絡む陰謀 4
同時刻……犯罪のデータベースが数多く存在し、【中央管理サービスグループ】……警察の本拠地である中央管理施設。そこに【マンハント】はいた。
彼らは数多く存在するパソコンの一つを使い、【アンチテーゼ】に殺されたと思われる人間をリスト化し、共通点を探していた。
「殺害された人間の共通点はママに多大な貢献をしているということ。これは高い地位を嫉んだ悪質かつ非道なテロよ」
回転椅子をぐるぐると回し金色の美しい髪を揺らしながら少女は訴えた。
しかし隣に座っていた黒い髪の少年はその意見を否定した。
「いや、カモフラージュで殺された人間がいる。高い地位以外に確実に言えることはある! そう、殺されている人間は一番街住まいだ!」
一番街……。金持ちで高い地位でないと住むことができない高級住宅街のことだ。
少年は殺された人間の住所と総資産を他三人に見せ、したり顔を浮かべる。
金髪の少女は呆れ混じりの溜息を付いた後、姦しく口を開いた。
「なにが『いや』……よ!! それじゃぁ私と言ってること同じじゃない!」
「細かいことをガミガミ言うなよ、エルザ」
エルザと呼ばれた金髪の少女はキッと蛇のようにその少年を睨んだ。
対抗するように黒い髪の少年は瞳を光らせた。その光は蒼い鬼火のように妖しく揺れる。
「落ち着け二人共。お前ら二人ともオツムが微妙なんだ。少し黙ってろ。しかしロイの言ったカモフラージュというのは正しいな」
カタカタとパソコンを操作しながら、高身長でくすんだ白髪を伸ばし、冷静な雰囲気を漂わせる青年は黒髪の少年を指差して呟いた。
「だろー! やっぱ俺の言ったことのほうが正しかったんだって」
ロイと呼ばれた黒い髪の少年は胸を張ってエルザを見下ろした。
「なによ! 偶然でしょ偶然。ヴィンツェンツもロイのことを調子に乗らせるような発言したら駄目!」
「……黙れと言ったろ」
白髪の青年……ヴィンツェンツは威圧的な声を発し、二人にゆっくりと顔を向ける。瞳からは猛々しい炎のような光と眩いまでの白い光が零れ出ていた。
「次、余計なこと言ったら、お前らの腕をこうする」
そう言ってヴィンツェンツは手に持っていたマウスを、くしゃりと潰し床に落とした。
潰れたマウスはまるで紙屑のようだった。
「まぁまぁ……。そんな怒らなくても」
「ユリアーナは気にせず作業してくれ」
「は、はい……」
ヴィンツェンツの態度に押され、ユリアーナと呼ばれた少女は黒混じり銀の髪を弄りながら調べ事に戻った。
「殺された人物は全員、お母さんに貢献している。これは間違いないだろう。そして…………彼らが殺されることによって統率がとれなくなる所が幾つかある」
三人はヴィンツェンツの目を見て、こくこくと頷く。
「彼らの狙いは確実に発電施設だ。……私の直感がそう告げている」
ヴィンツェンツは瞳を輝かせていた。
紫と紅の二色の光が交差するように漂い、風など無いにも関わらず白い髪はマントのように靡き始めた。
「スゴイじゃない! やっぱヴィンツェンツの能力はこういう時便利ね」
エルザは興奮気味にそう発言すると、恍惚な表情を浮かべた。
「はぁー……。ヴィンツェンツなんて、口調と髪型女じゃん。どこかいいんだよ…………」
ロイは誰にも聞こえないほど小さな声でそう愚痴を溢した。
しかし私情を挟んで任務に支障が出ては困る。ヴィンツェンツへの嫉妬を押え、冷静に訊くべきことを尋ねた。
「でも発電施設は四つあるぜ? そのテロリスト共がどこを狙うかはさすがに分からないから……俺らはどこを防衛すればいいんだ? 一人一か所とか?」
「一人一か所は危険だ。単独だと戦闘に不向きなエルザとユリアーナがいるからな。二手に別れる」
「私! ヴィンツェンツと一緒に――――」
「ロイとエルザは第四発電施設。ユリアーナは私と第三発電施設に行ってもらう。それがミュータント能力的に最も良い組み合わせだ。第一第二は【軍事防衛サービスグループ】に頼もう」
少しばかりか自慢げな表情を浮かべるヴィンツェンツを見て、エルザは憂い気に溜息をつき、ロイを睨んだ。
ロイは睨まれていることを気にすることもなく、エルザに言った。
「お母さんの願いだから必ず成功させたいけど……もし危なくなったら撤退しろよな。死んだり捕まったりすればそこで終わりだけど、逃げても生きてればまたテロリストを捕まえるチャンスがあるからな」
「なによ……もう弱気になってるの?」
「弱気になんかなってねぇよ。でもエルザだって画像で見たろ? テロリストに殺された人の画像……胴体がえぐれてたやつ」
エルザは言われて思い出し青ざめた顔をした。
