55-24.春翠
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
55-24.春翠
ようやく春吸い(ねこ吸いから今思いついた新語)から満足した母親は、俺の方に向き直る。
「貴方が春を連れて来て下さったのね。ありがとう。私は春翠。坊やの母親です」
あれ?偶然の一致か。
超春(通称春)を吸いまくる※母親が春翠。
※いつからか、特に猫愛好家の間で、猫に顔を埋める行為を
「猫を吸う」
と表現する様になった。
犬には余り使わない(除:仔犬)。
ちなみに猫は大概この飼い主の行為を嫌がる。
「人代のウラナ・ストロと」
「ゆかいななかまたちだよ!」
ステルが自己紹介を省略する。
「よろしうに。あれ?貴方は宮中の侍女なの?」
春翠はパーサに駆け寄り
「ちょっと違うわね、この制服」
パーサはペンジク宮女の制服を着ていた。
「私はペンジクの自立式侍女人形の把麻と申します」
とパーサが訛らずに挨拶する。
「ペンジクの…。それは遠路はるばる…」
と春翠は答える。
「官女のお勤めは大変でしょう?私も現役時代はよく失敗をして『失策侍女』と言われたものよ。まあそのおかけで春を得る事が出来たのだけれど」
なんでも老帝の御前で大事な茶道具一式をひっくり返してしまい、それが縁で老帝の目に留まったんだと言う。
「へえ、どこに幸運が転がってるかわかりませんねえ」
とパーサが言うと
「なにが幸運なものですか。別に好きで後宮に侍女勤めしたわけでもないし」
春翠が吐き捨てる様に言う。
ご機嫌を損ねた様だ。
「申し訳ございません。嫌な事を思い出させてしまった様で」
パーサが謝罪すると
「いいんですよ。世間では私の事を『玉の輿に乗った女』と言ってるみたいだけど、14かそこらで後宮に上がって、15で猩猩老爺の子を産むなんて、地獄でしかなかったわ」
うわ、老帝をヒヒジジイ呼ばわりだ。
しかし、春翠と新帝は歳が15しか違わないのか。
つまり春翠は26歳。
十分ストライクゾーンだな(オコ痛い。すみません)。
これが茶道具ひっくり返した罰だとすると、天帝の大切な玉杯を落として割った為に、現世に落とされてアリジゴクの妖怪にされた捲簾大将並の罰。と春翠は思っていると言うことか。
「でも春はハンサムでかっこいいでしょ?だから今は幸せ!」
「媽媽、朕と一緒に宮中に参りましょう!」
「嫌よ。チンチンなんかと」
これは冗談で言っているのだろうが、真実を突いている。
宮中の堅苦しい生活が、春翠には合わないのだろう。
「私はここでの生活が気に言ってるの!宮勤めは面倒くさいし」
いや、流石に皇太后ともなれば、面倒臭いしきたりとかは気にしなくていいのではないか?
夫?であった老帝も、もはやいないし。
「まあヒヒジジイは死んだけどさ。宮中には言いよって来る男がうじゃうじゃ湧いて来て、本当に面倒臭かった」
これは後で遂準から聞いたのだが、皇太后様が独身の頃は、その美貌に
「蛾が誘蛾灯に誘われる如く(本当に遂準はそう言った)」
男たちが春翠に群がったのだと言う。
嫉妬したお局様女官が、専門家でないと扱いが難しい精巧な茶道具を老帝の御前に運ばせ、案の定春翠は失敗し、同僚女官からが
「これだから顔ばかりの失策侍女は!」
と罵られ、男たちは
「やっぱり失策侍女はイイ!」
と、更に支持された。と言う。
もちろんこの件で老帝の目にも留まり、お手がつく事になるのだが、本人は嫌々だったらしい。
しかし最初の夜で妊娠し、超春を産んだ後は老帝は病に倒れたので、何度も寵愛を受けることはなかったという。
老帝は病床でこの母子を大層気にかけ、二人が政争に巻き込まれぬ様に、魔法による難民保護を神祇官に要請した。
いい人だったんだな、ヒヒジジイだけど。
「本当に春は可愛い。そう思うでしょ?」
みんなコクコク頷く。
確かに一国を背負う責任が眉の間に皺を生じさせてはいるが、土台は美しい童顔(というかまだ11歳)。
「朕はもう大人ですよ。可愛いとかセクハラやめてください!」
新帝は明らかにイラついていた。
どうもパーサの事をいじめた様な気がして、ムカついたらしい。
「この侍女は朕が今、最も頼りにしている者の妹なんです。余りきつくあたらないでください」
「あらそうなの?でもそれって貴方の側に、今ペンジクのナンバーズがいる。って事?それって大丈夫なの?」
確かにバレたら結構ヤバい案件だ。
一応遂準車騎将軍が、地方の遺跡から発掘した古代人形。と言う事になっているが、見る人が見れば、シバヤン作の自立式自動人形である事はわかる。
大東とペンジクの冷戦状態を心配してるんだろう。
「ファンが聖地巡礼に来たらパニック状態にならない?」
「え?ナンバーズって、そんなに有名なんですか?」
「私はずーっとベンガニー先生の著作を購入してるもの。ナンバーズはいっぱい出てくるわよ」




