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 闘う者たち 2

【アンチテーゼ】は作戦実行のために再び地下室へ集合していた。

「遅かったな。エル。どこに行ってたんだ?」

ブライアンは皆にガスマスクとコートを渡しながら、呟くように言った。

「集合時間に間に合ったなら…………どこでもいいだろ」

エルはあの廃ビルには行かないようにした。行ってしまったら最後、胸を締め付けられるような現実に襲われ、戻れなくなってしまう気がして怖かったからだ。

それでも我慢できずに、エルはティアとの思い出の場所を回っていた。ちょっとした店から、裏路地まで……一緒に行ったところは全部行った。

最後に彼女の家を見た。そこにはもうなにもなかった。

新しい建物を造るための資材が置かれているだけ。

エルは静まりきった荒野に一人でいるような寂しさを覚えた。気付けば目頭が熱くなっていた。

そのためエルの瞳はミュータント云々と関係無しに赤くなっている。

しかしそんな事情、エル以外のだれかが知るはずもない。

「……ブライアン。……不安がってた。作戦目前だから…………自重して」

自身よりも小さな少女に冷静に叱られ、エルは溜息を付き、部屋の四隅に寄り掛かかった。

「これより作戦行動に移る!! 各自役割を忘れるな! なにか質問はあるか?」

……沈黙。張り詰めるような空気が部屋に充満し、

「そして可能な限りは死ぬな! ついて来い」

一瞬で霧散した。

ブライアンは駆け足で部屋を出て行った。エレオノーラは小さな声で待ってと言いながらそれに付いて行く。

エルたちは二人の背中を追って部屋を出て梯を上がった。

そのままドタドタと外に出ると、彼らの目の前にはマイクロバスが停まっていた。

「乗りな。一度乗ったら酔っても途中で降りれないぜ」

「おぉ。詩的でいいねぇ」

マルコが呑気そうにそんなコメントをすると、ブライアンはサングラスに手を掛け顔を隠した。

「阿呆くさ」

アーロンは呆れて呟いた。

「オレはそんな深い意味を込めて言ったつもりはねぇ! いいから早く乗れ」

ブライアンは怒鳴り散らすと運転席へ向かった。エレオノーラは無表情ながらも面白おかしい様子で彼を見詰めながら助手席にぽんと座った。

「装備はちゃんと積んでるわよね?」

リディアは運転席にいるブライアンに尋ねた。

「見れば分かるんじゃないかな?」

ルドルフが嫌味ったらしく口を挟んだ。しかしリディアはそれを流れるように無視し、ブライアンの返答を待った。

運転席の窓からゴツイ腕が姿を表すと、大きな手は当たり前だろと言いたげにグッドサインをした。

「りょーかい♪」

リディアは笑みを浮かべ、突っ立っていたアーロンを引っ張りながらバスに乗り込んだ。

「これでようやく偽りの空に見下されることもなくなるかもしれないと思うと、胸が高鳴るよ」

マルコは黒い空を見上げ、『さようなら』と呟くとバスに乗り込んで行った。

ルドルフはバスからほんの少しだけ距離を取り、独り立っていた。エルは気になって彼に尋ねた。

「また脳内通信か?」

ルドルフは答えた。

「よく分かったね。今から出発するって連絡を受けたところだよ。それに対して僕もだって答えたのさ。今行くよ」

「遅せーぞ。早くしやがれ!」

ブライアンの怒鳴り声が響き渡りエルとルドルフは駆け足で乗り込んだ。

バスの中は過剰なほどに積まれた荷物の所為でとても狭かった。

銃火器や精密機械、プラズマグレネードなど、どれも取り扱いに注意が必要な物ばかりだ。

「どうやってこんなに手に入れたんだい?」

ルドルフが尋ねると、エレオノーラが座席の方を向いて答えた。

「…………自由商会(フリー・エンタープライズ)

「購入資金は? 僕らの組織(ランプロス)でも武器は結構集めたけど、こんなには無理だったよ? それにコンピューターにバレずに武器やらを集めるなんて困難だ」

「ミュータントだからぼられたんじゃないかしら?」

リディアの嫌味を無視し、ルドルフは返答を待った。

「……タダ同然で……支援してくれる人、いた」

「変わった人だね。商会の人間は守銭奴ばっかりなのに」

「……金で…………命は、買えない……死んだらそれで、全部だからって、言ってた」

「その人は相当な善人だよ」

敵討ちが目的の非ミュータントを見ながら、ルドルフは微笑んだ。

「だってその人のおかげで、君たちは命で金と地位を得るやつを殺せるんだから。ねぇ?」

これ以上はマズイと考えたのか、ブライアンは後ろを向くとルドルフの瞳を見て言った。

「こんな時までギスギスするな。俺たちは今は同じ目的を持った仲間だろ。ルドルフ、お前がミュータントじゃない奴を嫌う理由はよくわかる。お前もまだ若いからな。けど今は以心伝心、協力し合わないと怪我するぜ」

