
◯神界の住人
マルモ屋…亡き犬達の記憶を全て持っている。絶滅した犬人を探している。
ドスル…放浪者。トリックスターの異名を持つ。
◯ナイラス神界
アヌビス…ミイラ製造者の神。父はセトだが、実の父はオシリス。オシリスの体を繋ぎ合せて再生する。母はネフティス。パーサを妹とし、マァトに思いを寄せている。
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
9-7.トリックスター
「トリックスターと言うと、あの」
正式にはもちろんそう訳してはいない。レムリア語で
「悪戯者」
と言う様な意味だ。
この言葉は現代の神話学の研究から生まれた概念で、俺が大学の頃、そのものずばり
「トリックスター」
と言う本がベストセラーになった。
この概念は神話や伝説の中で主人公でも敵役でもなく、むしろ話をかき回すいたずら者。と言う存在である。
例えば日本神話などでは、スサノオ命の導入ストーリーなどが挙げられる。
イナバの白兎などもそうだが、いたずら者が改心する話が多い反面、徹頭徹尾いたずらを繰り返し、話を混乱させる筋金入りのトリックスターもいる。
ヨハン・シュトラウスの楽曲で有名な
「ティル・オイゲンシュピーゲル」
などが代表例で、この人はいたずらが過ぎて処刑されてしまうと言う伝説のいたずら者だ。
だが、私の若い頃一番人気のあるトリックスターは
「パック」
だろう。当時高校の演劇部が好んで演じた題目。ウィリアム・シェークスピアの
「真夏の夜の夢」
に出てくるこのケルト神話の妖精の引き起こす恋の魔術で、恋人を間違えてしまう。
このいたずら者は、様々な演出解釈が可能で、その役を演じるのはプロでも高校演劇部でも名誉な事とされていた。
「ピーターパン」
のティンカーベルにも影響を与えたと言われている。
その後ゲームやアニメの世界では、北欧神話の
「ロキ」
が有名になる。同じ北欧のスナフキンはいたずらはしないが、ムーミン谷に現れた余所者で大人は余り交流がなく、子供のムーミンだけが懐く。と言う意味では似た要素がある。
「ドスルさんと言うのは、そう言ういたずら者のトリックスターと言う訳ですか?マルモ屋さんが騙されていないか心配だな」
同じ獣神仲間として、社長が腕を組んでいる。
「はた迷惑な存在やな」
コンコンも眉を顰める。
アヌビスは笑って、
「でもある地域(※アメリカ先住民)ではワタリガラスがいたずら者扱いだし、蓬莱の一晩に七回人を化かす"七度狐"とか、レムリア西部地域には"ルナール"と言う悪戯者の狐の伝説があります」
社長とコンコンは大いに凹んでいた。
「それでそのドスルさんは何をしたんですか?」
「レムリア様の怒りに触れて神界を追われた」
俺たちは息を飲んだ。
「ドスルはアトランティスの神だった。レムリア様のご意思で、獣人やエルフ、ドワーフなどの純血種に子供が出来なくなった時、ドスルは徹底的に反抗した。子供が欲しいエルフの夫婦を変身術で人間に変え、子供をなしてからエルフに戻す。と言う事を行った事がばれ、オリビア会議はドスルを神界から追放し、ドスルをどうしようもない悪戯者で、そのせいでアトランティスが沈んだ。と言う悪意のデマを流し、ドスルは稀代の悪戯者扱いされたのです」
「じゃあドスルさんとマルモ屋さんが仲良しなのは当然の事なんですね」
シロはずっと犬人を探している。
「アトランティスて言えば、沈んでまった後の島にマーリンが住んでござったが、マーリンもてゃあぎゃあトリックスターだがね」
「マーリンは超古代の英雄の生まれ変わりと言う説があります。ドスルに同情したのかもしれませんね」
オリビア会議を陰で支えているのは、人類の代表だ。マーリンが手を回してドスルは追放で済んだのかもしれないな。
「それでドスルさんたちはどこにいるんだろう?」
「ようわからへんけど、多分鰻屋やないの?」
コンコンは書き置きを思い出して言った。
アヌビスはナイラスの神々の中では唯一人間との接点がある。
つまりミイラ屋との。
なので神界から現世に行く事も多い。
また鎖国時代には、変装して結構レムリア中をさまよっていたと聞く。
「鰻屋なら、最近繁盛している店がある様です。私は行った事ありませんが」
ナイラスでは最近鰻が流行っているが、アヌビスは食べる気になれないそうだ。
父オシリスが殺され、ばらばらに解体されてナイラス川に捨てられた時、アヌビスは必死で身体の各部を探し、繋ぎ合わせてミイラにして復活させた。オシリスは黄泉の王となったが、体の一部、男性のある部分だけは見つからなかった。
「なんか思い出しちゃって」
とアヌビスが当時のトラウマを語ったので、それ以上
「美味しいのに」
とオススメする事は出来なかった。
「ここです」
ナイラス市街に降り、川のほとりでアヌビスがいい匂いの煙がモクモク出ている店を指差す。その店の中から
「違ーう!こんなの鰻じゃなーい!」
と言う声が聞こえた。




