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事件(メル視点)

転生したら転生してないの俺だけだった

〜レムリア大陸放浪記〜


1-29.事件(メル視点)


いよいよ儀式が始まる。塾生は定位置に仰向けに横たわり、メルの横には少し離れて塾頭が横たわる。

緊張してきた。目だない仕事だが、ヨウコ様はきっと見ていて下さるだろう。と信じた。


主上が御渡りになるのに、何の合図もなかった。ただ足音だけが、コツコツコツと響いてくる。

隣の塾頭が風の出力をあげる。メルも他の塾生も追従し、風の音が上がった。

やがて足音が止まった。


「サーフ・カラニ・ヴァラ・マン(心頭滅却)!」

主上が叫ぶ。儀式を通じて声を出していいのは、この一声だけであると聞いている。これを合図に更に全力をあげて風を送るのだ。


しかし

「末永く主上と添い遂げます!」

という聞いた事のある声。ヨウコ様だ!

メルは浅い壕から跳び起きた。塾頭に怒られるかと思ったが、塾頭も体を起こしていた。

ヨウコは壕を飛び越え、穴に向かって飛躍した。

「な、何が!」

メルはパニックになった。小さい頃からメルは驚くと固まってしまう。そしてつむじ風のような竜巻が起こり、友達が怪我をした事もあった。両親がジョウザの塾に入るのを勧めたのも、突発的な暴風の制御を学ぶためであった。


「メル!ヴァジュラを下せ!」

塾頭が叫び、慌ててメルは手を下ろした。

その間10秒ほどだったろうか。

ヨウコ様が飛んで来るさまは、途中から大きな爆発と天井まで届く炎、七色のきらめく光で見えなくなった。


塾頭とメルは見学者を守るため、こちらに向かってくる炎を風魔術で撃退していたが、メルは

「ゴン」と言う鈍い音を後ろに聞いた。

塾頭は反対側の塾生に指示を出しており、聞いていなかったと言う。

メルが振り返ると、一番端の増設された観覧席の足が一本折れており、そこに


主上とヨウコ様が倒れていた!


ヨウコ様は必死に主上を助け起こし、主上が起きられた?と同時に二人の姿が消えた。

メルはこの事を誰にも話していない。宮殿側の事情聴取の後にも、ベンガニーとか言う侍女にしつこく聞かれたが、話さなかった。あれは幻だ。だってお二人はお骨で発見されたもの。


現場は大混乱であった。

ヨウコの行動。

想定外の大きな爆発と炎や火花。

主上やヨウコ様の行方。

そしてメルだけが気づいていたが、観覧席の崩壊。

「ギギギ…」と言う嫌な音を立てて、観覧席がゆっくり傾いて行くが、まだ人々は気づかない。


観覧席の一番下が救護席になっていて、ナツメがいた。

「ナツメ!」とメルは大声で呼び、折れた足を指差した。ナツメはそれで事態に気づき、彼女としてはびっくりする程の速さで走り、誘導・警護の侍女に知らせる。ナツメと侍女たちはパニックにならない様、落ち着いて下の段から、見学者を避難させる。

なんとか間に合った。ゆっくり観覧席が倒れて行く。

ナツメと侍女たちが冷静に避難させたと言う事で、後日表彰をされたと言う。


見事な誘導であったが、実は裏側からメルが風魔術で崩壊を食い止めていたのである。これは塾頭が口止めしたため、誰にも知られなかった。


たった一人で観覧席を支えるなど、普通の風魔術師には不可能だ。それでも必死に支える内、またあのパニック症状が起こり、強い風が崩壊を食い止めた。しかし、制御できない旋風は、逆に反対側に観覧席を押し倒そうとし始め、このままでは逃げ遅れた見学者が下敷きになる。最後まで残って誘導していたナツメも。


「言う事をきいて!」

声を振り絞って叫ぶメル。

その時

「惜しいな」

と言う老人の声が聞こえ、メルの持っていた独鈷杵の刃渡りが、いきなりそれぞれ50cm程伸びた。長さ1m強の両刃のついた双刃剣である。


これで風の制御が容易になり、見学者の退避を確認した後、上手く観覧席を後ろに倒した。

「事が終わったら一旦里に戻れ。お前と話がしたい。我が孫よ」老人の声はそれから聞こえなくなった。


塾頭のところに駆けつけ、事情を話すと塾頭は

「判った。まず深呼吸をしなさい」と言った。

メルがその通りにすると、手に持った物騒な武器が、普通の独鈷杵に戻った。


「その宝具はお前が持っていなさい。宮殿には騒ぎのどさくさに紛失したと報告しておく」

「なぜ?」

と聞くメルに、塾頭は、宝具が形を変えたのは、術師の能力に応えたのであり、他の者が使うと非常に危険な事、また宝具を変化させたり、あの大きな観覧席を支えたり倒したりする力が覚醒した事を、宮殿側に知られるのはまずいと教え、今日の事は誰にも言わない様厳命した。


「なぜまずいのですか?」

とメルが聞くと

「お前の力は私どころか、今主上に魔術を教えている私の大師匠様よりも、風魔術に関してははるかに強い。さらにお前の聞いた老人の声は、おそらくお前の前世におられる大魔術師マーリン様だ。お前一人で今回の大事件を起こす力が十分にあるので、犯人と疑われる危険があるし、戦略的にもジョウザだけでなく外国、特に大東は欲しがるだろう。戦況を一変させる神風を起こす事ができるかも知れんからな」


マーリン様?の忠告に従い、メル・ハヴァは故郷の里に戻り、その後の行方は知られなくなったが、西域にて

「暴風の大魔女メルハバ」

の活躍が始まるのは、同じ頃である。

読んでいただきありがとうございます。

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