崩壊の鍵 3
発電施設は国の端に建設されており街から離れているため、さきほどと比べると静かに思える。
第二発電施設では大量の【軍事防衛サービスグループ】の兵士と兵器が駐屯していたが、第四発電施設周辺は目視する限り敵は見られなかった。正面入り口の巨大な鉄格子は歓迎するかのように開いており、スピーカーからは哀しそうにサイレンが鳴り響いている。
「エレオノーラ。敵はいるか? 見た感じは……いなさそうだが、一応な」
「…………えっ!? ……嘘」
生物兵器や衛兵BOTを感知しようとも感嘆、恐怖の声すら上げなかったエレオノーラが、虚を突かれたように硬直し瞳を大きく見開いた。
「どうしたんだ? なにかヤバイのがいたのか?」
「敵意反応…………ミュータント二人。……能力は、もう少し近づかないと……分からない」
ルドルフは深い溜息をついた。
「やっぱりミュータントか。第三発電施設にもミュータントが二人いると報告を受けた」
「おかしいだろ。コンピューターはミュータントを敵視してたはずだぜ? それなのになんで仲良くしてるんだよ?」
ブライアンの言う通りだった。
ミュータントとコンピューターは決して相容れぬ存在のはずだ。
だからエレオノーラの家族は殺された。ルドルフはミュータントのための組織を立ち上げた。
それなのになぜ、敵としてミュータントが存在するんだ? エルが疑問を巡らせると、察したかのようにルドルフが考えうる可能性を提示した。
「制御できるなら話は別さ。従順だったら、それこそ自分の手足のように扱えるなら僕らミュータントのほうが普通の人間よりよっぽど優れてるわけだし重宝するだろうね、道具として。どうせ薬を使って洗脳なり依存なりさせたんだ。くそっ……絶対救い出してやる」
「洗脳? 依存? 偏見も甚だしいな。救い出すなんて余計なお世話でしかない」
敵意の篭った聞き覚えのない男の声。
さきほどまで誰もいなかったはずだった。しかし、声が聞こえると同時に何もないところからその男は現れた。
現れた男は高身長でくすんだ白髪を伸ばし憐れむような目でエルたちを眺めていた。その瞳は髪とは違い、眩い純白の輝きを放っている。
「嫌な『予感』がするから来てみれば、コンピューター様に反逆する愚鈍なテロリストがいるじゃないか」
ふふふ、と妖しげな笑みを見せ、その男は鞘から軍刀を抜いた。
「転移かな? いい能力だね」
ルドルフが慣れた様子で能力を褒めると、男は不快そうに眉を細めた。
「これは私の能力ではない。私はコンピューター様の道具として貴様らに伝言しに来たに過ぎない。……反逆者の屑共にコンピューター様が慈悲を与えてくださるそうだ。このような愚かな行為を実行した動機が知りたいらしい。そのために一人だけ生かしてやろう!! それ以外は殺す」
――――この男は心の底からコンピューターを崇拝している。敵だ。そう思うと瞬間的に殺意が込み上がってくるのが理解できた。
殺さなきゃ駄目だ。こいつが生きていていい理由なんて、存在しない。
エルは猛毒のように殺気だった心に従い、紅い双眸に光を灯した。そして人殺しの武器である両手を白髪の男に向け、毒を放った。敵以外は皆ガスマスクをしている。身体を蝕まれ、神経を風に晒すような激痛に襲われショック死するのは目の前の男だけ。エルは力強く叫んだ。
「コンピューターの慈悲なんていらない! 本当に慈悲があるなら! 人の心があるなら彼女は死ななかった!!」
「遅いな。お前が攻撃すると『直感』で分かれば、対処することは容易い事だ」
男の声は、正面からではなくすぐ隣から聞こえた。声が耳に入り頭に届こうとしたとき、エルの視界は180度回転し背中を打ち付けた。
なにがあった!? 状況を理解することができずに思わず目を見開いた。
そのまま瞬きする間もなくエルは身体を組み伏せられ顔をアスファルトの地面に押さえ付けられてしまった。
「ミュータントか。よし、すぐに楽にしてあげよう」
白髪男が軍刀を持った腕を振り上げると――――その腕は放物線を描き吹き飛んだ。
肘の先から向こうが地面を転がり鮮血を噴水のように舞い上げた。血飛沫が辺りを赤く鉄臭く染めていく。白髪男は撃たれた衝撃でよろけ、エルの拘束が解除された。
「こっちが団体さんだってこと忘れんじゃんねぇ」
ブライアンはレーザーガンを構え、吐き捨てるように呟いた。
