闘う者たち 1
四章:闘う者たち
偽りの太陽は消え失せ、地下国家に夜の帳が下りた。
電気の力で光り輝く月の下、発電管理施設にある屋外喫煙場で、セドリックは哀愁を漂わせながら電話を手に取っていた。
「もしもし……あぁ。俺だ。できれば昼間のうちに連絡を付けたかったんだが……すまない。今日は帰れそうにない」
セドリックは謝罪すると癖で一礼をした。しかし電話相手にそんな姿は一切見えない。
周りの人が思わずそちらを向いてしまうほどの大声で、罵倒中傷が電話から響いた。ヒステリックな女性の声だった。
セドリックは落ち着いた様子で連絡を伝えた。
「今日から大仕事でね。しばらく会えないかもしれない。でもその分大金が手に入る。手術代もこれで賄えるぞ」
セドリックは嬉しそうに笑顔を浮かべると電話を片手にガッツポーズした。しかし電話相手は憤慨することを止めない。
『そんなこと言って!! どうせまた浮気してるんでしょ!?』
「いや。もうしてない。してたら電話なんかしてない。……この仕事は命懸けなんだよ。最後にお前の声が聞きたかった。よかったよ、元気そうで……んじゃ、一か月後に会おう」
電話からまだ声は聞こえていた。しかしセドリックはそこで電話を切り、ポケットにしまってしまった。
その様子を見ていた【動力管理サービスグループ】の下っ端の一人が不思議そうに尋ねる。
「いいのですか? ここは襲撃されるかもしれないんですよ? 事実、上司が殺されてますし……まぁ私には関係ないことですが」
セドリックは情けない顔をしながら、手すりに寄り掛かり答えた。
「いいんだよ。あれ以上はなに言っても怒っちまうからな……あぁ、こんなんだったらあのとき浮気するんじゃなかった」
「……浮気ですか?」
「あぁ。一度だけ。10年前ぐらいだったかな? 本当に後悔してるよ」
「そうですか。ところで…………煙草入ります?」
「おっ? いいのか。じゃぁ貰おう」
下っ端はポケットから煙草の箱を取り出し、そこから一本をセドリックに手渡すと先端に火を付ける。
煙はゆっくりと空へと昇る。
「おぉ。助かる……ってその煙草のパッケージ、なんで絵が髑髏なんだ? なんか不吉だな」
「確かにそうですね。なにも書いてないも奴ありますけど、そっちにします?」
「いや、いい。せっかくくれたものだしな。それよりお前は逃げないのか? 戦闘やら犯罪絡みは仕事じゃないだろ? 【動力管理サービスグループ】の仕事は電力の調整、発電施設のメンテナンスを行うこと。そうだろ?」
「緊急事態だからどうこうって言われて軍人ごっこをする羽目になりました。ほら」
下っ端は腰に掛けたレーザーガンとプラズマグレネード、対レーザー装置を見せた。
セドリックは困ったように頭を抱えた。
「そんな装備じゃ多分死ぬな。だからマニュアル通りの物しか配れないコンピューターは嫌なんだ」
「えっと……? どゆこと?」
「敵は実弾銃を持ってる。対レーザー装置は全く意味がない。戦闘は俺一人で充分だから下っ端君はタンスにでも隠れてるんだな」
セドリック管理室の方を指差すと瞳を光らせた。それは眩い銀色で水晶のように透き通り光だ。
下っ端は隣にいる男がミュータントだという事実に驚き動揺した。
それでも逃げることも無ければ後ずさることもなく神妙な表情を浮かべ突っ立っていた。
「怖くないのか?」
「コンピューター様々よりは百倍マシですよ」
「お前…………コンピューター信仰教会の人間じゃないのか? 【動力管理サービスグループ】と【中央管理サービスグループ】は信者の仕事だろ?」
「そうですね。しかし信仰なんて形だけです。保身のために媚びを売ってるんですよ」
「そうだったのか……。にしてもなんでこんなどうでもいい話なんかしてるんだ。とにかく戦闘になったらお前は邪魔だから隠れてろ」
「分かりましたよ。こっちも死にたくありませんからね。お言葉に甘えさせていただきます」
下っ端はそう言ってどこかへ行ってしまった。
セドリックはその背中を見えなくなるまで見詰め、呆れ混じりに呟いた。
「ははっ……。俺だって死にたかねぇっつーの」
ニヒルな笑みを浮かべ、煙草を吹かし…………咽た。
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