絡む陰謀 2
エルと他メンバーが顔合わせした翌日。
コンピューターを破壊する計画の一環としてコンピューター信者や重役に就いている人間を殺していく作業を再開していた。
メンバーの一人である青年、アーロンは所持してるだけで処刑対象になる実弾銃でターゲットの胴体を捕えていた。
国のいたるところに点在する廃ビルで、息を止めるとスコープを覗く。夜のためか人工の灯りがぼやけるように光っており狙いづらい。
ターゲットの男は特別コンピューターを妄信しているわけではない。
殺されず、平和に自由な暮らしをするために自らの地位を高めていた人間だった。コンピューターが理想とする市民そのものだ。既婚者らしく、子供も一人いるらしい。
集められたデータにはそう書いてあった。
そしてスコープに映る男は我が子へのプレゼントを考えているのか、フードを被り包丁を持った奇妙なトカゲのぬいぐるみを眺めている……隙だらけだ。
アーロンは息を呑むと特に躊躇することもなく引き金を引いた。
…………彼は初めて人を殺した時から躊躇も慈悲も余裕も、全て捨てていた。
硝煙と共に放たれた弾丸は空を貫き、建物と建物の僅かな隙間を通り、男の胴体に直撃した。弾丸は貫通しなかった。
被弾した直後、円状に広がり男の胴体を広くへこませ、肋骨や臓器を傷つけた。大量の血を流し、その場に倒れ伏した。地面には血だまりが出来ていた。
男は口から血を溢しながら、必死の思いでボソボソと口を動かす。
「…………ヒュー。これを…………。とど けてくれ」
包装された箱を手に持ち上にあげた。箱は血を吸って赤く濡れていた。数秒後、男の腕はぱたりと倒れた、そして二度と動かなくなった。
アーロンには男がなんと言ったか聞こえなかった。
しかしそんなこと気にする様子もなく晴々とした表情を浮かべる。
「こちらアーロン。ターゲットを始末した。これより帰還する」
無線を使いブライアンに伝えた後、その場を後にした。
「これで最後の一人は死んだ! ついに俺らは国を転覆させる大規模作戦に移ることができる!」
アーロンが無事帰還した直後、ブライアンは煌々とした表情で大声で唱えた。【アンチテーゼ】の地下室で、その声はこだました。
「その作戦とやらについて俺はなにも聞かされていない。お前らはどうやってコンピューターを破壊するつもりなんだ? 最後の一人ってどういう意味なんだ? まだ信者共は沢山いるだろ」
俺はそいつらを全員殺さないと気が済まない。エルは心の中でそう呟いた。憎悪で歪んだ顔をしていた。
ブライアンは小さな溜息を付いた後、エルに説明した。
「いままで殺してきたのはこの国の発電施設責任者だ。カモフラージュのために地位の高い信者も殺したがな」
「発電施設?」
なぜ発電施設責任者のみを殺すのか……エルは理解できず、呆れたように首を傾げた。
「あぁ、今頃はだれが責任者になるか……出世争いでお忙しいだろうな。そしてオレらは発電施設の統率がまともじゃないうちにそこを強撃する。国中の電気を止めるんだよ」
「そんなことしたら俺らも死ぬんじゃないのか?」
この国には四つの発電施設が存在する。その四つが全て停止すれば、まず民間の電気と空が黒一色になる。
しばらくすればコンピューターも電源が落ちるだろう。
しかし地下国家での電気停止は空調管理の停止を招き酸素の循環が行われなくなる。
生物の生きれる環境ではなくなってしまうだろう。
「エル、お前の心配してることはまず起きない。予備の発電施設が地上にあるからだ。それで空調、地下水と熱の排出、コンピューター管理は行われるだろう」
「コンピューターが停止しないなら意味がない」