「あんな風になりたくないし、なっただれかを見たくはない」
ユリアーナはロイの発言に深く同意し頷いた。
「えぇ……。あんな醜い死体にはなりたくないわねぇ」
「そうだ。これ以上テロリストの好きにはさせないさ……。私は【軍事防衛サービスグループ】と話してるから、エルザとロイは先に第三発電施設に行っててくれ」
「分かった。でもいつまで発電施設を護衛する気なんだ?」
「とりあえず一ヶ月だ。その間にも高い地位の人間が殺され続けたら変更する。連絡は定期的にタブレット端末を使用する。無くすなよ?」
「おーけー。じゃ! 行ってくるぜ」
ロイは凶暴な笑顔を浮かべ、すぐに立ち上がった。
パソコンと向き合い固まっていた首や背中をパキポキと鳴らし、中央管理施設の出口である階段へと歩き始め……その足を止めた。
「おいエルザ。いつまでも座ってないでさっさと行くぞ」
席で憂鬱そうに座っているエルザの肩を乱暴に叩き、急げと催促する。
エルザは後ろにいるロイを、ジッと見詰め溜息をつくとそっぽを向いてそそくさと階段へ走って行った。
その様子を見ていたヴィンツェンツは、ロイに付け足すように言った。
「エルザはお前よりも感情的になりやすいからな……フォローしてやってくれ」
ロイは鋭く睨み付け、舌打ちをした。
「分かってるつーの。てかこうなったのお前の所為だからな」
「すまんがよくわからん」
「分かっとけ。バーカ」
そう言ってエルザを追いかけ、階段を駆け上がって行った。
その背中を見届けてから、ヴィンツェンツは再びパソコンと向き合い【軍事防衛サービスグループ】に電話をかけた。
『はい。こちら【軍事防衛サービスグループ】です。【中央管理グループサービス】のかたですか?』
パソコンから若い男の声が響いた。
ヴィンツェンツはパソコンに付いているマイクに向けて言った。
「私は【マンハント】のヴィンツェンツ-Aだ。そう上の奴に伝えろ」
『……? はぁ、了解いたしました。少々お待ちください』
ガタリと席を立つ音が聞こえてから数分後、さきほどとは別の声が話しかけた。
『驚いたよ。本当にいたとはね。君たちの要望は必ず受け入れろとコンピューター様から伝えられている。自分たちにできることならなんでもしようじゃないか』
「話が分かりやすくて助かる。ではさっそく要望をさせてもらおう。第一発電施設と第二発電施設に一番街防衛用の衛兵BOTと最も貢献できる軍人を配備してくれ」
『了解いたしました。…………軍人の方は、安全なエリートのみでよろしいでしょうか?』
「どういう意味だ?」
質問の直後、重々しい空気が向こう側にいるであろう会話相手から伝わってきた。
『ミュータントの可能性がある者が一人いましてね。とても貢献的で彼一人で文字通り百人力なのですよ。役に立つと言えばそれまでです。しかしミュータントであると思ったほうがいいでしょう』
「そいつが犯罪者を鎮圧したときの写真とかはあるか?」
『犯罪者鎮圧完了の証拠提出を必ずしますからね。沢山ありますよ。その写真も見たらわかります。おかしな点がいくつかありますよ』
「数枚ほど送ってくれ」
『了解いたしました。……っと送信。――――PDFデータの受け取りを確認しました』
そんな声が聞こえたと同時に、ヴィンツェンツの操作するパソコンに画像が届いたことを示すメッセージが表示された。
すぐに画像ファイルを開き、中身を確認する。
どれもこれも吐き気のするほどにバラバラになった死体の画像だった。それは血の池にゴロゴロと転がっている。
「気色悪いゴミ見せないでくれる? 見てるとだれかをそうしたくなるの」
隣の席から覗きこんだユリアーナはすぐに目を逸らしてしまった。
ヴィンツェンツはしばらくの間、画像を凝視した後、ニヤリと笑みを浮かべ告げた。
「こいつと話しがしたい。それとわかる限りの詳細を送って欲しい。あとその気持ち悪い敬語を止めてくれ」
『了解いたしました。しかし敬語の方は癖でして……勘弁してください。少し時間をお取りになりますがその間に詳細を確認なされてください――――PDFデータの受け取りを確認しました』
内容は至って普通だった。その男の顔写真とセドリック-Wという名前から始まって……年齢41、住所、家族構成、職場での立ち位置などがたらたらと書かれている。最後の一行に、
『攻撃性ミュータントの可能性有り。裏切りの可能性 中(命令だけしていれば何も聞かずに言う事は聞くのでミュータントであるか否かを問うのは得策ではない)』
と書かれて終わっていた。
『お待たせいたし……た。ただいま変わり……る』
『こちらセドリック-Wです』
「お前ミュータントだろ」
