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55-25.春翠の過去

転生したら転生してないの俺だけだった

~レムリア大陸放浪記~


55-25.春翠の過去


「へえ、媽媽がベンガニーファンとは知らなかった」

「行商が来ても、こっそり渡して貰ってたからね。父さんが『超春の勉学の妨げになる』と言うものだから」

「媽媽のお父上?生きているのですか?」

「しまった!これだから私は失策侍女(ドジッコメイド)と呼ばれるのね」


春翠はおでこをポンと叩く。

この辺もなかなか堂に入ったドジっ子ぶりだ。

「茶化さないで答えてください。媽媽のお父上は存命なのですか?」

本当に新帝は知らない様だ。

状況を考えれば一目瞭然なのに、おそらく小さい頃から

「貴方のお祖父様とお祖母様は、お星様になってしまったのよ」

と言い聞かせられて来た刷り込みなのだろう。


もちろん父方の祖父母は、高齢の老帝の両親だからとっくに死んでるし、母方の祖母、つまり太公望を襲って春翠を産んだ女弟子は早世している。

春翠は残る一人を黙っていただけだ。


「それはわしじゃよ」

ラスボスが登場した!

太公望が現れた!

一瞬新帝の顔が引き攣る。

「なぜ神祇官がここに?」


「聡明なる陛下なら、内心分かっておられたのでしょう?太公望殿が陛下のお祖父様である事を」

俺は静かに問いかける。

「認めたくなかった。母はいつも自分の運命を呪っていたから」

「呪うは言い過ぎよ、春。ただもうちょっと娘時代に色々な経験をしたかったな。と言っただけ」


「しかしこの男は聖職者でありながら不犯の掟を破り、子供まで成したのですよ!」

これはもっともだ。

大東のタオ教では仙人は異性と交わってはならず、不犯の掟を破れば、たちどころに神通力を失う。とされる(少ないが女性の仙人もいるし、天帝の宮殿には天女もいて、孫悟空と恋に落ちた天女の姮娥は、その罪で現世の猿つまり金糸猴に落とされた。つまりマコちゃんの母)。


大東朝廷の神祇官も半分仙人の様な存在で、女性関係のスキャンダルは絶対NGだった。

なので、まだ若く正義感に溢れる新帝にとってはそのような腐敗はあってはならず、機を見て粛清してやろうと思っていたので、そんな男が祖父だとは絶対に認めたくはないのだろう。


「陛下、おとこはんはな、おなごに誘われたら拒めへんのえ。まして太公望はんは、襲われはったんやさかい」

コンコンが訳知り顔で言う。

「妖狐殿、それはまことですか?」

新帝が問うと春翠が慌てて静止する。


「春にはまだそういう話は早い。と思ってたんだけどね。本当なの。父さんは母さんの被害者なのね。まあそれで私はこの世に生まれたんだけど」

「一生の不覚だった。じゃが春翠の母は春翠が5歳の時、病で息を引き取ったので、わしは懸命に春翠を育てたつもりじゃ」


「ですが!貴殿はその大切な娘を後宮に送り込み、父の慰みものに提供した!」

「失礼ね!私は物じゃないわよ。ヒヒジジイはあれで、かわいそうなおじいさんだったし」

そうなのか?

それはストックホルム症候群※ではないのか?


※1973年スェーデンのストックホルムで起きた銀行強盗人質立て籠り事件で、人質が犯人に協力的な姿勢を見せた事から、犯行中に被害者が加害者に同情的な態度を見せる精神的な反応をこう呼ぶ。

これは病気ではなく、命の危険のある緊迫した状況下で、犯人が見せた小さな親切などに過剰に感情移入してしまう心理状態だとされている。


「あの頃わしはまだ浮遊神界を持っておらなんだ。これはアトランティスについての徐福(マーリン)の研究をもとに、自力で捕獲したものじゃ。大切な娘と孫を守るためにな」

老帝から二人の保護を依頼された太公望は、戻って来ない徐福の私物を閲覧する許可を貰って、浮遊神界のありかを突き止めたのだと言う。


「春翠は長じるにつれて、街中を歩いても騒ぎが起こるほどの美人に育ってしまった。なのでこの状況から春翠を救うには、宮中に隠すしかなかったのじゃ。宮中には美女はうじゃうじゃいるからの」

「しかし宮中に入った母上は後宮の侍女にされてしまった」

「班田と大鑑(宦官の長)の差し金じゃ。春翠の後ろ立てがわしである事を突き止めた奴らは、春翠を後宮でいじめ殺そうとした」


だが天性の愛嬌のある春翠はドジっ子扱いされながらも下級の官女や宦官たちに愛され、若い役人にはぜひ妻に。と人気者になったので、班田たちも手が出せなかった」

「どうして班田らは神祇官を憎んだのですか?」

新帝の太公望に対する態度が改まっている。

「わしが彼奴等の企んでいた科学者による実験を阻止しようとしたからじゃ」


なるほど。

魔法を否定する科学者たちの実験は大東の魔法の長である神祇官にとっては、絶対に阻止すべき敵だったのか。

結局俺たちが科学者たちの陰謀を潰したのだが。


「そうこうするうちに、春翠が茶道具をひっくり返し、老帝の目に留まってしもた」

「てへ」

てへじゃねえだろ。大ピンチじゃねえか。


「まあヒヒジジイはね。悪い人じゃなかったわ。私がブルブル震えていると『畏れずとも良い。かつては"絶倫帝(マイティエンペラー)"と呼ばれた朕だが、もうその力は残っておらぬ』って寂しそうでね。あんまり可哀想なのでつい…」

やっぱりストックホルム症候群か?


「お母様の遺品にあったこれを使って」

春翠は金色の箱に入ったガラス瓶を取り出す。

「ややっ!それは金帝液!」

と太公望が叫ぶ。

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