9-2.サンダル大王の事
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
9-2.サンダル大王の事
いつか書こうと思っていたのだが、大分前にこの伝説の英雄の事を少し触れた事がある。カイバラ峠の辺りか。
この人は、アンゴルモアの征服よりはるかに古代、レムリア大陸の西の辺境に興り、大陸の大半を一代で征服した。と言われる幻の英雄である。実は彼の実在を疑う学者もおり、どの様な人物で、どの様に生きたかは殆ど分かっていない。各地の伝承として断片的に語られているだけで、お伽話程度の内容でしかない。
実在を否定する学者には
「アンゴルモア大王に征服された西域の民が、いわば腹いせ(アンチヒーロー)として創作したもの」
と断言する者もいるが、きっと親や乳母に寝る時にお話しをして貰えなかったのだろう。
サンダル大王は子供のヒーローだ。
レムリアの人々は北方や大氷原の民を除けば、サンダル履きで過ごす人が圧倒的に多い。
紐でくくるこの革製の履き物を作ったのが、この大王と言う事になっている。
「パーサ、サンダル大王って実在の人物だよね?」
俺は俺たちの中で一番長生きしてそうなパーサに聞いた。パーサは八娘だから、ナンバーズの中では一番新しいのだが、ナンバーズは記憶を共有しており、更に一部はシバヤンの記憶も閲覧が許可されているので、一番確かだ。
「会った事ないでなあ。ただ実在はしたはずだで。シバヤンさは会っとるはずだで」
「えええ?どんな人なの?」
「いや判らん。ナンバーズが閲覧可能な紳士録の中に、名前があるだけだわ。住所とか連絡先もない。ついでに言うと、記録の神殿でも、冥界でもなかったなあ」
パーサも気にはなっていた様だ。
「そうなると、仮名なのか?仮名だとすると…また嫌な考えになってしまった」
「あ"ぁ」
俺達はちょっとどんよりした。
「流石にマーリンよりは前だろうから」
師匠が言うがフォローになっていない。
マーリンは何とかって言う英雄神の生まれ変わり?らしいので。
これだけ落胆すると言う事は、みんな子供の頃、寝物語に聞いてたんだなあ。
「パーサもか?」
「そうだよ!幼体の頃、一娘様に話してもらったがね」
ナンバーズってエビかよ。
寝物語と言えば、俺は桃太郎を聞かされた。父が話してくれたのだが、父の創作だったのか郷里の民話だったのか、父の桃太郎は絶対に終わらないのだった。
桃太郎が鬼が島に上陸するまでは普通だが
「いーちの門開け」
「開くことならん、お前は誰じゃ?」
「日本一の桃太郎だ!」
たちまち起こる剣戟の響き。桃太郎は勝利し、次の門に向かい
「にーの門開け」
これが延々続くので、そのうち子供はメラトニンに負けて寝てしまう。
一方俺も後に幼い従兄妹や甥姪や子供に寝る時お話しをせがまれたが、俺の得意技は日本の昔話の、お寺の小僧さんを毎夜襲う妖怪の話で、
「でっかばっか歯がひとつ。後ろに眼ひとつある。こんぞこんぞ居たかー!」
とナゾナゾの様な歌を歌いながら近づいて来る妖怪で、遠くから近くにつれて段々声が大きくなる。と言うサウンドイフェクトを語りで再現するので、幼い子供達は大変エキサイトしてしまい、寝ないので子供たちの親に怒られた。
とにかく英雄は神聖にして侵されざる者で、子供達の憧れなので、正体があのペテン師では困るのだ。
これは我が仲間の士気の為にもはっきりさせねば。
と言う様な事は取り敢えず後回しで、今はマルモ屋に行かねばならない。
「オコさんや、あれどこだったけねえ。ほらマルモ屋に行く前に立ち寄った酒場はさ」
「あれは白虎さんの縄張りにある神界よメグルさん。ちょうど大東の国境近く」
「じゃあマルモ屋はもうちょっと西へ進んで、やっぱりタリフの辺りかなあ?」
「いやそこまでは行かないよー。今のステルならタリフ行っちゃうけど前は遅かったから、もうちょい前」
「と言う事は?」
「「ジョウザの辺りか…」」
俺もオコもいじめられてた中学校とか、失恋 の思い出の詰まったデートスポットとか、ジョウザに対してはそう言う
「逆聖地」
な気持ちだった。
「ローランド川のカワウソ将軍に挨拶して、そこから逆に東に進むのはどうだろう?」
「い、いいわね」
神界の川、ローランド川の最下流は滝になっており、そこから巨大な滝となって、偽玄武の住む洞窟に流れ込む。
「あそこってさ、現世の方だと」
「アスビ海だがね」
パー子は五娘の記憶を共有している。
「シバヤンが投げた独鈷杵がローランド川から滝壺に落ちた。と言うのがナンバーズ調査団の結論だわ。そこからどうやってジョウザに寄進されたかは不明」
「そうかそうか。久しぶりにキャバが食えるぞ」
「やったぁ!」
ステルが小躍りしている。