『……はい?』
「水か氷……それか身体に異常を与えるタイプ。死体の写真を見たけど血溜まりがやけに薄いん。当たっているならこのまま電話切るな」
『…………ミュータントなのは自分だけ。家族に手を出さないでくれ。手を出すならすぐに会話は終了。家族と一緒に【アンチテーゼ】にでも加入する。そしてお前らを殺してやる』
若くはないが力強く重々しい声。ヴィンツェンツは彼の言葉が脅しであって脅しでないことが理解できた。
「それ……私たちじゃない人に言っていたら即死刑だぞ」
ヴィンツェンツは呆れ混じりの溜息を付いた。
しかしそんなことを気にする様子もなく、セドリックは淡々とした様子で話し続けた。
『ご忠告感謝しよう。しかし普通の奴はセドリック-Wがミュータントかどうかを確認しない。便利な道具を失いたくないから。でもお前らは聞いた。イレギュラーだ』
「分かってるじゃないか。私たちはイレギュラーだ。なにせミュータントだからな」
『…………』
唖然としているのか、セドリックは沈黙した。
「私たちの任務は連続殺人および爆破、器物損害、危険物散布、実弾銃所持法違反、不法侵入、窃盗、反逆罪の犯人である【アンチテーゼ】を捕縛もしくは処刑すること。野良ミュータントを捕まえることじゃない。だよな? ユリアーナ」
「キャハ! 皆殺しでも構わないけどね」
「…………まぁ、そういうわけだ。私たちはセドリックを捕まえるつもりはない。従うならばな。従わないなら……そうだな。娘と奥さんが売られ、セドリックは死ぬ。あっ、違うな。娘のキャロラインは病気らしいから普通に殺処分される」
『従う。家族には手を出すな』
「従うなら一生遊んで暮らせる金を用意しよう……160万ドルくらいか? これだけあれば臓器移植も簡単だな。従いたいならそれ相応の態度を示せ」
『やらせてください。自分には金が必要です』
即答だった。重々しい声にどこか喜びが混じっていた。
ヴィンツェンツは笑いながら云々と頷いて、カタカタと作業をし始めた。
「攻撃性ミュータントの可能性があるにも関わらず貴様が処刑されたり拷問されない理由がよく分かった。その態度を見れば……いや、聞けば納得だ。少し待ってろ、今指令書を作るからそれをPDFで送る」
『了解です』
セドリックの形だけは丁寧な返事を聞きながら、黙々とタイピングをし、文章を作っていく。
その作業は二分ほどで完了した。
「こんなんでいいかな?」
ヴィンツェンツが質問すると、ユリアーナはどれどれとパソコンの画面を覗き込んだ。
――――
セドリック-AWを甲とする。【マンハント】ヴィンツェンツ-Aを乙とする。
上記当事間において特別防衛任務をするために次のとおり契約する。
契約期間中、甲は【軍事防衛サービスグループ】に従う必要はなくなる。甲は乙に従うものとする。
甲は第二発電施設の警護、【アンチテーゼ】の捕縛または処刑を行う事。また、契約期間中、乙以外と連絡を取ってはならない。
乙は契約終了時に甲にX年9月27日までに160万ドル支払わなければならない。また、【アンチテーゼ】捕縛の際はX年9月27日までに甲に100万ドルを支払う事。甲が契約期間中に殺害された場合、乙はX年9月6日までに甲に100万ドルを支払う。
この契約はX年8月7日から9月6日まで有効である。ただしX年9月1日までに双方協議の上で契約を更新できる。
以上の契約を証するために本書を二通制作し、甲乙記名の上格一枚を現物にて保存する。
X年8月7日
ps.あとで私の連絡先を伝えときます。
――――
「………………キャハ! 甲乙とか意味不明ね。【アンチテーゼ】を殺せって指示をすれば解決じゃない」
ユリアーナは困ったように首を傾げた。
「正直私も分かり辛いと思う。用はセドリックが一か月の間、第二発電施設を防衛して……つまりは【マンハント】に協力しろ、っていう契約。それに対して金を支払うことが真実であることの証明」
「そういうことね。わたし、まどろっこしいのは嫌いだわ。もっと血で血を争うような単純な事柄がいいわね」
曖昧ながらも同意を貰ったヴィンツェンツは、画面を印刷した後、セドリックに向けて送信した。
『ピピ……。送信完了しました』
中性的な合成音が耳に入るとヴィンツェンツは席を立ちあがった。
「行こう。次に私たちがやるべきことは第四発電施設で厳重警戒することだ」
「了解。ふふふ……! 絶対殺してあげるわね。テロリストの人」
「あぁ、そうだな。私たちの手で捕まえれば、母様はきっと喜びになってくださる」
ヴィンツェンツは恍惚とした表情を浮かべる。それはまさしく狂信者の笑みだ。