二人はしばらく睨み合い硬直したが、やがてルドルフが折れた。

「分かった。悪かったよ」

ブライアンは僅かに笑みを見せ、すぐに切り詰めるような表情に戻った。

「それでいい。それに油断してるとなにがあるかわからねぇんだ。気を付けろよ?」

ブライアンは思い切りアクセルを踏んだ。

車はほんの僅かに振動すると第二発電施設の方へと向かった。

バスが動き出すと、リディアは銃器が弾詰まりなどをしていないかを確認し、渡せる人に渡していった。

発電施設に向かって運転しているブライアンと、その様子を心配そうに見つめるエレオノーラを除いた5人は、銃器などを腰に掛けた。誤射防止のため、まだ安全装置は掛かっている。

…………いくらか時間が経過し、発電施設が目視可能な距離まで来た。そこにはちょうど武器補給用の機械があり、バスはそこで停車した。

ブライアンは座席にあった銃器といくつかのプラズマグレネードを取ると車から降りた。

緊張した様子で道路を歩き、周囲に第三者がいないのを確認すると慣れた様子でマンホールを退かす。

「来い。ここから行くぞ」

ブライアンの命令に従い、バスにいた全員が吸い込まれるようにマンホールの中へと入った。

明かりはなく、蒸し暑い。水が流れる音と共に、不快感を与える悪臭が漂っている。

「ここをしばらく歩く。もしかしたらBOTがいるかもしれねぇけど、我慢しろ」

ブライアンはどこからか取り出した懐中電灯で目の前を照らすとそのまま歩き出した。

「…………大丈夫、そしたら、私が…………気づくから」

エレオノーラの声が聞こえた。エルは何気なく辺りを見渡すも彼女の姿を見つけることができなかった。

「エル……そんなキョロキョロしても、能力使ってるから…………見つける、無理」

察知されなくなる能力とやらを使用しているらしい。

片言な言葉にほんの少し苦戦しながらも、エルは理解した。

「エル。あなた、明かりも無しに進む気なの? 【マンハント】全員に行き渡るように、残りの懐中電灯は私が持ってるわ。受け取りなさい。アーロン、マルコ。あなたたちのもあるわ」

ライトを受け取った三人はリディアに軽い礼をしながらそれを受け取った。

「僕の分はないのかな?」

ルドルフは首を傾けながらリディアに尋ねると、物欲しそうに手を伸ばした。

すると彼女は、鬱陶しそうに伸ばされた手をあしらい、スタスタと早足で歩きルドルフから離れて行ってしまった。

「まぁ、僕……すでに持ってるんだけどね。ブライアンがくれたから」

自慢げに懐中電灯を振り回し、宙に投げ華麗にキャッチすると同時にONのスイッチを入れた。

人工的で明るい光がルドルフの顔を照らした。

「おぉ、格好いいね」

マルコは純粋に褒め、

「いつ敵が来るかわからないのに随分と余裕だな。ミュータントだからって調子に乗るな」

アーロンは冷え切った怒りを見せ、エルは何も言わずにブライアンを追って行った。

「彼はエレオノーラを信じてないようだね。……まぁ非ミュータントには分からないことか」


――――下水道を歩き始めて更に時間が経過した。

幸いにも衛兵BOTや第三者の人間などに会う事もなく、順調に進んでいた。

彼らの隣を流れていた下水はポンプによって汲み上げられ地上へ上がっている。

ブライアンはそのポンプに寄り掛かると、上を指差して言った。

「ここのポンプは水を汲み上げ浄化したあと、発電施設にある冷却装置に送っている。つまりは……この真上から襲撃すればゴールまでの距離……制御室までの距離は約4キロだ」

「どうやって上に行くんだ?」

エルは天井を照らした。

光は出口を探しように動いた。しかしそんなものはなく、天井は凹凸もなく灰色一色だ。

ブライアンはリディアのことを指差した。

「任せて」

リディアは意気揚々と一言だけ呟くと、さきほどバスにあった複雑な機械の一つをどこからともなく取り出した。

「それは……爆弾かな?」

「えぇ。火薬の量を調整して天井だけ壊せるようにしたものよ。上方向だけに衝撃が行くの」

ルドルフの質問を無視することなく、リディアはそう答えた。

そして手に持った機械……爆弾を床に設置し、少しばかり操作すると、リディアのタブレット端末からアナウンスが流れた。

『リムーバル機体と同期しました。機体αの操作をタブレットで行ってください』

「これで爆弾を遠隔操作できるわ。……離れて、爆破させるから」

リディアは忠告をして、数十秒の猶予を取ると躊躇することなくタブレットの画面をタッチする。

次の刹那、天井に向けて火柱が立ち、爆破による衝撃と橙の熱が下水道の天井を、隣に伸びていたポンプもろとも吹き飛ばした。

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