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事件(メグル視点)

ここまでの登場人物


朱雀還流(ミナミメグル)→主人公14歳。レムリアに転生した唯一の俺。只今絶賛逃亡中。


ヨウコ→妖狐は転生を続ける種族の名。幼馴染で一つ歳上。メグルと一緒に逃げたいヒロイン。幼ない頃はメグルに「オコ」と呼ばれていた。


タンジン→侍従長。赤子の頃からメグルとヨウコを育て、父性愛全開。


ギンラン→神官長。大東出身だが醍醐教徒は大東で差別されているので、恨みを持っている。


侍女たち→キャピキャピしている。


ベンガニー→小説志望の侍女。メグルとヨウコの取材に執念を燃やす。


式の司→式次第の実行で苦労している中間管理職。


メル・ハヴァ→昔アンゴルモア大王に連れて来られた色目人の里出身。金髪碧眼の美女。ジョウザの魔法塾で勉強中だが、魔法はヘタ。


塾長→元メグルの魔法教師でジョウザの門前町で魔法塾をやっている。メルの潜在能力を恐れている。

転生したら転生してないの俺だけだった

〜レムリア大陸放浪記〜


1-30.事件(メグル視点)


大事な試合とか戦いの前に、延々と主人公や敵方の生い立ちや思い出を描く漫画やアニメがあるが、時間稼ぎの様な気がして、俺は好きではなかった。

でも自分で語るとなると、結局やってしまう。大事な話なので勘弁願いたい。


「よろしいですか?主上。この魔術のキモはひとえに加減で、強過ぎると災いを招きます。それはこれから学ぶ、より高度な魔術にも応用が利きます」

当時の魔術教師は7歳の俺に、ある便利な生活魔術を教えてくれた。ちなみにこの先生は、今は門前町で魔術の塾を開いているそうだ。

それは嘉門と言って、目の届く範囲で物を引き寄せる魔術だ。


「例えば主上が賊に後ろから羽交い締めにされたとします。どうしますか?」

「ヨウコを呼ぶ」

「男なら自分で解決しなくちゃ。そういう時は賊の後ろにある小刀を全力で嘉門すると、小刀が賊の背中に深く刺さります。加減しない嘉門にはそれだけの力があるのです」

「そう都合よく小刀があるものか。それに私は不殺を誓っている身だ」

「こほん、まあ例えです。もし賊がいなければ、主上の体に挿さるわけでして」

なんともめんどくさいガキだったんだ。


もう少し大きくなって嘉門の呪文を分析したところ、この術は空間を歪めたり、見えざる手でむんずと掴んで引き寄せたりするのではなく、昔の漫才芸の様に俺と物の間に、ゴム紐の様な物があると規定して、伸びた紐がパチンと縮む力で、物が引き寄せられるイメージの魔術なのだった。

なんでこんな事書いてるかと言うと、俺はその時


「全力の極太ゴムの嘉門を使って、ヨウコを必死で引き寄せていた」

からだ。後々ヨウコと反省会を開いた時、我ながら残念だったのが、空間を歪ませたり、見えざる手を使う事だって、今の俺には十分出来たのだ。ただ

「ヨウコを助けなきゃ」

と咄嗟に思った時、日頃お世話になっている生活魔法しか思い浮かばなかった。


こちらに向かってヨウコが跳ぶ。予定通り、俺は受け止め、瞬間木の葉隠れを発動し、身代わりの骨を穴に落として脱出する。はずだった。

ところがどう見てもヨウコの飛距離が足りない。

強烈な向かい風がヨウコを拒んで、空中で止まっている。このままでは手前に落ちてしまう。


ヨウコは既に骨の入った袋を投げ捨て身軽になって、さらにアニメで見る様に泳ぐ様にしてなんとか辿り着こうとしているが、届かない。

俺は全力で嘉門を使った。

しかしかつての先生の言う通り、嘉門で大きな重いものを引き寄せれば、それは全力でぶつかって来るのだ。


反省会で、この突然の向かい風は何処から来たのか考えた。答えは出なかった。護符による爆発なら、爆風は上にしか行かない。

どう考えても対岸から、風魔法か何かぶっ放したとか思えない。だがそんな強力な風魔法を、人間クラスの小ささの的に絞って撃てる術師はジョウザにはいない。俺だって無理だ。

「伝説のマーリン級だよな」

と俺たちは結論付けて解析を諦めた。

もし大東辺りが、そんな突風(全力で跳んだヨウコが一瞬空中で止まる程の)を生み出せる術者を送ったのなら、手っ取り早く俺を吹き飛ばせばいい。人々の噂通り悪鬼(ジン)の仕業としか思えなかった。


結局焦った俺が全力で嘉門をかける。ヨウコも空中で抵抗する。

その状態で、向かい風がピタっと止んだらどうなるか?

全力のゴムパッチンで、ヨウコが俺に向かって飛んでくる事になる。時速100km/hのうん十kg(社外秘)級砲弾がクラッシュ!

二人とも空中に弾き飛ばされ、俺たちは正面席の端っこ、増設された観覧席の土台に激突して、その足を一本折って止まった。


体術に秀れたヨウコはうまく一回転して観覧席の足を蹴り、地面に軟着陸したが、俺はそこまでの運動神経がないので、無様に地面に落ち、モロに背中を打った。

あれ?という事は、観覧席の足ってヨウコさん、貴女が折ったのね?

「えへへ」

えへへじゃないだろ!侍女たちの機転がなかったら、死傷者が出た案件だぞ全く、この暴力女。町じゃ聖女とか言われてるらしいが、とんだお笑いだ。

しかし…。まあ、元は嘉門なんか使った俺が悪いんだけど。

反省会はお通夜の様になった。


地面に激突した時、一瞬意識がとんだ。ヨウコに愛のビンタされて目覚めて、慌てて木の葉隠れをかけ直したけど、遠くから青い目がじっと見てた気がする。やばいなあ。もう逃げる。後で何を言われようが、知った事じゃない。

起き上がろうとしたら、背中に激痛が走った。情けないけど、ヨウコにお姫様ダッコして貰って、一旦例の秘密部屋に逃げ込む。


元からこの部屋で旅の装備を整えて宮殿を脱出する予定だったので、保存食料も備蓄してある。

俺はベッドにうつ伏せに横たわり、回復系の魔術や治癒薬をばんばん使って、なんとか3日で歩ける所まで回復した(幸い骨は折れてなかった)。

その間は事件後の情報収集(妖狐はネズミを使役出来る)と、


陰々滅々な反省会だった。


結果オーライの2人ですが、頭と体力にそれぞれ絶対の自信を持っていた2人にとっては、かなりのショックだったようです。まあ超人は少し凹んだ方がいいのです。


読んでいただきありがとうございます。

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