第七十二話「マクナイト・マクレガー大尉」
こんばんは、作者です。
400ポイントを超えました。
嬉しいです。
ありがとうございます。
さて、今日はマックが主人公です。
最近脚光を浴びるマックです。
一応登場人物には書いてないバックボーンがあります。
先の強盗事件では、当初オズを動かす予定でしたが、マックが動いたんでそのままにしました。
という訳でマックへのご褒美に、マックのお話です。
まあ、聞いてやって下さい。
今日はなかなかに面白い一日だったな。
俺はホテルのバーで、琥珀色の蒸留酒を飲んでいた。窓からはアミマイの夜景が見える。
いい街だな。
何で一人かって?
そりゃあ、たまには、、ってか一人が好きなのさ。
アークとレイナはトッドに誘われてカジノに行っちまったしな。
俺としたことが、変な遊びを教えちまったな。
モズは用事があるらしく、夕食前に出かけちまった。
街に来たばかりなのに用事があるんだとさ。
変わったヤツだ。
ま、興味深いヤツでもあるがな。
チームに加入して日も浅いのに、トッドを変え、アンジーを変え。
みんなを良い方向へと導いてる。
何者なんだろう?
グールの糸が見えていたし。リザードマンを倒した話といい、暴れ馬に襲われた家族を治療した時といい、後は列車強盗の一件か。
得体が知れん。
が、信用出来ない訳でも無いんだよなー。
ふ、俺が訳の分からんヤツを信用するとはな。
旅の前なら考えられなかった事だな。
アンジーはどこに行ったんだろう?
まさかモズとこっそり待ち合わせとかないよなー?
アンジー、、、。
どんどん綺麗になっていきやがる。
ちっ!やれやれ、柄にも無いこと思っちまった。
俺は煙草に火を付けようした。
あれ?ジッポが無い!
おかしいなー。
服を弄る。
無い!
あれは大事なジッポなのに。
カキン、シュボッ!
聞き慣れたジッポの音がした。
差し出された火に、煙草を吹かし火をつける。
ひと息つきつつ、顔を向けた。
「うぉっ!」
アンジーがいた。
「何してるんだ?というか何でお前が持ってるんだ?」
「夕食のテーブルに忘れていたぞ。大事な物なんだろう?」
「あ、ああ。ありがとう。どうして大事な物だと分かる?」
「時々お前はこれをぼんやりと見つめているからな」
ぐっ!
見られていたのか。
「ま、まあな」
俺はアンジーからジッポを受け取った。
アンジーは隣に座って来た。
バーテンにコーラとラムのカクテル。キューバリバーを注文していた。
!?
「何やってんの?」
「私がバーで酒を飲んだら悪いのか?」
アンジーは笑った。
そうだ。
アンジーはよく笑うようになった。
モズのおかげか。
「い、いや、そういう訳じゃ。お前はモズと一緒じゃなかったのか?」
「置いていかれた」
アンジーはちょっと悲しそうな顔をした。
こいつはモズの事をどう思っているのかね。
ま、聞いた所で教えてはくれんだろうがな。
「そ、そうか」
「ああ」
「、、、、、。」
「、、、、、。」
気まずいな。
前は俺ばっかりが話しかけるパターンだったが。
何というか、何しゃべっていいか分からん。
ん?
アンジーが俺のジッポをじーっと見てきた。
「マック。良かったら聞かせてくれないか?そのジッポのいわく」
!?
今マックって呼んだか?
「聞きたいのか?」
「いや別に」
どうしたいんだ!(苦笑)
「わ、分かったよ。たいした話じゃないぞ」
「構わん」
アンジーはそう言って、カクテルを飲んでニヤリと笑う。聞きたいんだな。
「ふー。これはな、、、」
俺は話し出した。
「これは俺が自分の部隊を解散した、いや解散させられた時に、部下達がお金を出し合って特注で作ってくれたジッポだ。ただのジッポじゃない。ミスリル製なのさ」
「その、Mが二つ重なったようなマークは何だ?」
ああこれか。
「これはな。ダブルMと言って、俺の部隊の隊章なんだよ」
「ダブルM?間抜けなマックの略か?」
「違うわ!」
「すまん。アメリア流のジョークだ」
ジョークかよ!
というかアンジーがジョーク?