「いや、そんなことはない。コンピューターの制御、冷却をしている施設【CP管理施設】の警備を最小限に抑えることができるはずだ。ごく一部を除いた衛兵BOTの充電切れによってな」
「そのときに【CP管理施設】を襲撃するのか」
ブライアンは大きく息を吸い、胸を張って答えた。
「そうだ! これが上手くいけば、コンピューターを破壊できる」
エルは唾を呑んだ。
しかしすぐに冷静な疑問が浮かんだ。
「そんな簡単にできるのか?」
「簡単だぁ? 何人も死んでるんだよ。死ぬ間際に夢を託して散ってったやつだっているんだよ。簡単なわけねぇだろ。でもやらなきゃならねぇんだ。だからやるんだよ」
覚悟を決めた瞳で、マルコとリディアは頷いた。
「僕は殺せさえすればいい」
さきほど、命を奪った狙撃銃を磨きながらアーロンは呟いた。
エルは自身の手をジッと見つめる。
………………俺の手はあいつの銃と同じだ。憎しみをぶつけるための武器だ。これがあれば憎き信者とコンピューターをぶっ壊せるかもしれない。
ふつふつと憎悪が湧き出るのを抑え、エルは同意を示した。
「あぁ。同意だ。俺はコンピューター共を殺せればどうだっていい。まぁ、好きにしてくれ」
「そうさせてもらうさ。発電施設での戦闘は避けられないからな。戦えるやつが必要だ」
軽蔑するような、または憐れむように二人を見て、ブライアンはタバコを取り出し煙を吹かし始めた。
近くにいたエレオノーラにポンと手を置こうとする。しかし彼女はそれを拒み、アーロンとエルの元にゆっくりと歩み寄った。
「ブライアン……冷たいけど…………だれか、死んだとき……泣いてる。だから……死なないで。どうだっていいなんて…………言わないで」
エレオノーラは虚ろな瞳のまま、弱々しい声でそう言った。
華奢な手でエルとアーロンを必死に掴んでいた。声こそ弱々しい少女そのものだ。それでもその手に込められた力はとても力強い。
しかし手から生気を感じられず温かさはない。冷たくヒンヤリとしていて、まるで金属のようだった。
一連の様子を眺め、ブライアンはタバコを手に持ち、ッチっと舌打ちをした。
「そういうわけだ。リーダー命令には従えよ? 死んだら胸糞悪いし、エレオノーラが泣くからな。これから作戦に必要な人間と合流する」
「必要な人間?」
エルが尋ねるように呟くと、ブライアンはこくりと頷いた。
「あぁ。この作戦になくてはならない存在だ。……オレは行かなきゃならねぇ。リディア、説明しといてくれ」
ブライアンは早足で部屋を出て行った。扉が閉まるまで呆然としていたリディアは我に返るや否や、やれやれと呆れ混じりに溜息を付いた。栗色の髪も脱力するように揺れた。
「この国ではミュータントは嫌われてるわ。正直言うと私もあんたが怖いわ。だってやろうと思えば、いますぐにでも私たちを殺せるでしょう?」
「あぁ、密室だったら簡単にできる」
手から毒ガスを出すだけで、いとも簡単に…………死ぬ。眠らせてから殺せば、死んだことにすら気づけないだろう。
「だからこそコンピューターに狙われるわ。でもミュータンだって死にたくない。だから一部のミュータント達は徒党を組んだの」
「徒党って言い方はどうなんだ?」
「ごめんなさい。言葉の誤よ。彼らにとって一番のときはコンピューター。だから私達は協力を頼んだ。コンピューター破壊後、ミュータントを優位に扱う法律を条件に彼らは協力すると言ったわ。ブライアンにとっては良い条件だったわね」
皆はエレオノーラのほうを向いた。
彼女は扉のすぐ隣で佇みブライアンを待っていた。
凛とした表情だがやはり目に光がない。ずっと見ているとその黒い眼差しに引きずり込まれそうな気がして、エルは目を逸らした。
ちょうどそのとき、扉が開いた。




