8-31.冥界への旅路1
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
8-31.冥界への旅路1
「本当に残念だわ」
社長が歯嚙みしている。
社長目線で言うと、前回のゴンドワナへの旅は、ペンジクとヤクスチランの定期航路を開く目的だった。
しかし我々のレムリアと多重世界のゴンドワナはレムリア島(マウリア島)で繋がっていたが、あちらの世界のシバヤンとヴァルガの和解が成立し、二つの世界を繋ぐ結界が消失したので、現在俺たち(俺、オコ、師匠)がゴンドワナに渡る方法は分からなくなった。多分大氷原に生まれた犬の兄妹とゴンドワナ犬人の村に生まれた子供たちの間の絆があれば行けそうな気がするが、それはこれからの課題。
社長にとっては、別にゴンドワナに行きたい訳では無く、ヤクスチランからペンジクに行きたいのだが、相変わらず古代にこちらのヴァルガを封じた結界は健在で、しかもゴンドワナ世界での仕事が無くなったカナロワがこちらに居座っているので、空からも海からも俺たち以外が通行出来ないのは同じだった。
結局この航路に関しては進展が無かったわけだが、俺はむしろホッとしていた。
ペンジクや大東とヤクスチランでは、国力特に戦力の差がありすぎ、簡単に行き来出来る様になれば、ヤクスチランは数日で滅亡するだろう。
もちろんシバヤンを始め北半球(今まで曖昧にしていたが、つまりそう言う地理関係だ)の神々はヤクスチランとパトニカトルの存在を知ってしまったので、早晩人間にも情報は伝わるだろう。
しかし記録の神殿は神界にあるので、人間の軍隊は簡単には入れない。悪意のある神々の協力を得るなどして、もし神殿に到達出来ても、あの饗応を受けてなお命懸けで過酷な大氷原を抜け、ヤクスチランに攻め込む兵などいるだろうか?
しかもヤクスチランに攻めこめば、パトニカトルが配下を引き上げる。と宣言している。配下?酵母菌だよ。つまりヤクスチランに攻め込んだ国は、未来永劫酒が作れない。酒なしで戦える軍隊はない。
ごめん。俺はヤクスチランのために社長の計画が挫折した事を喜んでいる。
まあ商売人の社長も、とっくに気持ちを切り替えて今の通商についてのワタリガラス商会の独占を強化する方に傾いている。
しかしまあ面倒くさい事は確かだ。
旅程はそれ程かからない。
俺たちとロクはステルに乗るし、師匠と社長はワイバーンのトトムに乗るから、前世で言えばプライベートジェットで旅をする様なものだ。
だが
「一刻も早くパナを恐ろしい呪い(箱庭世界のハーピーの女王が昏睡状態のまま巻き起こしている)から解放したい」
と言う切実な願いと裏腹に、
「あの神殿にまた行きたい」
と言うのがロク以外の滞在経験者が全員持つ願望だった。
正直ステルが飛行に成功した
ペンジク←マウリヤ島→大氷原という新しい航空路を通れば、近い事は間違いない。
だがペンジクの上空はワイバーンや飛竜、魔法師からなるペンジク空軍の警戒が厳しく、通過には国王の許可が必要で、首都に現在国王夫妻が不在の状況で、認可にどれだけかかるかわからない(と思う)。
もちろんステルやトトムに追いつけるものはいないので強行も可能だが、ペンジクとは揉めたくない(気がする)。
やはりここはペンジク神界をそのままカイバラ峠付近まで進むのが無難(な事に吝かでない)。
そうだそうだまったくだ。
しかも頭の中で
「大丈夫だよ。パナは元ナンバーズだから、少しくらい記録の神殿に滞在しても大丈夫だよ」
と悪魔が囁くのだ。しかも
「神官と引き合わせて、ロクの成長を促す事も重要です」
と天使までもっともらしく言うのだ。
「3日だ。いいかみんな、3日だからな」
「わかった。パナ姉ちゃんのためだもん」
ステルが血の涙を流して答える。
他のメンバーも
「よしっ、3日。3日だぞ」
とかブツブツ言っている。
「皆さんがこんなにも意志薄弱とは思いませんでした。本当に数々の偉業を成し遂げて来たビッグセブンなんですか?」
初耳だぞその呼ばれ方。
確かに七人だけどさ。師匠と社長は常に行動を共にしているわけじゃないんだが。
「主を悪く言うのは許さにゃあぜよ、ロク。確かにメグルさはだらしにゃあとこもあるけんど、やれば出来る子なんだがや」
パーサ、全然フォローになってにゃあよ。
実はこの後、俺たちの滞在が長引いた最大の原因はロクだったのだが、それはおいおい話そう。
「あのな。記録の神殿に向かう前に、いっこ寄りたいところがあるんやけど」
コンコンが遠慮がちに言った。珍しいな。
「いいけど、どこ?」
「ちょっと方向が違えてるけどな。ペンジクの東の境や」
ペンジクの東には密林が拡がり、大東との緩衝地帯になっている。
なかなか興味深い歴史を持つ地域で、普通はまず行くことがないので、俺も乗り気だった。
「いやそんなに期待されても。一番端っこにあるお店でちょっと買い物するだけや」
コンコンも密林の奥までは行った事は無いそうだが、先輩の妖狐たち御用達の魔剤を買うために、新人の頃よくパシリに使われた様だ。
「魔剤って…危なくないの?」
なんか黄金の三角形地帯。と言う言葉が浮かんだ。
「麻薬ではないで。お目目がぱっちりするポーションや」
先輩妖狐達は疲れやすく、すぐ寝てしまうので、重要な会議などの折はこれが必須なのだそうだ。
「大東にも色々いい仙薬があるんやけど、高うてな」
社長も凄く興味を持ったので(ビジネスチャンスとか思っているに違いない)、全員で行った。
「ちっちゃな店だね」
屋台みたいな所に、ポーションの瓶を並べて売っていた。
「ヨウコサン、マイド」
「久しぶりやね。いつものを50本お願い」
「オモイヨ。ハイタツスルカ?」
「いやいや。ここに入れて欲しいわ」
「オオ、まじっくぽーち!ヨクテニイレタネ」
「いいやろ?あげへんで」
和気藹々と商談し、コンコンはお金を払ってステルに乗り込んだ。
「さあ行こか?」
「ねえコンコンおばちゃん。なんでお店の人、顔が赤と白に塗ってたの?」
ステルが無邪気に聞いたが、これこそ全員が聞きたかった事だ。
「さあてな。昔からああだったで。密林男独特のお化粧なんやろ」
※本日2回目のワクチン接種します。かなりの確率で高熱が出るそうで、
老体が耐えられなかった場合、公式には第8部で終了となります。
今日の時点で第9部も未完ではありますが、ほぼ完結に向かっているはず
なので、7/2以降更新が途絶えた場合、お待ちいただくと誰かが更新してくれるかも知れません。
以上万一に備えてのお知らせでした。
では頑張って生還を目指します。
レムリア様のお護りのあらん事を
鈴波潤