「私としたことが……一つのことに集中すると他がどうでもよく思えてしまってな。っち……回復に時間が掛かるな。この攻撃はコンピューター様の御慈悲を無視するという風に認識する」
「勝手にしろ! オレらは元よりそのつもりだ!」
白髪男は嘲笑い、存在するほうの腕で軽快に指を鳴らした。すると彼の身体に靄が掛かり、やがて姿を消してしまった。
「大丈夫か。エル」
「平気だ。俺に構うな……」
差し出された手をあしらい、エルは立ち上がった。
殺し損ねた。俺にはこの力があるのに。
コンクリートに打ち付けられたことによって傷が再び開き、紅い血が流れるその腕を見て、燃え上がるような怒りを覚えた。
「エレオノーラ、あいつの能力は分かったか? 敵の情報は知ってたほうがいいからな。そしたらオレでもまともな対処ができるかもしれねぇ」
「…………詳細。全て、把握。……名前、MV9、通称ヴィンツェンツ。生物兵器……人造ミュータント。能力、身体強化と……超直感」
人造ミュータントだろうと関係ない。あいつはコンピューターの仲間だ。同類だ。
絶対に生かしてはおけない。
「身体強化……。転移をした奴は別の誰かってことか」
ブライアンはレーザーガンを依然、手に持ったまま呟いた。
「だれがどの能力だろうと関係ない。正当な制裁を与えてやる」
「人造ミュータントであれ僕はミュータントを殺したくない。彼らは救われるべきだ」
ミュータントは全員救われるべきだとでも言いたいのだろうか。
ふざけるな。奴らが本当にコンピューターに造られた存在ならミュータントだからという理由で迫害もされていない。
もはや助ける対象にはならないだろう。
「あいつらはコンピューターの道具だ。そう作られてるんだ」
「いや違う。このままじゃ彼らは能力を持ってしまったがゆえにいいように使われて捨てられてしまう」
そんなの皆同じじゃないか。使えなくなった道具は捨てられて当然で、戦えない生物兵器が処分されないことなんてない。
人の形で特殊な能力があればこいつは誰でも助けるのか?
「あいつらを助けるって行為が虫けら(L35)に慈悲を与える行為と何が違う」
エルは双眸を紅く輝かせた。
対抗するようにルドルフも瞳に光を灯すと、
「いい加減にしなさい!!」
感情の籠った怒号が耳に響いた。生物兵器の雄叫びよりも鋭い……爆弾のようなその声はルドルフとエルの動きを止めた。
声の主はリディアだった。彼女はスタスタとルドルフに近づくと、華奢な手を振りかざし頬を強く叩いた。まるで発砲したかのような甲高い音が辺りに響く。
「全部を助けられると思ってるの? 守れると思ってるの? いえ、そんなの不可能よ! 欲張って全部を取れば、確実に崩壊する!! 一人を助けようとするだけでそれ以上に被害が出るの分からないの!?」
「全部助けられるなんて思ってはないさ。僕はただ可能性を――――」
「黙りなさい。エゴイスト。あいつらは敵よ。それも知恵や意志を持つ分並みの生物兵器とは比べ物にならないくらい強力。コンピューターの呪縛から解放するなんて不可能よ。残念だけどね」
「分かってる。分かってるさ。それくらい……。くそっ!! 僕はまた…………」
ルドルフは怒りを電撃に変え、地面を黒く焦がした。
「気持ちは分かるが、感情的になってる場合じゃない。行くぞ。早く終わらせればそれだけ助けられる」
「……あぁ。ごめん。弱音を吐いてしまったね」
ブライアンはルドルフの肩を励ますように叩き、先へ進もうとした。そのときだった。
白髪男……ヴィンツェンツの片腕と血の水溜りしか無かったはずの地面に、同様の物が一瞬にして大量に、どちゃどちゃと音を立て出現した。
それらは【軍事防衛サービスグループ】兵士の死体や生物兵器の亡骸だ。市街地を防衛していた第十七治安維持隊の死体も多くあった。
時間が経過してるものも多く、すぐにむわりとした腐敗臭が立ち込め始めた。
「うっ……!? なんでいきなり死体が……。転移の能力を持った奴がやったのか?」
ブライアンは不快感を露わにした顔で、死体を見下ろし銃を向ける。
「…………敵意。死体」
エレオノーラは警告すると、姿を現した。死体を指差し恐ろしげに震えている。ブライアンは無言で彼女の手を握った。
敵意が死体から? 死んだ後の人間が、生物が意志を持つと言いたいのか? そんなことあり得ない。ではどういうことなんだ?
