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絡む陰謀 3

「ブライアン……心配した」

彼のゴツイ肩を見るなり、エレオノーラはそう呟いた。

「ははっ。上に行ってただけだよ。あそこは安全だ。……どこかのだれかさんが持ち込んだ汚染物質以外は……な」

「悪いか?」

「あぁ。平和になったらあそこで暮らすつもりだったからな。まぁそんなこと今はどうでもいい。今は平和じゃないからな。そしてこいつがミュータントを率いてるリーダー役だ」

ブライアンの後ろから男が入ってきた。

男はエルと同じ程度の身長で年も若く見える。黒と金色が混ざった奇妙な髪。瞳は左と右で色が変わっていて黒と緑だった。

「よしてくれ。僕は師匠の意志を引き継いだだけだよ……僕はルドルフ-Wという。これから君達の作戦に加わることになる。すでに聞いたかもしれないが、僕はミュータント保護組織【ランプロス】のリーダーをやらせてもらっている。……この中にミュータントはいるかい?」

ルドルフは瞳を輝かせた。深淵を思わせる闇色と明るく幻想的な緑の光があいまって神々しい。ミュータントのリーダーだからか、黒と金の髪さえも朧げな光を放ち、超常的な力によって靡いていた。

エレオノーラは返事代わりに瞳を光らせた。

ルドルフには負けていたが、彼女の光も美しく輝いていた。

「…………!? 君は……いや、気のせいだろう。なんでもない。よろしく、えっと……名前は?」

「エレオノーラ」

ぼそりと吐き捨てるように名前を呟くと、エレオノーラは席に戻った。

ルドルフは膝合を曲げ、目線の位置を同じにすると、じっとその瞳を睨んだ。

「はは、僕の家族はミュータントだからって皆殺しにされたけど……妹にでも合った気分だ。とは言ってもミュータント能力の使いすぎで記憶が曖昧なんだけどね」

「なっ!? ミュータント能力には副作用があるのか? オレは聞いてないぞ! エレオノーラは大丈夫なのか!?」

ブライアンは酷く動揺して、ルドルフの両肩を握るとグイグイと揺らした。

「あるに決まってるじゃないか……! ゆ、揺らすな。やめろ……」

「おっと……すまん、すまん」

急に我に帰ったブライアンはそっと肩を離し、一歩後ろに下がった。

「ゴホン! ミュータント能力は強力だ。でも強力な力には副作用とか、リスクとかが普通あるだろう? ミュータントもそうだ。例えば電気を使う能力者はその電気によって健康を害し、寿命を縮め、苦痛を覚えたりする。僕がそれさ」

ブライアンは呆然とした後、急に動き出した。

エレオノーラの瞳を凝視したり、熱が出てないかを確認している…………。

その様子はまるで過保護な父親だ。マルコは楽しげにその様子を眺めていた。

するとエレオノーラは恥ずかしかったのか、ブライアンから離れるように後退した。

「やめて。ブライアン…………恥ずかしい、よ? ……私、副作用…………感じた覚え、ない。ところで……ルドルフの妹、どんな人……?」

「僕の妹? すごい可愛いくて、活発的だった……気がする。名前は覚えてない。多分、エレオノーラちゃんは僕の妹とは瞳の色が違う…………? ……駄目だ。思い出そうとすると頭がビリビリと痺れる。痛い。まぁ、ミュータントならだれだって家族同然さ。約束する、君は絶対に守って見せよう。ミュータントは彼女だけかい?」