全然面白くは無いが、何というか、えらい進歩だな。
モズといるとこうなるのか。
はは。面白いヤツだ。
「ダブルMはな、マクナイト・マクレガー。俺のイニシャルさ。もはや存在しえない部隊が、確かに存在したという記憶を何か残そうと、直属の200人全員が、この隊章を付けたジッポを持つ事にしたのさ。正直貰った時は涙が出たぜ。嬉し涙と悔し涙がな」
アンジーは眉を上げた。
今夜もそれなりに化粧をしていた。
うん。美人だ。
「お前でも泣くのか。解散させられたと言ったか?どうしてそう言う?嫌だったのか?」
「まあな」
俺でも泣くよ。
「私はお前が大尉だった時。派遣された各地で高い戦果を上げた話を新聞などで知っている。その若さで一気に中佐に飛び級で昇進した時も、首都で大々的に報道されたな?正直私はマックを尊敬したものだ。直接会うまでは」
アンジーは言葉を切って意地悪そうに笑った。
ぬ!
「悪かったなこんなヤツでよ!」
「ふふ。冗談だ」
「冗談かよ!」
「半分はな」
「半分マジか!」
「軽薄な性格に幻滅したのは確かだ。だが、一緒に戦ううち。例えば昼間の銀行強盗の一件を見てもそうだが、お前には違う顔もあるんじゃないかと思ってな」
意外に鋭い、、意外じゃないか、、、。
「話は戻るが。昇進して、嬉しくなかったのか?本部で話をしていた時のベイツ長官も、何やら意味深な事を言っておられたが?」
「あ?ああ、、、。ああ。嬉しくなかった。あれは昇進とは言わん」
アンジーがキョトンとした。
やれやれ、この話もする羽目になるのか。
憂鬱な顔をした俺に気づいたのか、アンジーが口を開いた。
「話したくないなら無理にとは言わん。話したくない事もあるもんだ」
アンジー、気遣ってくれてるのか?
「いや、聞いてくれ。あまり人には話した事の無い話だ、、、。俺は貧民の出だ。今日の飯に困る程困窮した生活を送っていた。親父は借金を残して戦争で死んだ。小さい妹と俺を食わせる為に母親は朝早くから、夜遅くまで働いていた。俺も妹も常に腹を空かせていた。市場での盗みなんかは日常茶飯事だった。貴族がうらやましかった。俺達がやっと買えるパンを、おやつ替わりに頬張る奴らが」
いつか、上に立ってやる。
根拠も何も無かったが、俺は漠然とそんな思いを抱きながら生活していたのさ。
アンジーを見た。
何も言わずに、じっと聞いてくれていた。
「そんな生活が続いたとある日の事だ。いつものように、俺は妹に何か食わせてやろうと、妹と二人で市場で万引きをしようとしていたんだ。串に刺さった肉焼きがあまりにも美味そうでな」
「ふふ。そうか」
苦笑する俺に、アンジーは優しげな眼差しを向けてくれた。
そう。今なら何本でも買えるような物が、当時の俺達には高嶺の花だったのさ。
だが、俺はしくじっちまった。
今思えば、マークされていたんだな。
似たような事をしている子供達は沢山いた。
そいつらへの見せしめの意味もあったんだろう。
「俺達は店の前で市場のゴロツキ共に捕まっちまった。囲まれて、周りに見せつけるようにボコボコにされた。俺は妹をずっとかばいながら耐えていた。薄情なもんさ、周りの大人達は誰も助けてくれなかったよ」
「そうか、すまん」
「なんでお前が謝るんだ」
「確かに!、、すまん」
「はは。ありがとう」
アンジー、優しいな。
「そうそう、そんでな、俺は妹を必死に守っていたけど、痛みに耐えきれず持っていた串焼きを離しちまったのよ。地面に転がった串焼き。それが無性に悲しくてな。声をあげて泣いたら、妹が俺の下から這い出して、串焼きを拾おうとしたのさ。そしたらゴロツキが妹の手を踏みやがった。ゴミでも踏みつけるように。他のやつが串焼きを蹴り飛ばしてよ。泣く俺達を見て笑ったんだ。色んな罵声を浴びせながらな。確かに盗みをした俺達が悪いのさ。けど、好きで貧乏な訳じゃない。母親も必死で働いていた。そんな俺達の人格まで罵倒するような言葉を浴びせられた時、俺はキレたんだ」
後は何が起こったのか、何をしたのかよく覚えていない。
「気がついたら、火傷や凍傷になったゴロツキ共がまわりに転がっていて、俺は妹を抱きしめて泣いていたのさ」
「魔力に目覚めたのか?」
「まあそんなところだ。そしたら、そんな俺達を助け起こして、怪我を直し、集まって来た憲兵に適当な言い訳をして追い返し。俺達に串焼きを買ってくれて、家まで送り届けてくれたおっさんがいたのさ」
「おっさん?物好きな人だな」
「ああ。後から知ったが、お前でも知ってるバレンシアの有名人だったんだ」
「誰だ?」
「クルーガー元帥さ、ま、元元帥だな。今は釣り三昧の隠居生活中さ」
「あのクルーガーか?アイアンハートの?」
「そうだ。あんなジジイが何人もいてたまるかよ」
クルーガー元帥。
泣く子も黙るバレンシア軍の元総帥だ。
今は退役しちまって、のんびり暮らしている。
頭も口髭も真っ白のいかついジジイだ。
隠居しているとはいえ、今の俺でも勝てないだろうよ。クソジジイ!