訳が分からずエルは困惑した。
エレオノーラ自身もよく分からないと言った様子で首を傾ける。
理解できたのはルドルフただ一人だ。
「ミュータント能力だ! 僕が機械を操れるのと同じだ! こいつは――――」
ルドルフは発言を中断した。言う必要が無くなり、すぐに行動しなくてはならないからだ。
エルたちを中心に広がっていた死体は身体の端をピクリと動かし、焦点の定まらない瞳を向けながらゆっくりと立ち上がったのだ。
死体の中には脚が無い物もいたが、ソレらは這い蹲りこちらにゆっくりと近づいてきている。
生物兵器の死体も同様に起き上がり、死してなお恐ろしい雄叫びを上げた。
「キュィィグィィィグィィ!!」
「また虫けらか」
エルは手を向け目の前の人間の死体ごと毒で殺そうとし、その手を止めた。
ソレらはもう生き物ではなく機械と同じだ。息をしていない……道具、物だ。『毒』としての毒は効かない。
「死体が邪魔するんじゃねぇ!!」
エルが手を止める一方、ブライアンはレーザーガンの何発も発射し、自身のすぐ近くにいた死体の頭を撃ち抜いた。
しかし生きている人間ならともかく、死体の頭を撃ち抜いても、首無し死体になるだけで意味がなく、死体はブライアンの腕を掴んだ。そして地面に倒そうと力を加える。
「…………ブライアンから……離れて!!」
エレオノーラは怯えながらも、大声を上げ自らを奮い立たせた。自らブライアンの手を離すと腰に掛けていたレーザーガンを取り出し、ブライアンを掴む死体の肩に向け、引き金を引いた。
赤い光線はあっさりと死体の腕を飛ばした。その死体は時間が経過していたためか、血は黒く固まっていてなにかを吹き出すこともなく地面に落ちた。
「ナイスだエレオノーラ。これでブライアンは巻き込まれない」
ルドルフは瞳を輝かし、大轟音と閃光と共に蒼白い雷撃を放った。雷は死体を伝って行き連鎖的にソレらを灰塵に帰していく。
死体が雷撃の渦に巻き込まれるたびに肉の焼けるような臭いが腐敗臭と混ざっていった。
「もう一度僕が殺してあげよう。炭になれば動くこともないだろうね」
周辺にいた死体を焼き尽くすと、ルドルフは得意顔を浮かべた。
しかし死体はまだ大量に残っている。人間の死体はじわじわと近づき壁を作り出していく。
「キュィィグィィィグィィ!!」
虫の雄叫びが空に轟いた。虫は雷撃を回避しており、宙を悠々と飛んでいた。
「エル、近くの雑魚は任せたよ? 僕はあの羽虫を撃ち落とす!」
エルは目の前の敵を見据えた。そうだ。毒を毒として使う必要など全くない。
すぐ隣で聞こえる雷撃による轟音は意識の外へと消えた。
沈黙し白い瞳で睨む死体に手を向け、そのガスを噴射した。これだけでは死体の行進は止まらず、彼らは大きく腕を振り上げ、黒い血がこべり付いた気味の悪い口を開けてこちらに襲いかかった。
コンピューターの味方は敵だ。生きていないなら壊してやる。使い物にならなくし、存在すら許されないようにしてやる。
「ブライアン!! 撃て」
「やってるだろうがよ!!」
ブライアンは自身の目の前にいた敵からエルの近くにいた死体に標的を変えレーザーガンの引き金を引いた。すると銃口から赤い光が射出されると同時に目の前が爆発。閃光が周囲を包み込むと、熱風と衝撃が死体を行動不能なまでに引き裂いた。だが近過ぎた。爆発の元である可燃性ガスを流していたエルも爆発に巻き込まれ、その身体を地面に何度も転がす打ち付け傷つけた。
――これでいい。俺はまだ生きている。敵は動かなくなった。完璧じゃないか。このまま死体すべてを灰にしてやる。バラバラにしてやる。
「おっ! 流石エルだ、道が切り開けたようだね。これ以上ここにいても終わらない。逃げよう」
「それには賛成。ブライアン! 平気? 逃げるわよ!」