俺もだよ。とエルは呟き瞳を紅く光らせた。微光は軌跡を描くように動き霞んでいる。

「二人もミュータントがいるのか。驚きだよ。ミュータントなら僕は君たち二人を優先して護衛しよう。あと、発電施設侵入に必要なリディアさんもね」

「付け足すように言われても困るわ。あんたにとってミュータント以外どうでもいいのかしら?」

ルドルフは頷き、すぐに肯定した。

瞳に憎しみの炎が灯り、親の仇を見るような目でミュータントでない人間を強く睨んだ。

底知れぬ狂気を感じ、エルは手を突き出した。瞳は依然輝いていた。

アーロンは実弾銃を向けた。あくまで威嚇のためか引き金に指は入れていない。

敵意を向ける同類に対しルドルフは淡々とした口調で告げる。

「僕はミュータントじゃない人間が嫌いだ、憎んでいる。けれど君たちを殺してもなんもメリットがないからね。殺さないよ、助けないけど」

「なんで私たち非ミュータントのことが嫌いなのかしら?」

リディアは臆することなく、むしろルドルフに近づき、真正面に仁王立ちして堂々と尋ねた。額から汗が数滴落ちて行った。

張り詰めた空気に萎縮し、エレオノーラとマルコは遠くで小さくなっている。

「まずデリカシーが欠如している。今の君がその例だよ」

リディアは憤慨した。

「ふざけないで」

「……まぁどうせいつか話すことになるんなら話してやるよ。……ミュータントは遺伝的なものでね。両親がミュータントだと子は確実に引き継ぐ。そんなわけで家族全員ミュータントだったんだけど、僕以外全員殺された。僕は偶然、そのとき水を買うために外出してて、奇跡的に【ランプロス】の元リーダーに保護された…………彼女も死んじゃったんだけどね」

ルドルフは天井を仰いだ。すると一筋の涙が流れ、自分自身でも驚いているようだった。

すぐに涙を拭い、話を再開した。しかし寂しい夢を見ていたような顔つきをしている。

「隣に住んでたただの人間が、地位と金欲しさに密告したらしい。殺したよ」

刹那――――ルドルフの身体から紫電が発せられた。鋭く研ぎ澄まされた刃物のような光が走り、天井の照明に火花を散らしていた。

「これで黒焦げにしてやった。化け物! とか叫んでたなぁ……ハハッ。金の亡者がなに言ってるんだって話だよね」

ルドルフは空虚な笑い声を溢し、笑顔のまま涙を流した。

「でも笑えるよね? 水を買っていただけで死ぬか生きるか変わっちゃったんだよ。この国だとミュータントってだけで存在すら許されない。どれだけ模範的でもミュータントは殺される。僕はそんな常識をぶっ壊さないといけない。たとえ家族のことが曖昧になろうとも、強烈な痛みが全身に走ろうとも、胸に渦巻くどす黒い感情は決して失せない」

瞳を眩いまでに輝かせ、ルドルフは自身の拳を握りしめた。爪が食い込んで赤い血がぽたぽたと流れ落ちていた。

リディアはポケットからハンカチを取り出し、彼の手を拭き握り締める。

「ミュータントじゃなくても同じよ。このままだと力の無い人間だって理不尽な想いをして殺されるの」

「そうかもね……」

ルドルフは首を縦に頷いた。

しかしリディアの手をすぐに振りほどくと、笑顔で答えた。

「でも僕になんと言っても駄目だ。僕はもう……ミュータントじゃない奴が同じ仲間とは思えない。正直ミュータントじゃない奴が死のうが僕はどうだっていい」

「聞いた? ブライアン。私はこんなこと言う奴のこと同じ仲間だとは思いたくないわ」

「我慢しろリディア。仲間と思えないなら協力者とか、目的が偶然合致したから一緒に行動するだけとか、そういうことにしとけ。こいつは必要なんだよ」

「はぁ? なんで必要なの? それを教えてほしいわ」

「そいつは、機械を操作する能力がある。発電施設を爆破しても【CP管理施設】を防衛する衛兵BOTは0ではないだろう。予備電源でも特別強力な軍事用は動かせる。しかしルドルフの能力があれば、それさえも抑えることが可能だ」

「それでコンピューターを操作できないの?」

ルドルフはすました顔で答えた。

「僕にだって限度があるからね。自我が存在するやつとか、本体がどこか遠くにある物は操作できない。それでも! ……僕の能力が非常に強力であり、コンピューターが支配する現状においてどれだけ致命的な傷を与えられるか。君は理解できるはずだ。まだ文句ある? それに僕が命令しないと【ランプロス】は動かないよ?」