「クルーガー元帥と親しいのか?」
「まあな、その後すぐに軍に入ってからは親父代わりだったからな」
「アイアンハートというのは本当なのか?本当に鉄の心臓を?」
「んなわけねーだろ。揶揄だ。けど、どんな凄惨な戦況で、どれだけ矢やら、魔法やら、魔物やら、なんやらが飛び交っていても、常に悠然と仁王立ちで前線に立ってる事だけは確かだな。あれは真似できねーわ」
「それでアイアンハートか」
「そうだ」
「軍に入ったと言ったが、その生活苦で、その若さでどうやって入隊したんだ?」
「ああ、それはな、、、」
そう、その事件があった後日。
俺は街でクルーガーに会った。
というより、クルーガーが俺に会いに来る最中だったんだ。
リンゴ飴みたいなもんを買ってくれてよ。
バレンシアの港が一望出来る長い階段に座って話をしたんだっけ?
夕陽が綺麗だったな。
クルーガーが切り出した。
「坊主。軍に入らんか?」
「え?」
「わしの下で働かんか?」
「い、嫌だよ!怖いし!人殺しなんてしたくないし!親父みたいに死にたくないし!」
正直にそう思った。
ガキだったからな、意図なんか理解出来なかったのさ。
「ふむ。父の事は聞いた。残念だったな。すまん」
「じ、じいちゃんが謝る事ないだろう!親父が弱かっただけだ!借金作って!家族も守れずに死んじゃったんだ!」
「そうか。それでもわしが戦場に送り出した事に変わりは無い。無事に家族のもとに帰してやれなかったのは、わしの責任だ。すまん」
「そ、そっか、、」
「なあ坊主、お前自分の力に気づいているか?」
「あ、え?あ、あれ、、、よく分かんない。妹を守ろうと必死だったから」
「そうか。坊主、お前は世にも珍しい力を持っている」
「え?」
「バレンシアにもほとんどいない力の持ち主だ」
その時はよく分からなかったがな。
ダブル。二つの得意属性の持ち主って事だった。
なんでダブルなのかはジジイにも分からなかった。
親父も母親も魔法は使えないんだよな。
「そ、そうなの?でも俺、、よく分かんない」
「坊主。仮にお前が誰よりも強い力を持っていたとして、それを何に使う?」
「え?うーん、うーん、貴族になる!」
「なんじゃと!?」
あの時のジジイはびっくりしていたな。
ざまーみろ。
「貴族になって、金持ちになって、母ちゃんと妹を食べさせてやるんだ!」
「な、なるほどそういう事か、家族を守る事に使う訳だ。じゃがどうやって貴族になるんだ?」
「え?う、うーん」
「わっはっは。考え無しか」
「う、うるさいなー!」
「坊主。お前はこのままいけば遅かれ早かれ力に本格的に目覚めるだろう。だがな、環境が悪すぎる」
「え?」
「スラム街で暮らしているんじゃろう?力あるものがそこで何になるか分かるじゃろう?」
「うーんと、うーんと、王様?」
「違うわい!ギャングまがいのゴロツキじゃ!」
分かっていたよ。
ちょっと抵抗してみただけだ。
自分で言うのも何だが、可愛げの無いガキだったな。
他の子供達より腕っぷしの強い兄ちゃん達は、ボスになり、上に行くとギャングにつながる食物連鎖の三角形みたいになっていた。
「じゃあどうすれば貴族になれるの!」
「貴族は無理だ!」
「えっ!?」
「貴族はな生まれながらにして貴族なんだよ。後からなれる訳じゃない。だが偉い人になるのは何も貴族だけじゃない。それにな、貴族は偉いが偉くないんだよ。ふむまだこれは早かったかな?」
思い出すと、ジジイはえらい哲学的な事を言っていたが、ガキには分からなかったよ。
「どうすれば偉い人になれるの?」
「軍に入れ。軍人として偉くなれ!軍人はな、戦争するのが仕事じゃない。守るのが仕事なのさ。家族、いや国を守るんだ」
「家族だけでいいよぅ!」
