第二十四話「珍客万来」
おはようございます作者です。
今回の話は、変わった話になっています。
最近出番の無いあの人物が活躍します。
その日俺は街を歩いていた。
シルフィーに出会ってから数日が過ぎていた。
修行の合間をぬって、本を買いに来たのだ。
街中を買い食いしたアイスキャンデーのような物を食べながら歩く。
魔法石で凍らせた果物だ。
相変わらずの人出だった。旅装の商人達や一般市民などが行き交う。
ふと俺は前方からやって来る人物に目をやった。
別に何が気になった訳ではない。しいて言うならなんとなくだった。
女の様な綺麗な顔立ちの男。黒髪を後ろで束ねている。森蘭丸と言えばわかりやすいだろうか。服装は魔導士のようだった。白を基調として、角張ったラインや模様が描かれていた。
んー。男女かー。
変なのー。
やがて俺達は、すれ違う距離まで近づいた。
すれ違う瞬間。
その男は笑いを浮かべた。
薄ら笑いと言ったほうがいいか。
したり顔の笑い。
俺は喋った
「待て」
男が立ち止まる。
顔は前方を向いたままだ。
「何か?」
ややあって男が返す。
「てめー、こんなとこで、何してやがる?」
俺は怒気を含んだ声を発した。
「バレた?よく分かったな(笑)」
「分かるわ、アホたれ!だいたいその姿は何だ?誰だよ!」
どんな顔になってても俺の目はごまかせない。
男はモトユキだった(笑)
「ツッコムとこはそこか!いいだろ、どんな格好してたって」
「いやいや、美化し過ぎだから(笑)というか、何してんだ?」
「散歩」
「アホか!てか、今までのあれは空耳じゃなかったのか?」
「なんの話だか」
モトユキにはぐさかされた(笑)
「こんなとこに来て、足がついて、俺の存在がバレないだろうな?」
「俺が、そんなミスをすると思うか?」
悔しいが、思わなかった(笑)
俺と違ってモトユキは迂闊ではない。
「けど、実際何やってんの?」
「まあ、なんつーか、お前のいる世界が見たくなって、最近出番も少ないし(苦笑)」
今までのは空耳じゃなかったんだな(笑)
「そうか」
「そうだ。というかギルド行こうギルド!」
「何でだ?」
「お前の仕事場が見たい」
そういうと、モトユキはスタスタと歩いて行く。
おい!俺は仮にも主君だぞ?俺の意思は関係なしかよ。
「隠れ住む身で主君もクソもあるか」
聞こえていたらしい(笑)
しょうが無いので、幼なじみでもあり、信頼する部下でもある、この珍客の後に俺はついて行った。
「なあ、ギルドってどっちだっけ?」
「アホかてめー知らずに歩くな」
モトユキは方向音痴だった。忘れてたよ(笑)
ギルドに着いた俺とモトユキ。
モトユキは物珍しそうにあちこち見ていた。
エレーナに会わせろとか言わないだけましか(苦笑)
「オズ!これだ、これにしよう」
見ると、モトユキは掲示板から依頼書を剥がしていた。
「おい!」
な、何してくれてんだコイツ。
モトユキはテクテクと受付に歩いて行く。
ちょちょちょ!コラコラ(苦笑)
慌てて後を追った。
受付にはアミタが見える。
モトユキは受付に到達すると、手に持った依頼書をアミタに渡して、
「この依頼を受けたいんすけど」
「あ、依頼書ですね、ではギルドカードを拝見します」
「持っていないんす」
「え?なら、依頼は受けられませんが?」
「依頼を受けるのは俺じゃないんすよ」
「はあ?」
「コイツっす」
モトユキはクルッと回転して後ろから来た俺を指差した。
「おい!?」
「はあ?ってオズ。おはよう。この人、、、お友達?」
「違う!」×2
「ただの腐れ縁だ!」×2
「ふふ、よくわかんないけど、息ぴったりね(笑)」
アミタは面白そうに俺達を代わる代わる見ていた。
「じゃあ依頼受けていいっすね?」
「はい。オズ。カード出して」
お前ら、俺の意見は聞かないのか(笑)
マイペースな二人に振り回されつつ、俺は依頼を受けさせられてしまった。
「よし、じゃあ行くか」
「ど、どこへ?」
「アホか貴様、依頼人のいる場所に決まってるだろ!場所はここだ」
モトユキがアミタからもらった依頼カードに依頼人が泊まっているらしき宿屋の住所が書いてあった。
「さっさと行くぞ、地図を出せ」
方向音痴が偉そうに(苦笑)
「わかった、わかった、んじゃ、行きますかね、道すがら依頼を聞かせてくれ」
「当然だ。お前が受けた依頼だからな」
