闘う者たち 3
――争いの火蓋が切られた。
コンクリートの破片と水が、砂煙と共に飛散していく。
「水に濡れたら電撃は使えない」
「仕方ないじゃない。多少の誤差よ」
リディアは慌てる様子もなく、天井の向こうにある建物に向け、ワイヤーを放った。
小さな銃口から飛び出したワイヤーと吸盤は水を浄化する装置に取り付き、上へ昇るための道となった。
水で滑りやすいワイヤーを必死に掴み、急いで地上に出る。
エルは周囲を見渡した。
近くには水を浄化し貯蓄するタンクがあり、少し離れた所に灰色のビルのような発電管理施設がある。
『緊急事態発生。第二発電施設B438地点で規定値を越える衝撃を感知しました。至急確認してください。繰り返します……』
街灯のような物に取り付けられているスピーカーから中性的な合成音による警報が鳴り響いた。
「第六感反応…………敵、衛兵BOT一機。機種PZ300。……時速60で接近」
一瞬だがエレオノーラの姿が露わとなった。エルの目の前、ブライアンの隣にいた彼女は、瞳から幻想的な光を発している。これが私の能力だと説明しているようだった。
ブライアンは再び見えなくなってしまったエレオノーラを守るように腕を伸ばし、命令した。
「ルドルフ! さっそくだ。能力を使ってくれ!」
「姿が見えないと無理だよ」
ルドルフは周囲を警戒し、見渡した。しかし敵の姿は見えない。
「……上から来るぞ」
PZ300がどのような機械か、仕事の関係上理解していたエルはいち早く敵の位置を把握し、偽りの空を振り仰いだ。
上からトラック程度の大きさをした物体が落下してくるのをしっかりと視認した。
エルは瞬時に後退し、その機械に面と向かい合う。
特殊な車輪が付けられた四本の金属で出来た脚、機体の中心から生えるように装備された物々しい灰色の主砲と副砲がこちらに向けられる。
どこかに装備されているであろうスピーカーから声が響いた。
『ハロー。ヴィンツェンツの言う通り、発電施設を襲撃しに来ましたね、反逆者。あなたたちはこのカメラによってすでに撮影されました。すぐに指名手配され、死亡するでしょう。しかし私は【β-shelter】に生まれてしまったバグのような存在である貴方たちのことを知りたいのです』
「なにが言いたい?」
だれかが尋ねた。殺意が満ち満ちて溢れ出ているのが理解できた。
コンピューターの声を発する機械を憎悪が籠った双眸で睨んでいる。
『この中で一人だけ生かしてあげましょう。最初に投降した者を許します。そして私に教えてください。このような悪事を犯す理由を』
「今すぐにでも教えてやる。お前のような融通の聞かないポンコツが理解できるかどうかは分からないけどな」
ブライアンはルドルフの肩を叩きながら豪語した。叩かれたルドルフはニヤリと笑みを見せる。
『あなたの名前は……判明しました。ブライアン-AWですね。いいでしょう。協力感謝します。さっそく教えてください。その理由を』
「俺らにとって、このテロ行為が正義だからだ。悪い行為をしているとは一切考えていない」
『――独善的な意見ですね。あなたたちのやってる行為は明らかな悪です。ルールを守らない人間は、人間の世界で生きる資格などありません。動物を入れる檻などありませんので死んでください』
PZ300は主砲副砲が狙いを定め、脅すかのように赤いレーザーサイトを光らせ向ける。
『装填、標的補足。全て完了しています。制御モード終了次第、標的を殲滅します』
中性的な合成音が響き渡った。
しかし機械は微動だにせず、石像のように固まって動こうとしない。
ルドルフは動かなくなっている機械に近づき、厳つい金属の脚を優しく撫でた。
「ミュータントは非常識。まさかこうも簡単に鹵獲されるなんて想定してなかったろうね……」
ルドルフの瞳は妖しく輝いていた。
余裕の笑みを浮かべ、PZ300の上に飛び乗った。
「これで移動したほうが早い。乗ってくれ」
「いたぞ! あいつらを殺せ!!」
数百メートルほど離れた所から男の怒号が聞こえた。
おそらく【軍事防衛サービスグループ】の兵士だろう。
「行くぞ! お前らも乗れ!!」
ブライアンはいち早くPZ300の背中に乗り、手を伸ばした。
だれもその手を掴んでないように見えた。しかしブライアンはなにかを引っ張り上げるような動作をし、腕を引き上げる。
「…………ありがと」
機械の上から小さな声がした。エレオノーラだ。
「ブライアン! 一つ目の対レーザー装置を展開するわ!!」
「了解だ! 許可する!」
リィデアは機械をよじ登ると、腰につけていたサイコロほどの大きさをした、六角形の機械……対レーザー装置を宙に投げ捨てた。
