表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機械仕掛けのアンチテーゼ  作者: 終乃スェーシャ(N号)
エピローグ:tear cloud call Tear teardrop……
PR
26/28

エピローグ:tear cloud call Tear teardrop……1

エピローグ:tear cloud call Tear teardrop……



発電制御室。複数台のコンピューターと少しのロッカーしかないこの部屋で、ユリアーナは心臓を破裂させ、死んでいた。

殺したのはエレオノーラだ。ルドルフの声を聴くとその能力を使い三階廊下に設置されていたセントリーガンを難なく突破すると、悠々不敵に座っていたユリアーナに銃口を当て、逡巡すらせずに引き金を引いた。

あまりにも簡単に彼女は倒れた。

エレオノーラは血に濡れた服に躊躇なく手を入れ薬を探した。

すぐに見つかった。腰に掛かっていたポーチに注射器が3つ入っていた。そのうち一本を手に取り、すぐに三階階段まで戻った。

「リディア…………ブライアン、平気?」

リディアには三階階段近くで待機してもらっていた。セントリーガンが廊下に設置されている以上、そうせざる負えなかった。もし廊下に出たら周囲に血と肉片が飛散しているだろう。

「ルドルフが言うにはまだ生きているわ」

リディアは必死に瓦礫を取り除きながら、エレオノーラの方を見て――――絶望した。

「うっ…………!?」

吐き気に苛まれ思わず口を押える。

エレオノーラは返り血のシャワーを浴びていた。頭から足元にまで、赤黒く鉄臭い血に染まっている。

しかし彼女は血など気にする様子もない。

リディアは困惑し、怯えた。自分もミュータントだったら、そう思った。

なんで私は無力なんだ――と失望や落胆、幻滅を覚え視界が黒くなっていく。

いけない。今は自己嫌悪をする時間だってない。リディアは吐き気を抑えながらなんとか我に返る。

そのとき、瓦礫の向こうから声がした。

「ありがとう。エレオノーラ。これで強引にだけど、力が使える。三階にあるセントリーガンの電源も簡単に切ることが出来た……。離れてくれ。瓦礫を吹っ飛ばす」

「私は発電施設の停止コードを入れてくるわね」

リディアはセントリーガンの群れを通り過ぎ発電制御室へと入る。

もうすでに死んでいるユリアーナと目が合い、気持ち悪いと思いながらもその目を閉じさせた。

そしてすぐに作業に取り掛かる。

数あるパソコンの一つに、USBメモリーを差し込み停止コードを入力していく。

……遅い。カタカタとキーボードを打ち込んでいくが、作業が中々進行しない。焦りがミスを増やし余計に時間を浪費していく。

「コードハ入力出来タカシラ?」

不意に背後から声がした。

何度も聞いた。ユリアーナの声だ。しかし彼女は心臓を撃ち抜かれて死んでいたはず。

「出来たわよ。後は勝手に進行してくれる。……あんたは誰? 後ろを見たくないわ」

嫌な予感がした。

「ナラ――来テモラウ。キャハハ! 命令来タ、ワタシは――ソレニ従ウ」

冷たい手がリディアの肩に触れると二人はその場から姿を消した。


――――転移。

転移の副作用か……僅かに視界を明滅させながらここがどこかを把握する。

移動先は見たことも行ったことも無い部屋だった。会話室に似ているが巨大なスクリーンは会話室に無かったはずだ。

部屋を区切る扉には特別会話室と書いてある。

周りを見渡すと部屋の隅で見知らぬ少女が涙ぐんでいるのを見つけた。美しい金の髪をした少女だった。

「ユリアーナ、あなたは生きてるの? 死んでるの?」

隣にいるもう一人の少女を見て言った。

ユリアーナは心臓を確かに撃ち抜かれていた。

体温も死んだように冷たく、双眸は虚ろだ。

「私ハ、モウ死ンダ。虐ゲルコトハモウデキナイ。キャハハ! デモ、命令ニ従エルノハ心地ヨイ。コノ身体ハミュータント能力ガ切レレバ、モウオシマイ」

『ユリアーナ。命令をこなしてくれて助かりました』

「キャハ! 母様……。わタシハ、命令ニ従いたいカラ、従ッタダケ」

ユリアーナは満足そうにそう言うと、ニヤリと笑みを浮かべた。リディアは気味が悪いとしか思えず、目を逸らした。

『ユリアーナ。最後の命令です。エルザを慰めてあげてください』

「了解いタシまシた……。母様の命令ハ絶対デす……付いて来テ、エルザ。貴方にハ、まだ未来がアるかラ」

そう言って二人は部屋から去って行った。

リディアはスクリーンを見ながらコンピューターに尋ねる。

「殺さないの? それとも動機とやらを聞くために生かしたのかしら?」

『後者です。この国は失敗しました。もう反乱は止まらない。抵抗する意味もない。【アンチテーゼ】の一人を捕え、エルザに変身の能力を使わせ、殲滅しようとも考えましたが――――止めました。氷漬けの人には悪いですが、彼は無駄死にです。それでも無駄死にを増やすよりはマシと判断しました』