もう、何でもいいよ(苦笑)
「行ってらっしゃーい。仲良くねー」
「それは無理だ」×2
俺達の息は思惑に反してぴったりだった(笑)
目的の宿屋へ向かう間、モトユキから依頼の内容を聞いた。
依頼はこうだ。ある男が、失踪した妹夫妻を探しているそうだ。色々探し回った末、この街にいるらしいとわかったのだが、街が広過ぎて困っているらしい。
そりゃそうだそうな。某地方都市くらいの街だからなー。
ま、感動の再会とか見れそうだし、やってみるか。
隣のモトユキを見る。
キョロキョロしながら楽しそうだ。
懐かしいな。昔はよくコイツと下界に下りて悪さしたっけな。
まだ俺が皇位継承権を持つ前のことだ。
あの頃は気楽で良かったなー。
そんな事を考えつつ、違う道を曲がろうとするモトユキを制しつつ(笑)
俺達は宿屋に着いた。
なかなかいい宿屋だな。
白壁造りのレトロな洋館風の建物だった。
「何をもってレトロなのかわからんよ、お前の説明は」
いちいちうるさいヤツだな(笑)
宿屋に入った俺達はフロントにいた主人に、ギルドから来たこと、依頼人の名前を告げた。
依頼人はいた。
依頼人が下りてくるまで、宿屋の喫茶で待たせてもらった。
モトユキはホットコーヒーを飲んでいる
「あちっ!」
ちなみにコイツは猫舌だ(笑)
いちいちツッコんでてはコイツと一緒にはいられないんだよ。
その時。細面の男が声をかけてきた。
「お待たせしました。わざわざありがとうございます。助かりました。困り果てていたところでして」
キツネのような男は人懐っこく笑った。
交渉はモトユキに任せた。俺はこういうのは向いてない(苦笑)
「つまりはこうっすね、妹夫妻さん達を探し出して、一緒に暮らしたいと?」
「はい。やっと、やっと安定した暮らしが出来るようになったんです。家族と暮らして行きたいんです。他には何もいりません」
男は涙交じりに話をしていた。
男はとある国で農夫をしていたそうだ。しかしその国では干ばつが続き、農業は立ち行かなくなってしまったそうだ。
男には妹がいた。
妹は自らの身を売り、家計の助けにしてくれと言ってきたそうだ。
可愛い妹にそんなことはさせられない。男は断固断ったらしい。
妹には想いを寄せる男がいた。二人は結婚を誓い合っていたそうだ。
兄として、妹を幸せにしたいと思った男は、先祖代々の農園を手放す決意をしたらしい。
しかし妹は反対した。
父や、先祖が守って来たものを自分なんかの為に手放してはならないと言って聞かなかったらしい。
平行線の日々が続いたある日。
妹は置き手紙を置いて、結婚相手と失踪した。
《私がいなくなれば口減らしにもなるし、農園も売らなくて済む。お兄ちゃんは農園を守ってください》
要約すると、そういう内容の手紙だったそうだ。
しかし、それから何ヶ月か経ったある日、テッサへ行商に行っている知人が、妹を見た、と言ってきたのだ。
いてもたってもいられなくなった男は、領主の伯爵にこの話をしたそうだ。
伯爵はいたく感動し。
男の年貢を減らすと共に、土地を増やし、また妹夫妻を領邸で住み込みではない上級使用人として雇ってもいいと言ってくれたそうだ。
領主が負担してくれた旅費で、すがるような想いでテッサにやって来たが、街が広く、妹夫妻が見つからなくて、途方に暮れた末、ギルドに依頼をしたという話だった。
「ふむ、そして、我々への依頼は妹夫妻を探し出す事、ならびに、サプライズをする為に、探し出した妹夫妻を、俺達があなたに引き合わせるのではなく、あなたが我々と共に会いにいくと、、?」
「はい。この日の為に、妹への結婚祝いとして、ドレスを買いました。私の手で渡したい!」
男の目は希望に溢れて見えた。
ま、確かに幸せな暮らしが待っているなら尚更だよなー。
「どうする?」
モトユキが聞いてくる。
「やろう!俺達の手で妹夫妻を見つけ出そう」
「そうか。お前が決めたなら構わん」
決定した。
ちなみにキツネ男の名前はトーマス。妹はリズ、その旦那はジェイクと言うそうだ。
大喜びのトーマスに挨拶をして、俺達は宿屋を辞した。
さて、これからどうするかね?
モトユキに話しかける
「どーすっかね?」
「決まっているだろう、妹夫妻の似顔絵はもらった。捜査の基本は足だ。それを持って、足を棒にして探すんだよ、お」
「前もな!」
言われる前に先に言ってやった(笑)
お前もやれ!