『フォースフィールドを展開します。――危険ですので爆破物は使用しないでください。』
投げられた対レーザー装置から半透明の膜のようなものが生成され、PZ300周辺に覆いかぶさった。
次の刹那――――怒号の響いた方向から赤い光線が幾つも放たれた。
光線は目に見えると同時に半透明の膜のようなものに触れた。
すると光線は屈折し、弱々しい微光へと変化すると、視認できなくなった。
「今のうちに乗れ!!」
ブライアンの指示に皆従った。
全員がPZ300の背中に乗ったのを確認すると、ルドルフは機械に指示を出した。
「敵ヲ迎撃。及ビ我々ヲ発電管理施設マデ輸送セヨ」
『手動モードを承認しました。命令に従い、行動を開始します』
「ごちゃごちゃ言ってないでもっと早くしなさいよ」
リディアは落ち着きのない様子で機械を叩いた。彼女の望みを叶えるかのように機械は急発進し、振り落とされそうにもなった。
アーロンは平静を保ち、背後の敵を見据え狙撃銃を構えた。
「ブライアン。敵が小型車両を使って追跡してきている。殺すぞ」
「あぁ、やってやれ」
殺し足りない殺人鬼のような、血煙を浴びたような表情を浮かべアーロンは引き金を引いた。
甲高い銃声が鳴り響くと足元は大きく揺れていたにも関わらず、数百メートル後ろにいた敵兵の頭を貫き吹き飛ばした。
次弾装填――――発射。
装填――発射。
一発、また一発と弾丸が空を切り裂くたびに、だれかが頭を破裂させ、死んでいく。
「…………。全員、屠ってやった。アハハ、天誅だ」
平静な表情を保ってきたアーロンは追跡してくる敵兵を殺すと恍惚とした表情を浮かべた。
さきほどまで銃声と怒号が響いていた発電施設周辺は、PZ300の走行音と施設中に鳴り響くサイレンの音だけとなった。
エルは恐怖を覚えた。硝煙が漂う中、一人恍惚とした笑顔で笑う男を見て戦慄が走った。
ふと周囲を見ると、ブライアンたちは憐れむような目でアーロンを見ているような気がした。エレオノーラは姿を現さないがおそらく怯えているだろう。
……エルは周囲を断絶し思考した。
もしティアがいたとしたら、俺はどう見えているのだろうか? 俺は怖がられるのだろうか、恐れられるのだろうか。嫌だ。そんなの嫌だ。俺はティアに嫌われたくない。
離れたくない。しかし、これでは…………。
「――――ル! ――――エル!! エル!」
「……なんだ?」
ブライアンの激しい呼びかけにエルは我に帰る。
PZ300は依然走行中で、広いコンクリートの広間を駆け抜けている。
見てみると、全員がガスマスクと対毒コートを着用していた。
「なんだじゃねぇよ! こんなときにボケッとするな! 死んだらそれで全部なんだよ!! エレオノーラが近くに生物兵器がいるって言った! 早く毒の準備しろ!」
怒号が耳に響くと同時に、コンクリートを砕き、砂煙を上げ、地中から巨大な生物が二匹も姿を現した。
その生物は蜥蜴に熊や猪が混ざったような異質な外見をしている。生物兵器だ。
加えて刃物のように鋭い牙と爪。鞭のような尻尾、戦車と同等の巨大さ。どれを取っても危険極まりない生物だろう。
「ゴガァァァア!!」
その生物兵器は爆発音のように衝撃的で耳に鋭い痛みを与えるような雄叫びを上げた。
リディアやマルコは応戦し一匹に対しレーザーガンを放った。
金属板が空を斬るような音と共に放たれた赤い光線は生物兵器の胴体に見事命中した。
生物兵器は被弾部位から赤い鮮血を吹き流すも怯むことなくこちらに突進し出した。
「主砲! 砲撃セヨ!」
『承認しました。砲撃を開始します――――』
ルドルフが能力を使い、PZ300に砲撃をさせた。砲弾ではなく、蒼白く巨大なレーザー光線が主砲の口から放たれた。
光線は串刺しにするかのように一匹の身体を貫いた。生物兵器は頭から中心部までを溶かされ、力無く血の池に倒れ込んだ。
『次光発射まで――40秒』
「くそっ! やっぱりミュータントじゃない奴は使えない。……エル、頼んだ。能力を見せてくれ」
生き残った一匹は走行するPZ300を追いかけていく。
段々と距離は近づき数秒もすれば追いつかれてしまうだろう。
……ガスマスクを被る時間はない。エルはすぐに生物兵器に手を向けた。
殺してもティアは俺を怖がったりはしない。
思い出せ! 俺が自分自身の親を殺した時、ティアは恐れて逃げて行ったか?
否、彼女はそんなことで逃げはしなかった。怖がる必要はない。抱きしめてくれたじゃないか!
それに――――コンピューター共の所為で彼女は怖がることも出来なくなってしまったじゃないか。
エルの瞳が強い輝きを放ち手から毒ガスを噴出した。