リディアは不満そうな表情を浮かべる。

手に力が籠っているのが見え、だれが見ても悔しさが伝わってきた。

「……無いわよ。協力してくれるならね」

「もちろんするさ。僕たちはコンピューターの破壊を第一目標として集まった……いわば同士なんだから!」

さきほどまで睨みあっていたのが嘘だったかのようにあっさりと二人は離れ、空いていた席に腰かけた。

ようやくかと、ブライアンは嘆息し、皆に告げる。

「今日の午後11時。我々は第二発電施設を強襲する。第一発電施設は【ランプロス】のメンバーが。目標を破壊次第、第三、第四を強襲する。なにか質問はあるか?」

エルは小さく手を上げた。皆の視線がエルに集まる。

「発電施設には衛兵BOTがたくさんいるんじゃないのか? 数を減らす以前に発電施設強襲は上手く行くのか?」

「危険ではあるが不可能ではない。【CP管理施設】ほどBOTの数は多くないからな。それにミュータント能力である程度は抑えられる。ミュータントじゃない奴は武器は襲撃前後に補給できるように、発電施設近くに武器補給装置を設置した。自動販売機みたいな形をしている」

「あれはお前らが依頼したものだったのか」

【科学進歩開発サービスグループ】の仕事で発電施設付近に設置していった四角い機械のことを思い出し、エルはぼそりと呟いた。

他のメンバーも見たことがある様子で頷いた。

「下水道から侵入し、コントロール室を目指す。衛兵BOTの相手はルドルフ。対人戦闘はエルとアーロン。マルコとオレはリディアの護衛を行う。それでいいか?」

ブライアンの問いかけに一人を除いて皆頷いた。

「…………私は?」

小さな声で、エレオノーラは呟き首を傾げた。

ブライアンは冷や汗を垂らして、強張った表情のまま黙り込んだ。リディアは慰めるように優しく、ブライアンの代弁をした。

「今回の作戦はいままでで一番危険なの。たとえ姿を消して、絶対に感知されなくなっても、流れ弾で死んじゃうかもしれない。もしかしたら襲撃者の命を発電施設と引き換えにでも奪ってくるかもしれない。あなたがやってた不審者の捕縛とは、危険が違うの」

「…………」

「ブライアンはあなたに死んでほしくないのよ。あなたにはまだ未来があるもの」

「…………私もブライアンには……皆には死んでほしくない。それは、同じ。それに…………もし皆が死んだら………………私に生きる術は、ない」

リディアはなにも言えず、黙ってしまった。

「…………私が【アンチテーゼ】のリーダー。だから、最終判断は私がする。…………ミュータント能力第六感で危険を察知する役割をエレオノーラは持つ。……ブライアン、マルコは私とリディアを……護衛して。もし私だけ置いて発電施設に行ったら、自害する」

抑揚のない声が終わると、シンと部屋が静まり返った。

ブライアンとエレオノーラは互いを睨み合う。

「はぁぁぁ…………」

やがて諦めたように大きなため息が、ブライアンから零れ出た。

そしてブライアンは椅子から勢いよく立ち上がる。部屋は静かだったため、椅子が床を摩擦する音が大きく聞こえた。

エレオノーラの肩に手を掛け、ブライアンは威圧的に呟いた。

「絶対に自分の命を落とすような事はするなよ。お前が死んだら、オレも死ぬからな」

「……わかってる」

どこを見ているか分からないような、空虚な瞳をブライアンに向け、手を突き出すとグッドサインした。

「はぁ……。飛んだ悪ガキだ。全部が終わったら常識ってのを学ばせねぇとな」

ブライアンは呆れた様子で自身の席に戻るとタブレット端末を手に取り説明を再開した。

「これが発電所の地図だ。以前責任者の家に押しかけて強奪した」

『ピロン!! PDFデータを受け取りしました。表示します』

端末から合成音が響き、エルたちは画面を覗いた。

画面右上に『第二発電施設』と書いてある地図が表示された。立体的に描かれており複雑だった。

数秒のラグで遅れながらもピロン! と軽快な音が再び鳴り響き、地図に赤い点が表示された。

「オレたちは下水道を通り汲み上げポンプの真下に移動し、そこから地上に出る。地下にも少数だが小型の衛兵BOTがいるときもある。油断するな。第二発電施設を襲撃した後、廃棄物専用車に乗って正面から第四発電施設に向かう。そのあとの詳しい指示はそのとき説明する……と思う。22時半に再びこの部屋に集合。それまでは自由行動だ。遺書かラブレターでも書いとくんだな。以上だ。一時解散!」