「国が無くなってもか?焼け野原になった街で、坊主と家族だけで生きていけるか?」
「む、無理だよぅ」
「坊主、お前はわしが鍛える。人を無闇に傷つけるような戦場には行かせん!立派に家族を守れる、偉い男にわしが育てる。坊主ならなれるはずじゃ!あの時妹を守ろうとしたように。あの気持ちがあれば。坊主は家族、いや国をしょって立てる男になれるはずじゃ。お前の才能を、あんな街で枯らすわけにはいかん。才能は人の為になることに使うもんだ。坊主の家族も、お前が一人前になるまでわしが面倒をみよう」
「本当に?」
「本当じゃ」
「じゃあ約束だよ」
「ああ、約束じゃ」
夕陽に照らされた階段に伸びる大きな影と小さな影の二つの小指が交わっていた。
思い出すと、いい話なんだけどな。
「なんてな、上手く丸め込まれたもんだな。俺の才能を戦争に利用したかっただけだろうよ、ジジイめ!」
「そうか?そんな風には感じないがな」
ああ、分かってるよ。
ジジイは何一つ嘘は付かなかった。
母親を説得してくれて、俺達一家に住む家を与え、後に成長した妹を、学校に通わせてくれた。
俺?
俺は地獄の日々だったよ(苦笑)
いや、軍隊は楽しかった。ジジイが配属してくれた部隊は、気のいい連中ばかりで、俺を可愛がってくれたのさ。
地獄だったのは、ジジイの教育という名のしごきだった。
「興味あるな!是非聞かせてく、、、い、いや、、やめておこう」
アンジーは俺にしごきの内容を聞きたそうにしたが、ちょっと思い出しただけで寒気が走った俺の顔色を読んだようだ。
あれほどヒドい思いは後にも先にも、無い!
断じて、無い!
それからは順風満帆な日々だった。
俺の配属部隊は、各地へ出向いて、紛争の解決や海賊、山賊の殲滅が主な任務だった。
俺は、時に自分の力不足に、時に仲間の死に、色んな壁に直面しつつも、それを乗り越えて頑張った。
偉くなる為。
いつもそれが頭にあった。
もう、惨めな生活は御免だった。
やがて部隊の誰より強くなった俺は、最年少で大尉になり。
晴れて自分の部隊を持った。
といっても、最初は20人ほどの中隊だったがな。
「それがクルーガー元帥直属団第08遊撃隊、後にダブルM隊と呼ばれる隊の前身だ。間抜けに、導かれる隊だな」
我ながら下らない事言っちまったな。
「ププッ」
アンジーが隣で笑っていた。
アンジー、ユーモアのツボだけは最低ランクだな。
「クスクス。す、すまない。だがここまで聞くと順調な道のりに思えるが、何故解隊された?」
「ああ、、、」
やがて俺の軍内での発言力は増した。
俺の活躍はバレンシアに広まり、人気もある、何より後ろにクルーガーがいる。
当然と言えば当然だな。
俺は慈善活動や治安維持、職にあぶれた者達の軍への斡旋などをクルーガーを始めとした上層部に提案し、軍を改革していった。
俺達みないな一家を増やさない為だ。
だがそれを面白く思わない連中もいた。
クルーガーのジジイを始めとした、軍を平和活動の手段と考える一派と対立する派閥だ。
ま、こういう争いはランド王国だけじゃないのさ。
ジジイがのさばっていた頃はなりを潜めていたが。
ジジイが高齢を理由に引退してから、全てが変わった。
俺は中佐に昇進した。
え?いいことじゃないかって?
自分の隊を取り上げられて、本部の個室に押し込められて、軍広報部隊長という、名ばかりの、仕事と言えば、記者会見や軍のPR活動ばかりの閑職に追いやられてもか?
俺の人気だけ利用して、俺を生殺しにする作戦だったようだ。
終わったと思ったよ。
俺の夢は終わったのさ。
読んで頂きまして、ありがとうございました。
なかなかハードな幼少時代ですね。
少しマックが分かっていただけましたか?
後半に続きます。




