第三十五話「カツ丼食いたい」
おはようございます。
作者です。
クライマックスに向けて転がります。
あ、ケルンの物語も更新しました。
はい。宣伝です(笑)
その日の夜遅く。
舞踏会は終わった。
まだパラパラと残っている者もいたが。
祭り後の余韻が漂っていた。
執務室に入ったっきり、出てこない王を心配してか、侍従の一人が部屋を訪れた。
その時、
「グアッ、グフッ」
とくぐもった絶叫が、室内より響いた。
慌てて侍従が部屋をノックするも、返答が無い。
侍従では部屋のスキャナーを通過出来ない。
王の私室には、限られた人間しか入れないのだった。
このままでは拉致があかないと悟る。
侍従はすぐさま近衛兵の詰め所に向かった。
間髪なく戻ってきた近衛兵達。
「陛下!陛下!」
返事は無い。
余談だが、その時、ニールは部屋にいなかった。
年配の近衛兵が覚悟を決めた。
「陛下!ご無礼は承知で、押し入ります」
近衛兵がスキャナーに手をかざす。
扉が開いた。
中にいたのは二人。
一人は俺。え?俺?
そして、血を流し絶命して倒れている男。
ランド王だ。
近衛兵の目が、俺?の手に握られていた剣に移る。
「き、貴様、陛下に何をした」
落ち着き払って答える俺?。
「知れたことよ、国家の害を排除したまでよ」
俺?こんなキャラじゃねーぞ。
近衛兵達が剣を一斉に抜いた。
しかし、隊長格風の男が止める。
「待て、詳細がわからん、生け捕りにしろ。貴様、命が惜しければ剣を捨てよ」
俺?は剣を捨てた。
正確には、剣はもう手の中にはなかった。
俺?は王から遠ざけられた。
すぐさま、近衛兵が王に駆け寄り、安否の確認をするも、返答な無く。
力なく振り向いた近衛兵は隊長格の男に首を振った。
「なんという事だ!陛下が、城の自室で殺害されてしまうとは、、、貴様、何者だ!」
隊長格の男は、俺?に向かって激しく問い詰めて来た。
と、他の近衛兵の一人が口を開く。
「副隊長、確か、こいつは隊長が舞踏会に連れてきた男です!」
「なんだと!で、今隊長はどこにおられる!」
「そ、それが、舞踏会の最中より行方が、、、」
「貴様、隊長の居場所を言え」
「知らんな」
男?がかぶりをかぶった。
「おのれ、狼藉ものめ!地下牢にぶち込んでおけ!」
俺?は近衛兵達によって連れて行かれた。
「副隊長。どうなさいますか?」
「うーむ。隊長がいらっしゃらない今、無用の混乱は避けたい。よし。まず陛下のご遺体を医務室へ運べ、医務方のサラサー様を呼べ、宰相にも報告を」
「さ、宰相に?」
「仕方ないだろう。我が国のナンバー2は宰相閣下だ」
「わ、分かりました」
事は迅速に進められたようだ。
一方、地下牢の俺?
いや俺だ。
国を救う英雄のはずが、一転殺人犯になっちゃったよー(苦笑)
ど、どうなるのか?