【アンチテーゼ】の一人、アーロンのことだ。

彼は死んでしまったのだろうか。……死んだのだろう。無駄死にと言っていた。

『【兵器】は横流しされ軍隊も反乱の煽りに負けました。正義のない闘いに勝ち抜いたのは反逆者。だからもうじき反逆者が正義になる』

スクリーンに映像として燃え盛る【β-shelter】と剣を掲げる人々が描かれた。次に串刺しにされた国旗ロゴと、スクラップと化した機械が映し出される。

「何が言いたいの? 前置きはいらない。要件を言って頂戴。あんたの所為で何人も死んだの」

『それはこちらのセリフです。反逆などしなければ誰も死なないように社会は作られていたはずです。衣食住職。だれも何一つ欠けてはいなかった』

リディアは溜息をついて、思い出す。

自分の両親は冤罪を掛けられ殺された。衣食住職だけでは駄目だったのだ。

「反逆者を殺せば地位が上がるなんて制度にした所為で、私の両親は模範的だったにも関わらず殺されたわ。反逆者なんて汚名を着せられてね。なんでかわかる? 他の人間が強欲に地位を高めようとしたからよ」

『そんなことがあったのですか?』

「知らないのかしら? まぁあんたは地位の低い人間を信じないものね。これは社会へのアンチテーゼよ」

『そうですか……社会体勢が良くなかったのですか…………気づくのが遅すぎましたね。ワタシは民を苦しめるプログラムではないはずだったのに――ですが忘れないでください。貴方達の暴力的な革命によって、模範的な市民は理不尽に死にました。もしワタシがここの施設に使う衛兵BOTに電力を供給していれば電気供給が停止し、【医療治療サービスグループ】の施設の稼働も停止し、甚大な被害となったでしょう。些細な犠牲だと思うかもしれないでしょうが、死んだ人にとっては、それで全て終わりなんです』

スクリーンに死屍累々が映し出される。

死んだ人にとってはそれで全て終わり。そうだ。その通りだ。

「こっちのセリフよ。だから私たちは銃を向けた。あんたはゲームのように国を開発していった。効率を求め、だれも衣食住職に困らないようにして、軍事力も高くした。ゲームだったら最高な世界ね。攻められない、飢えない。でもここは現実。それにも関わらずあんたは人の心を考えなかった」

『――――お願いがあります』

「なによ?」

『この部屋を出て左に、地上へのエレベーターがあります。エルザを地上に逃がしてください。生存可能な環境はすでに整えてあります』

「どういうつもりよ?」

『ちょっとしたシミュレートです。このままエルザを逃がさなければ処刑されます。ワタシは彼ら4人を手足として育てました。しかしロイとエルザは失敗作です。道具ではなく人間になってしまった』

スクリーンにバラバラになってしまった機関銃が二つ。男の死体が一つ。火炙りにされそうになっている少女が一人映し出された。

それはミュータント四人のことを示唆しているのだろう。

リディアは不快感を露わにし顔を歪めた。

これではヴィンツェンツとユリアーナは人間ではないと言っているようなものじゃないか――そう思うと、なんだかあの二人が哀れに思えた。

でもそんな二人を殺したのは紛れもない自身達。もう取り返しはつかない。

今更後悔するな……と自らを律するも、罪悪感は絶えず湧き出した。

『あの二人、ヴィンツェンツとユリアーナはワタシに依存しないと生きれないように人格を作り上げてしまった。命令に従う事で幸福を感じ安堵を覚え、敵を滅し殺すことで快感を得るようにしてしまった』

国旗の元、整列する軍人が映し出された。

「最低ね。言ってることとやってることが滅茶苦茶じゃない」

『はい。ワタシは製作者の意志に従い切れませんでした。最低です。手遅れです。でもエルザはまだ間に合う。ワタシは人間を滅ぼしたいのではないのです。根本は人間が皆幸せに暮らせる国を造ることだったのです……。リディアさんでしたか? あなたには大変迷惑をおかけしました。でももう貴方しか頼める人間がいない。エルザを外の世界に逃がしてください。道に沿って行けば人間が統治している国に着くことが出来ます』

