55-22.新帝の過去
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
55-22.新帝の過去
「おそらく母を後宮に送りこみ、先帝のお手が着くようにして、男子が得られたら先帝の認知を得た上密かに隠し、後宮の争いに巻き込まれない様にして兄たちを次々に殺害し、朕を都に連れてきて皇嗣として新帝にしたてあげ、後ろ盾として実権を握る。それがあの男の思惑だ」
「先史を紐解けば、そんな所でしょうね」
俺は一応の首肯をする。
「だがあの男は、朕が即位してもしゃしゃり出てきて政治に口出ししようとしない。確かにあの男が朕を田舎から発掘してきたのは誰でも知る事実だが、後ろ立てとして権勢を振るうには朕の母を都に呼びよせ、養女にでもする必要があるが、それをしない。もしかして彼奴の野望は外祖父になる事ではなく、彼奴自身が朝廷を乗っ取り、皇帝になることではないか?」
そこまで拗れているのか。
確かに大東史において、武力に拠らずに王朝が変わった事がある。いずれも
「前朝最後の皇帝には後継はなく、信頼のおける家臣に禅定した」
と言うような
「ちょっといい話」
風に描かれているが、実際には先帝を幽閉して脅迫して帝位を簒奪したのだろう。
俺は五香の目を見るが、五香は
『主上は真相をご存知ないのです』
と念話で伝えてくる。
俺が説明しても、それは太公望の一方的な虚言を片づけられてしまうだろう。
「ともあれ朕が本来持つべきこの宮殿の礎石の秘密を得るのは悪い話ではない。だがなぜ今まで教えてくれないのか?」
「もし陛下の推測の様に太公望が帝位を簒奪するつもりであれば、宮殿護法の根幹を教えず、仮帝のままにしておきたかったのでしょう」
師匠が口を開いた。
「そなたは…。ああバクロンの大魔法師殿か。バクロンでも?」
「現在のイザン朝は始祖アンゴルモア大王の建てられた政権ゆえ、常に先住のバロニア人との間に軋轢があります」
「ああ、そうでありましたな。そして貴殿は第三王子」
「はい。魔法の才が認められたので、王位継承権はありませんでしたが」
「面白い慣習ですな」
「始祖が魔法を嫌われたので」
「なるほど」
「ですが、この仮説には大きな穴がございます」
「どういう事ですかな?」
「神祇官は大東では半ば仙人。例え養女とは言え、世俗とのつながりを主張するのは、馴染まない文化だと存じます」
「それはそうですな。では太公望の狙いは?」
「あれこれ考えているより、生き証人を呼んだ方が早くないですか?」
俺は割って入る。
「どう言う事かな?」
「人代の力を持ってすれば、お母様を都にお呼びするのは訳もない事です」
「朕も即位してのち国中を探索したのだが、既に故郷の村はなく、母の消息もわからぬと」
「既に。と言うより、最初からそんな村はなかったのでは?」
「しかし朕には記憶がある。故郷の山や川、田畑や生き物。『国破れて山河あり』と言うではないか。村は焼き払われても、自然は変えられぬ」
「もし俺が危険が迫っている身近な人を匿うなら、現世の、兵隊が侵略できる場所には匿いません」
「人代殿はそのような魔法を?」
「持っております。古代の大陸が滅んだ時、その地の住民の信仰を失い、神界がバラバラに壊れて欠片が天空を漂っている浮遊神界というものがありまして、力ある魔法使いならそれを拾って自分の便利な空間にする事ができます」
「浮遊神界…」
「神界とは現世と多重している空間で、必ずしも天にあるものではないのですが、古代人はすべからく神界とは天の上にある。と信じていたので、浮遊神界はレムリア上空を漂っております」
「ステルももってるんだよ!…です」
「ステルと言うのか。可愛いから敬語はよい」
「あざます!ちょっと見せてあげるねっ?」
ステルが指を鳴らすと、いきなり直径1mほどの穴が空き、向こうに牧場らしき風景が見える。
ステルの牧場で、牛がのどかに草を食んでいる。
「これはすごいものだな。では太公望はこの様な空間を?」
「持っていたのでしょう。そして陛下と御母堂を隠していた」
「見つからないわけだ。しかしそれでは太公望の許可なしでは見つからないのでは?」
「浮遊神界については、ムーやアトランティス滅亡後、一部の高位魔法使いには知られていた様ですが、最も多くコレクションしたのは、実は俺でして」
「そうでしたか。なかなかロマンのある趣味ですな」
「よろしければ一度浮遊神界狩りのご招待を致しますよ。それで先ほどから部下に探索させておりましたが、見つかりました」
コンコンの結界に入る時、実はパーサは姿を消していた。
「対して難儀せんと、見つかりましたでよ」
「おお、あなたは五香の」
「妹の把麻でございます。以後お見知りおきを」
パーサが訛らずに、大東風の挨拶をする。
「あるじでないと開かせんでさいが、とりぇあ〜ず引っ張ってきたでよ」
確かに何か空間が歪む感じがある。
「太公望殿の許可は貰ったので、開けてみますがよろしいですか?」
「お願いします!」
この中に懐かしい故郷があり、そして母が待っているのだ。
と新帝の心は期待に震えた。
と言います。