「……っ先に行っててくれ。視界が明滅して分からないんだ」
爆発の直前発生した閃光によって目をやられ、ブライアンは顔を強く押えていた。痛みを堪えなんとか瞳を開くも、彼の目は目としての機能を完璧にこなせない様子だ。足元がおぼつかない。
「……ブライアン、私…………先導する。信じ、て?」
「ありがとう、エレオノーラ。すまんが命を掛ける」
皆逃げるつもりだ。どこに? こいつらを全部消し炭にしないと気が済まない。コンピューターの同類を見るたびに怒りが、憎しみが込み上げて氾濫するように溢れ出てきて、血が逆上する。
逃げるならその前に残り全てを消し飛ばしてやる。エルは再び可燃性ガスを手から放出し、さきほどの爆発によって作り出された逃げ道を駆け抜けた。
「正面入り口から先に駐車場があるはずだ! 車があるかもしれねぇ!!」
ブライアンは手を引っ張られながら叫んだ。確かに視線の奥に車が数台駐車されているのを、エルたちは視認できた。
一番手前に駐車されていた白いトラックの荷台に皆が次々と飛び乗った。
残っていた死体はエルたちを同類にすべく追いかけ、生物兵器の死体は鋭い顎を鳴らし飛翔する。
「開ケ扉ヨ。自動運転モードヘ変更シエンジンヲ掛ケロ。発電制御施設マデ発進セヨ」
ルドルフは能力を使い強引にエンジンを掛けた。トラックに搭載されたシステムは操られて独りでに発進した。
「今度こそ滅びろ」
エルは荷台の上から引き金を引いた。
刹那――――大地を揺らすような振動と音が響き、さきほどより数倍の規模の爆発を起こした。
灼熱の炎が死体を焼き払い、衝撃波が全てを細切れにした。地面まで抉れたのか、石のような破片が雨のように降り注いでいく。
やってやった。コンピューターの道具を消してやった。しかしこれだけで怒りや憎しみが晴れるなんてことは決してない。
「…………ブライアンを、傷付けないでっ……!」
悲痛に満ちた弱々しい声が脳内に届くと、エルは頬に違和感を覚えた。
強く叩かれたらしい。無痛薬で痛覚こそなかった。それでも理解できた。虚無を見ているかのように虚ろだが攻撃的な、こちらに敵意を向けた瞳でエレオノーラが睨みレーザーガンを構えていたからだ。
「……次、ブライアン……傷つけたら…………撃つ。私は、躊躇しない。…………失いたくないから」
そんなの誰だってそうだ。誰だってなにも失いたくはない。
でも彼女は死んでしまった。雲は血に染まり、希望は恐怖を上書きされてしまっていた。冷たくなって、もう動かなくて…………。
「……気を付ける。すまない。もし俺がブライアンを殺したらその銃で撃ち抜いても構わない」
エルは掠れた声で呟くと、俯いた。
敵討ちは正当な権利だ。コンピューター共を全部殺した後の事ならもうどうだっていい。彼女は蘇らないから、それ以上生きていても苦しいだけだ。
――――死ねば会えるのだろうか。
エルは荷台から下を覗き込んだ。速度は結構出ている。頭から落ちれば頭蓋骨は割れ死の世界に行くだろう。
いや、そんなことしたら、考えたら絶対駄目だ。彼女はもっと生きていたかったはずなんだ。それに……マルコにまで助けられた。あいつが代わりに死んでなければ……あの虫のギロチンによって惨殺されていたはずだった。
まだ生きているのに自殺するなんて、そんなことをするのは駄目だ。
エルは頭を振りかざし自らを罰するべくトラックの荷台で殴打した。
――痛い。痛覚が戻ったわけではないがそんな感覚がした気がした。
もうなにも考えたくない。思い出したくない。なにかを考えると頭が劇毒に蝕まれるかのように、痛覚では感知しない痛みを上げ、全身を奮い立たせるからだ。
エルは現実から目を背けるように過ぎ去っていく景色を傍観し始めた。
地面を照らす街灯のような物は、前から後ろへ流れるように移動し、小さくなり、消えていく。