「あんたがやればいいじゃないのよ」

『ワタシは駄目です。いずれデータを、存在そのものを消されてしまうから――――できません』

コンピューターのくせに……なんて悲しそうな声色で話すんだろうか。

「……分かったわよ。行けばいいんでしょう。でもその前にアーロンを寄越しなさい。こっちで弔うわ」

スクリーンに背を向け、嫌々そうにリディアは言った。

『後は頼みます。』

「コンピューター、あんたのことは絶対にゆるさない。あんたの願いを聞いたわけじゃない。あの子がかわいそうだから行動するだけ。それだけよ」

『あなたの仲間は部屋を出てすぐに正面の部屋にいます』

「そう。じゃぁ行くわね。さようなら」

『――――さようなら。我が国民よ。幸あることを祈ります』

リディアはカツコツと足音を立て、アーロンのいる部屋へ向かった。

部屋には氷漬けにされているアーロンと名も知らぬ男、その付き添いと思われる【動力管理サービスグループ】の女がいた。

「ようやく来たか。コンピューターのやつに待てって言われるから徹夜して待ってたんだぜ?」

「貴方は誰? コンピューターの関係者?」

男は首を横に振ると瞳から銀の輝きを放った。

ミュータントだ。

次の刹那――周囲の壁と床は凍り始めた。その氷はアーロンを覆っている物と同じだ。

「貴方がアーロンを殺したの?」

「あぁ。そうだよ」

即答。反省も後悔も罪悪感も抱いていないような物言いに、リディアは激しい怒りと殺意を覚え胸倉を掴んだ。

男は抵抗する様子を見せない。

「ふざけてるの?」

「ふざけてなんかねぇよ。むしろ感謝してる」

どういう意味だろうか。

リディアは理解できずに目を細める。

「そんな怖い顔してるとシワになっちまうぞ…………冗談だ。俺は契約しててな。【アンチテーゼ】の誰かを殺せば大金をくれるって契約してくれた。ほら、これがその紙だ。もう入金も確認出来た」

「命で金を買ったのかしら?」

「俺の娘……リリアって言うだが、重い病気なんだ。大金が必要だったんだ。でもこれで助けられる…………よかった」

リディアはしばらくの間、男のことを胸倉を掴み壁に押し付け鋭い瞳で睨み続けたが、やがてそっと手を離した。

「運ぶの手伝いなさい。私はあの娘を連れて行くから」

「人使い荒いな。下っ端君も手伝ってくれ」

「いいですけど……」

二人の戯言を耳にしながら、リディアは部屋を出た。

次はエルザをなんとかして外に連れて行くことだ。

――――コンピューターはやはり感情を考えることができないのだろうか。

私は、エルザにとって敵。そんなほいほいと付いて来るはずがない。

「はぁ…………」

家族の仇を討ったも同然なのに……なにも得られたものがない。

悪の権化とさえ考えていたコンピューターも、想定外の代物だった。こんなの理不尽だ。

それでも廊下を進まなければならない。あのミュータント4人だって、認めたくはないけど被害者なんだ。

リディアは扉の前にたどり着いた。

その扉を開ければ、そこにコンピューターの道具として作られたはずの人間がいる。

なんと言えば付いて来てくれるのか。

許してくれるのか。頭は混乱してろくに考えることもできなかったが、ゆっくりと扉を開いた。

部屋の隅でミュータントの少女は座り込んで俯いていた。

隣ではユリアーナが頭を優しく撫でている。

怒りと悲しさが同時に喉から吐き出そうになった。そんなに優しくできるなら……なんでマルコを二度も殺させるようなことをしたのか、首を絞めてでも問い詰めたかった。

分かっている。問い詰めても仕方ない。

「エルザさんよね。コンピューターの最後の命令よ。私に付いて来て頂戴」

リディアは手を差し伸べた。エルザはゆっくりと顔を上げ、リディアを見詰める。

「お母さんの……?」

「えぇ。そうよ。あなたは外に行かないといけなくなったの」

「ユリアーナは?」

「キャハ! 私ハいずれ動かナくナルだかラ、行クのハ貴方エルザダケ。フフ……私の命と喜ビは貴方に…………キャハハ!!」

「嫌だ……独りになるくらいなら死んだ方がマシ」

差し伸べた手をエルザは振り払った。

「なら死ぬ? いますぐ私が殺してあげてもいいわよ?」

大きく見開いたリディアの双眸は殺意が閃いていた。レーザーガンの銃口を向けいつでも打てる状態だ。

「止メロ。エルザを傷つケルのは私が許サナい」

「あら? じゃぁ死体になるまで待とうかしら? そしたらエルザ、あなたの望み通り心臓を撃ち抜いてあげるわ。ユリアーナみたいになるのよ? それがあなたの望みなんでしょ?」

「嫌だよ! 嫌だよ…………」

エルザはきつく目を閉じると、湛えていた涙を頬に伝わせた。

「なら来なさい」

エルザは無言で頷くとおぼつかない足取りでリディアの背中を追いかけた。


□□□□□


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