次の日から、手分けして、聞き込みが始まった。
刑事ドラマで言うと、テーマ曲が流れるシーンだろう。
街を走り回る俺。
店に入って、似顔絵を見せる俺。
憲兵と話す俺。
って俺ばっかじゃん!
モトユキは何をしているのか。
そしてどのシーンでも、俺が聞いた相手は首を横に振っていた。
そう。手掛かり無しだった。
三日間、足を棒にして探し回ったが、夫妻の行方はまったく掴めなかった。
三日目の夜。
俺とモトユキは、モトユキが泊まっている宿屋にいた。いつもの夜の定例会だ。
西洋風の、、、嘘だ。
「嘘かよ!」
「やっぱ、目の前にいると、ツッコまれてるって感じするな(笑)」
「まあな」
「んで、モトユキ、なんか収穫あったか?」
「あったぞ、俺はお前と違って、足だけ使うバカじゃないからな」
「な!?お、お前が言い出したんじゃねーか!?」
「まあまあ(笑)」
クソー、いつもの事だが、コイツはまったく(苦笑)
「んで、何かわかったのか?」
「夫妻の居場所」
事も無げにモトユキが言った。
「ま、まじか?どうやって調べた?」
「ここを使ったのさ」
モトユキは頭を指差しながらしたり顔。
「こ、こめかみか?」
「違うわ!頭だ!」
モトユキはイラッとしたようだった。ザマアミロ(笑)
モトユキによると、夫妻はとあるレストランで、住み込みとして働いているそうだ。
「しっかし、こういう事にかけては天才的だな」
「どうやったか知りたいか?」
「いや、いい」
大抵ロクな手を使ってないのはよく知っていた(笑)
明くる朝、俺達は早速、そのレストランへ行ってみる事にした。
そこは、テッサの東門から、ちょっと奥に入った場所にあった。
石畳のカーブした坂の中腹。モトユキ曰わく、コジャレた店が並ぶ、隠れ家的な場所なんだそうだ。
あの赤い店はソーセージが美味いだの、あのケーキ屋のフィナンシェは絶品だの、モトユキは色々と説明している。
やけに詳しいなこいつ。
方向音痴のクセに。
そして、レストランの前を通りかかった時。
モトユキがツンツンと俺を小突き、継いで店の前を掃除している女を視線で示した。
似顔絵通りだ。
リズだった。
俺達はそのまま通り過ぎた。
「本人か?」
「間違い無い。ここではリズリーと名乗っている」
「そこまで調べたのか?」
「ふん、当然だ」
モトユキはニヤリと笑った。
「旦那のほうは?」
旦那は厨房で働いているらしい。元々パンが焼けるらしく、レストランでは自家製のパンが評判になっているらしかった。
「美味かったぞ」
「食ったんかい!」
こいつには恐れ入るよ(苦笑)
さて、場所はわかったが。
「レストランの中でサプライズってのも悪くないよな?」
「うーん、どうかな。静かな場所の方がいいだろう」
モトユキには何か考えがあるようだ。
どうせろくでもないサプライズでもやるつもりなんだろう(苦笑)
モトユキによると、夫妻は毎週水曜日に教会へ行くらしい。
本来日曜日が礼拝らしいが、夫妻は人のいない時に行っているようだ。
「そこまで調べたのか?すげーな」
「まあなー」
モトユキは目を閉じて満足げだった。
という訳で、サプライズの日にちと場所は決まった。あとはトーマスに報告するだけだな。
その夜。
トーマスの宿屋にモトユキと出かけて、夫妻が見つかった事と、会う為によい場所があることを報告した。
トーマスは涙を流して喜んでいた。
それから四日後、水曜日がやって来た。
俺とモトユキは歩いて教会に向かっていた。
モトユキを見る。そういえば、こっちで会ってからタメ口で喋ってくるなコイツ。久しぶりに主従関係ではなく、幼なじみとして接してくれる俺の腹心。
ずっと気になっていた事を聞いてみた。
「なあ、なんで俺の下についた?お前なら、一人で自分の勢力を持てるし、俺の弟についてたら今頃No.2の座にいただろうに?」
「あ?愚問だな。お前は危なっかしくて見てられん。それに堅苦しい立場より、こうやって勝手に散歩が出来る身分がいい」
「そうか」
「そうだ」
「ふふふ」×2
何はともあれ息はぴったりだな(笑)
ふと、モトユキがひらひらと扇いでいる扇が気になった。黒い羽の付いた扇だ。昔のディスコみたいだとか思ってはいけない(笑)
「なあ、それ何だ?、まさかビームとか出ないよな?」
「これか?扇だ。扇も知らんのか?」
「くっ!武器じゃないよなって言ってんの!」
「なら最初からそう聞けばいいだろ?」
息はぴったりなのは認めるが。相変わらず、いちいち腹の立つヤツだな(苦笑)。
教会の近くでトーマスと待ち合わせをしていた。
その場所には、トーマスと見たことの無い男が立っていた。
でっぷりと太った男。高そうな服を身に付けている。
男は自己紹介をしてきた。
「この度は我が領民の願いを聞き届けていただいて感謝している。いてもたってもいられず飛んできたのだ」
男の名は、イートン。トーマスの住んでいる土地の領主である伯爵だった。
トーマスから連絡を受けてやって来てくれたそうだ。
さて、役者は揃ったな。
トーマスの話によるとジェイク達はもう教会に来ているらしかった。
四人で教会に入って行こうとしたが、モトユキが感動の再会には興味が無いって言い出し、モトユキは外に残った。
天の邪鬼なやつめ!