とはいえ、俺は何もする事が無い。
そのうち誰かが尋問しにやって来るだろうが。
俺はだんまりを決め込んだ。
それから、一時間も経たないうちに、城内はにわかに慌ただしくなった。
箝口令がしかれている為、一部の者しか知らないが、皆一様に表情は硬い。
城内にある医務室には、重鎮や各大臣が集まっていた。
皆信じられないという表情だった。
王の遺体と対面しても、事実を受け入れられないでいるようだった。
最後にやって来たのは、宰相ゲイドだった。
ゲイドも、硬い表情でやって来た。
事実が把握出来ないままやって来たようだ。
「サラサー殿、陛下はどこだ?どこにおられる!」
サラサーはメタルフレームのメガネをかけた、妙齢の男だった。
白衣と魔法衣を合わせたような服を着ていた。
彼は、沈痛の面持ちで、王の亡骸を示した。
「ここへ運び込まれた時にはもう、、、残念だ」
「ま、まさか、本当に?信じられん」
宰相が驚きの表情と共に王の亡骸をあらためた。
「た、確かにご本人のようだ。影武者などでは無いな」
しばし言葉をつぐみ、思考を巡らせている宰相。
彼が何を思っているか。本人のみぞ知ることだろう。
そして、宰相は重々しく口を開いた。
「まさに、この国建国以来の未曽有の事態だ。この事はまだ、誰にももらしてはならん」
部屋にいた誰もが頷いた。
「して、副隊長よ、その曲者はいかがいたした?」
「はっ。地下牢に閉じ込めてあります」
「わかった。そやつの尋問は我が直々にやる。生かしておけ」
「はっ」
「各人、我が事実確認を行うまで、この事は他言無用だ。違えた者は国家反逆罪に問う。よいな!」
国のナンバー2の言葉だ。誰も異論は唱えなかった。
忙しく部屋を出て行く宰相と護衛達。
暗い廊下に、狡猾な笑みを浮かべたゲイドの姿が見えた。
彼は誰にでも無く、自分に言い聞かせるように呟いた。
「くくく。誰かは知らんが、なんと間のいいタイミングで事をやってくれたわ。これで、この国はわしのもの、すべて亡き王にかぶってもらおう。くくく」
ゲイド達は去って行った。
それを見つめていた、とある人物には気がつかなかったようだ。
と言うより、その人物は誰にも見えていないようだった。
何も無い空間が、水面のように揺れ、その人物が姿を表した。
手には黒い箱を抱えていた。
「ふふーん。ばっちり撮ったでー」
シルフィーだった。
俺は地下牢の小さな窓から、月を見ていた。
布も藁もしかれていない、むき出しの石に座る俺。
臭い飯とか、食いたくないな。
カツ丼出ねーかなー。
相変わらずの俺っぷりだった。
その夜は結局、訪問者は誰も来なかった。
その代わり、城内に紙飛行機が舞い降りたという。
長い夜が明けた。
ランド王国は大騒ぎだった。
朝一の瓦版で、国王の崩御が発表されたからだ。
また、昼には城内で、宰相による会見が行われ、国事を自らが代行する事。
死因は現在調査中である事。
葬儀は生前の王の遺志により、密葬とする事。
全国民がこの事態に力を合わせて立ち向かうべきだという談話を発表した。
街には半旗が掲げられ、様々な行事が自粛された。
そして、昼過ぎに地下牢に訪問者がやって来た。
ゲイドだった。
牢に入って来たゲイドは俺を見て多少驚いた。
「貴様。まさか貴様が曲者だったとはな。我が息子を愚弄した奴だな。くくく。だがもう良い。さて、誰に雇われた?貴族か?諸国か?帝国か?」
俺は何も答えない。
「くくく、黙秘か。まあよい、悪いようにはせん、貴様はニールと一緒にいたな?奴はどこだ?」
「知らん」
「ほう?仲が良いのではないか?それなのに知らんのか?」
幾分楽しそうなゲイド。
だが、俺も腹芸は得意だった。
「知らんな。やつはただの駒だ」
「ふはは。なるほどな。そうかそうか、くくく、ははははは」
愉快そうに肩を揺らし、笑うゲイド。
これがこいつの本性だな。
「ではまた会おう。殺しはせん。貴様は色々と使い道がありそうだ」
ゲイドは去って行った。
そして、その日の夕方。
またも驚くべきニュースが、ランド王国を駆け巡った。
まず、ランド王は、反王派の企みにより、暗殺されたという事実が伝えられた。
暗殺者は、反王派によって雇われた殺し屋。直接手引きをしたのは、王直属近衛兵隊長ニール。現在ニールは逃走中だそうだ。
事実ニールは行方不明だった。
そして、憎き反王派の面々の名前も明らかにされた。挙げられた有力者や大臣達の名前に、驚愕し、怒りを募らせる国民。
反王派の存在すら知らなかった国民の驚きと怒りは、想像を絶するものだった。
だが、奇妙な事に、反王派とされる面々は、俺が聞いていた親王派の顔ぶれだった。
俺は牢にいたから、知る由もなかったがな。
そして、反逆者の烙印を押された人々は、蟄居謹慎を命じられたそうだ。
その日の夜は、国内の各所で追悼が行われたという。
しかし、宰相の打った手はこれだけではなかった。
翌朝、城にて、宰相を始め、謹慎処分以外の各大臣、有力者を集めて閣議が開かれた。
そこで宰相が行った宣言は。
「王が亡くなられ、反逆者が明るみに出た今。国をまとめて行くのは我以外にはおらん。力不足ではあるが、我が新しい国王となるほかあるまい」
この宣言は、風のようにランド王国を駆け巡った。
閣議では異論も出たようだ。
そして、国内でも反対運動が展開された。
当然の事だった。
ランド王国が、急な変化を受け入れかねているようだ。
また、宰相自身にも悪い噂が絶えなかったので、この反対論は致し方ないものだったとも言える。
だが。
宰相は、いや、新国王はその上を行った。
数日後、とどめとも言えるニュースが発表されたのだ。
それはミスリル採掘禁止令を出した大臣の処刑という形で始まった。
そして、閣議で異議を唱えた者達も同様に処刑された。
理由を聞いて、全国民が驚いた。
ミスリル採掘禁止令は王の命により、大臣が出した物だと言う、大臣の署名付きの告白書が示されたのだ。
王はミスリル採掘権を私物化し。
私腹を肥やすと共に、軍備を増強し、むやみに侵略を開始しようとしていたらしい。
秘密裏に行われていたが、宰相の辣腕によって、重鎮達の知るところとなり、王制は真っ二つに割れたそうだ。
宰相はそれを止めようと、反王派と親王派の間に入り、なんとか融和を保とうとしていたが。
しびれを切らした王が、大粛正を行おうとしているという、情報が宰相の耳に入ったらしい。
宰相がなんとか事態を収めようとしていた矢先。
命の危険を察した反逆者どもが、先手を打った。
というのが事の真相だったというニュースだ。
先日行われた閣議にて、王位に就く宣言をしたのは、獅子心中の虫をあぶり出す為の策だったそうで、
あぶり出されたのが、閣議で異議を唱えた、大臣達だそうだ。
ゲイドは王位に就くつもりは無く。
この国の未来の為にやった事だと高らかに宣言したらしい。
ゲイドは即位を止め、宰相として、国民の代表として、国政を担うと発表した。
もはや反対論者はいなかった。
発表を信じた者。
信じなかったが、もはや勝ち目が無いと悟った者。
理由はそれぞれ様々だったが。
ここに宰相の、乗っ取り計画は完遂した。
唯一の誤算を除いて。
その日の遅く。
城からサラサーの乗った馬車が出て行った。
誰も気にも留めなかったそうだ。
え?俺?
俺はずーっと、地下牢で臭い飯を食わされていたよ。
ママー親不孝な息子でごめんなさい(苦笑)
ま、牢屋で指をくわえて座ってただけの俺が言うのもなんだが。
流石に宰相といった感想だった。
次々に策を打って来る。
王派が追い込まれたのも無理は無いな。
で、王と大臣に押し付けて、自分は目的を達成した。元々の王派を押さえ込み、また自分の派閥に対しては、大臣を見せしめにし、忠誠を誓わせたんだろう。
なんて野郎だ。
仮に、俺が王を殺してなくても、いずれこの様な事態になっただろう。
え?何で殺したかって?
秘密だ。
さて、もう牢屋に用は無いな。
そろそろ美味しいご飯が食べたいよ。
ローラの手料理が。
俺はその夜、脱獄した。
が、牢屋にはまだ、俺?がいた。
座って飯を食うだけの俺?がな。
読んで頂きましてありがとうございました。
いきなり殺人犯ですねー(苦笑)
何やってるんでしょうか、この間抜け野郎。
次回ご期待下さい。




