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「あ、見てルーシー。またハーレムがお茶会してる」
「………、」
「王太子殿下も飽きないわよねぇ。そんなに女の子が好きなら、婚約者のことだって少しは構ってやったらいいのに。見た目だけならオフィーリア様が一番でしょう」
昼休みのことである。
平民学舎の3階から見下ろせる、貴族生徒専用の庭園。そこにあったのは、例の如く何人ものご令嬢を侍らせる王太子の姿。
それを見つけて呆れたようにため息を吐いたのは、ルーシーのルームメイトであるクリスティだった。
「……見た目だけじゃないわよ。オフィーリア様は、成績だって女子の中では一番だもの」
「ああ、確かに。貴族学級、堂々の女子ナンバーワンなんだっけ。完璧な淑女だものね。嫉妬深いって有名ではあるけど」
「………」
「あっ、ちょっとルーシー!先行かないでよ!」
窓際に頬杖を付きながらそんなことを言ったクリスティを、置いていくようにルーシーは歩き出した。
クリスティはそんなルーシーを慌てて追いかけながら、「ごめん、何か気に障った?」と眉を下げて謝る。
それがあまりにも悪気のない仕草かつ邪気のない言葉であったから、ルーシーは立ち止まって、一拍。申し訳なさそうに睫毛を伏せた。
当然のことだと思い出したのだ。クリスティはオフィーリアを知らない。だから他人事のように噂話に花を咲かせるのは当たり前なのだ。少し前のルーシーもそうだったから、人の言動に傷付く資格はない。
「私こそ、ごめんねクリスティ。何でもないの。ただ……。王太子殿下のことが、少し苦手で」
「え、珍しい。この学園の女子ときたら決まってあの人に夢中なのに。というか、ルーシーがそんなにはっきり誰かを嫌うのもはじめて聞いたわ」
「、嫌いなんて言っていないわよ。そんな不敬なこと」
「あら、同じことじゃない。あんたがそうハッキリ苦手って言うのって、つまりそういうことでしょう?」
否定はしなかった。クリスティにこういう誤魔化しは通用しない。ルーシーは周囲に誰もいないことを確認すると、嫌悪に歪めた顔でしっかりと頷いた。
「そうね。嫌いよ、あんな男。今日にでも馬から落ちて死ねば良いのに」
「っ、あははははっ!うそ、面白い!あの慎重なルーシーが、王族相手にそこまで言うなんて!」
「性病移されて死ねば良いのに」
「あっははははははっ!」
とうとうお腹を抱えるようにして笑い始めたクリスティは、もう本当に楽しそうだった。「そうよねぇ、男として最低だもんねぇ」とうんうん頷き、笑って震える肩をルーシーにくっつけて歩く。
「王太子はねぇ。顔は良いんだけどね、端正で。でもやってることがあれよね、ガキなのよね。婚約者への当てつけで女遊びってのがもう、オフィーリア様にも他の女の子達にも失礼だわ」
「性根が腐ってるのよ。大嫌い」
「あははははっ!そうよね、嫌いよね。男なんてほんと碌なもんじゃないわ!」
クリスティはルーシーとよく似ていた。
ルーシーは娼婦の娘。クリスティは場末の酒場の娘として生まれた。どちらとも誰が父親かも分からず、知らず、そして貧しい女が受ける理不尽をよく知っていた。
クリスティは派手に見えて、けれど本当のところ酷い男嫌いである。
特に貴族の男を嫌悪していた。貴族が平民の女を見初めて孕ませた挙句、ゴミのように捨てたと言うのはどこにでもありふれた話だ。
だから、ルーシーが王太子を嫌いと言ったのにもあっさりと納得したのかもしれない。
「でも、さっきも言ったけど、ルーシーがこんなにあからさまに人を嫌うのも珍しいわ。何かきっかけがあったわけ?」
「……ううん。べつに。気に入らないだけよ」
最も。ルーシーが王太子を嫌悪し憎悪している本当の理由には、いくらルーシーと似ているクリスティと言っても、思い至ることは出来ないだろうけれど。