「あらあら~。せっかく死体集めたのにぃ。所詮は一度死んだ身体ね。死んだら地に屈服して異臭と不快感を与えることしかできない……可燃ゴミよ。虐げられて、全てを晒す汚泥のような物ね」
誰の声でもない。さきほどのヴィンツェンツなどという白髪男の声でもない。
冷徹な――――道化のような女の声。死を軽んじているような声が聞こえた。
エルは立ち上がった。死者までを冒涜するような発言が許せなかった。
彼女を汚泥、ゴミ扱いした発言者を絶対に許してはおかない。発言の内容から声の主はもう一人のミュータントだ。
コンピューターの便利な道具。忠実な下部。コンピューターの同類、仲間。
「嫌ね。そんな殺気立っちゃって……。ただの挨拶じゃない。それともテロリストは挨拶も言葉じゃなくて暴力じゃないと駄目なのかしら? だったら暴力であいさつしてあげる♪」
偽りの夜空が熱された空気のように歪んだ。そこから羽根、足のパーツが段々と見えていき、やがて全体像を露わにした。
また虫だ。電柱のように太い脚を荒ぶらせ、
「キュィィグィィィグィィ!!」
奇異で頭に響く雄叫びを上げた。
「見てたわよ? お友達……蠅に殺されちゃったんですって?」
女はくすりと笑った。死んでしまったマルコのことをバカにし、嘲笑した。
憎い。
声の主が憎い。どうしてそうやって笑うんだ。コンピューターにそうしろと教育されたからか?
「コンピューターの道具として死ぬまでこき使われてこれから死ぬやつよりは、百倍マシだ」
エルは憤怒の念を噴出した。
「あら? 威勢がいいじゃない。発電制御施設に付く前に弱らせて、弱らせて、弱らせて、悲鳴を上げさせて悶え苦しませて――――死なせてって懇願するまで苛んであげるわ? そのあと、目玉をくり抜いて……人体実験の材料にしてあげる。これでミュータントの被験体が二人も増えるわ……ふふふ」
女の声はそこで途切れた。
代わりを果たすかのように宙から次々と虫が現れて、地上からは人ほどの大きさをした二足歩行の灰色の蜥蜴が何十匹も姿を現し始めた。
それらはトラックとほぼ同じ速さで移動し、段々と近づいてくる。すでに数匹の蜥蜴はトラックと並走していた。
「…………敵意。L35、18匹。…………VR80、多数……30匹以上」
「僕が蠅を撃ち落とす。空にいるやつのほうが僕は攻撃しやすい。エルはVR……蜥蜴共を頼んだよ」
頼まれなくても殺してやる。
一番近くにいる蜥蜴に向け、すぐに半液状の劇毒を放った。シャワーのように出された毒を浴びた蜥蜴は悶え、足を絡ませ断末魔をあげていく。
「ギュゴォォォォ!!」
猛々しい呻り声をあげ、二匹の蜥蜴が荷台に飛び乗った。してやったぞと言った様子で口から汚らしい唾液を垂らしている。赤黒い牙が垣間見えた。
間髪を容れず、蜥蜴は槍のような爪をエルの首を目掛け刺突した。エルは間一髪で直撃を避け、頬を掠めた。少しばかりの皮膚と肉が持っていかれ、勢いよく血を吹き出した。
しかしまだ無痛薬は効いている。エルは一切怯むことなく、蜥蜴の口に手を突っ込んだ。牙に触れただけで、線上に皮膚が裂かれた。やはり痛みはない。蜥蜴が腕を噛み千切るよりも素早く蒼い毒の槍を生成し、蜥蜴の身体を貫いた。蜥蜴は断末魔すら上げられず突き刺された箇所から血を吹き出し、力無く荷台から落ちて行った。
「――――これでも、喰らいなさい!」
リディアの声が響いた。見てみると彼女は蜥蜴にレーザーガンを咥えさせていた。蜥蜴は口に咥えている物がどれほど危険かもわからず噛み砕き――――閃光に包まれ、頭部を失った。
力尽きた蜥蜴を車の外に放り投げ、リディアは溜息をつきながら言った。
「……はぁ。怖かった。でも、私だって戦える!」
リディアはブライアンから銃を借り、並走する蜥蜴を撃ち抜いた。