ブライアンはすっと立ち上がり、部屋を去ろうと扉に手を触れる。

その時、なにかを思い出したかのように硬直し振り向いて一言だけ付け加えた。

「……あ、酒は飲むなよ?」

部屋から出て行ったブライアンを追うようにエレオノーラが、次にマルコやアーロンたちも部屋を後にした。

残ったのはルドルフとエルの二人。

エルは特に何かをしようとする気になれず、考え事をしながらガスマスクを眺めていた。

本当に彼らの描こうとしている筋書通りに事は進むのか?

前提条件が多すぎるのではないか?

それよりも、なんで俺はこんなことをやっているんだ? なんで仇討ちなんてしようと思ったんだ?

――――考え出すときりがなかった。

これ以上考えると頭がおかしくなってしまいそうな気がして、エルは口を開いた。

「ルドルフ……さん、とやらはなんかしにいったりしないのか?」

「僕はしてますよ? 仲間のミュータントに脳内通信テレパシーの能力を持ってる人がいましてね……通話中です。よければ参加する? ミュータントなら大歓迎さ」

どうしようかと僅かに思考し、気を紛らわすことができるなら……と思いエルは頷いた。

「じゃぁ、頼む」

「おーけー。えっと名前は?」

「エルだ。エル-Rだ」

「交信は言いたいことを頭で考えればできる。言いたくないことは思っても伝わらないから安心してくれ。あと5秒……3、2、1。繋がるよ」

カウントダウンが0になるとエルは頭に違和感を覚え、苦い顔を浮かべ頭を抑えた。

キリキリと少しばかりの頭痛がした。

「あーあー。聞こえますか?」

頭の中で気怠そうな少女の声が響いた。

「聞こえるみたいね。あんたもミュータントなんだって? お互い大変ね~。それでルドルフ? なんでいきなりこの人を脳内通信テレパシーに混ぜたの?」

「なにか悩んで、思い詰めてる様子だったからね。お悩み相談さ。襲撃のときに敵に同情したり、殺すのを躊躇、逡巡されたら困るからね」

殺すのを躊躇? 何故?

確かに悩んでいることはあった。しかし、間違ってもコンピューターの仲間を見逃すようなことはしない。

エルは瞳を紅く輝かせ、血の色になった双眸でルドルフのことを威圧的に睨み付けた。

「ははっ。そんな怖い顔しないでくれ。僕は事実を言っただけだ。僕は心を読むのが得意だからね。わかるんだよ」

「何が言いたい?」

動揺からか机を強く叩くと、エルは目の前にいるルドルフに直接尋ねた。

「落ち着いてくれ。僕は君の味方だ。だから悩んでることがあったら相談してほしい」

ルドルフはあくまでも冷静に、エルの脳内に訴えかけた。

エルは呆れるように立ち上がり、部屋の扉に手をかけると、去り際に口を開いた。

「その悩み事を考えないために脳内通信テレパシーとやらに加わったんだ。これじゃぁ意味がない。俺は一人で時間を潰すよ」

エルが部屋を去った後、ルドルフは神妙な表情を浮かべ、通信相手に言った。

「うーん……。余計なお世話だったみたいだね。僕の悪い癖だ。彼の通信を切断してあげて。エルは僕が思ったより出来た人間らしい」

「うーっす。了解です。ルドルフさん、悪い事は言わないんでミュータントの人を過剰に世話したり、心配するのは止めたほうがいいっすよ」

「善処するよ。【ランプロス】のメンバーに、死なないでねって伝えといて。それじゃ、僕も切断するよ」

「了解です。ルドルフさんも死なないでくださいね――――」

メンバーの発言に耳を傾け、ルドルフは頷き同意を示した。

「もちろんさ。僕は長生きしたいからね……」


□□□□□

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