俺を先頭に、教会に入っていく。
中には夫妻しかいなかった。
「あのー、ジェイクさんとリズさん?」
俺が声を掛けた。
振り向いた二人が驚く。
「ジェイク、リズ」
トーマスが声をかけた。
感動の瞬間だった。
の、はずだった。
二人の表情が恐怖のそれに変わった。
あれ?何これ?
「ど、どうやってここが?」
ジェイクが叫び声を上げた。
「ふふふ、探しましたよー世話をかけますねー、旦那様がどれだけ悲しんだ事か」
トーマスは笑いを浮かべながら、やれやれと言った表情で言う。会った時には見なかった、嫌らしい笑いだった。
「黙れ!貴様らのような男にリズを好きにはさせん!」
「拾ってやった恩を忘れやがって、ねえ?旦那様?」
「まったくだ。リズよわしは寂しかったぞ。お前はお気に入りのメイドだったからの。今夜はたっぷりかわいがってやるぞ、そうだ、ジェイクの前で見せつけてやろう。ついでにその後、ジェイクが八つ裂きにされる姿も見せてやる、二度とこういう事を起こせんようにな」
イートンが舌なめずりをしながら笑った。虫ずの走るような笑いだった。
展開がまったく読めんが、話の内容が全然気に入らなかった。
俺は、夫妻とトーマス、イートンの間に、夫妻を守るように立ちはだかった。
「おや、そうだそうだ、忘れていましたよ。貴男には何とお礼を言ったらよいか。報酬は弾みますよ」
「断る」
「ふむ、騙した事を怒っているようじゃな。これは失礼した。三倍の報酬を出そう」
やめときゃいいのに、イートンが追い討ちをかけた。
「そうか、だが断る!」
後ろで夫妻が驚くのが伝わってきた。
「おやまあ、冒険屋らしくもない。何がお気に召さないのですか?」
トーマスが嘲るように笑った。
さすがにムカついて来た。
「金には困ってない。ついでに言うと俺はバウンサーだ、何より一番気に入らんのは、余を謀りおった事だ、この痴れ者が!」
いかん、ちょっとキレてきたか俺、口調の制御が(苦笑)
「はっはっは。このわしに向かって痴れ者とほざくか、下卑の輩が偉そうに。考え直すなら今だぞ、わしが一声かければ、30人のワシの私兵がここへなだれ込んで来るんだぞ?」
「な!?」
「トーマス、やはりこいつにして良かったな。思った通りのバカだ。なまじ頭がいいと気付かれるからな、ワザと冒険屋ランクの低い依頼にしたんだよ」
「おっしゃる通り、さすが伯爵様」
いかん。30人も相手にできんぞ。
その時だった。
戸口から聞いたことのある声がした。
「オズ、戦いに必要なのは何だか知ってるか?」
モトユキが現れた。
「えっと、作戦と補給と退路の確保だったっけ?」
「ご名答。もっと言えば、情報収集力と名軍師、ま、それなりの兵力も必要だな。ついでに言うと、イートンとやら、お前の兵力と退路はさっき無くなったぞ。私兵にはちょっと旅に出てもらった」
モトユキはしたり顔で扇をヒラヒラと動かしていた。今まで、窮地の時に、コイツのこの余裕に何度助けられたことか。
ま、どこに旅に出てもらったのかは聞きたくないが。
「な、ばかな」
「伯爵、配下らの気配がありません!」
トーマスとイートンはうろたえている。
「オズ。こいつらの正体を知りたいだろう?」
「ん?あ、ああ」
「このイートンは正真正銘、隣国の伯爵だ。領主でもある。ちなみに暗君だな。ジェイクは伯爵家の厨房に仕える使用人だ。だから美味いパンが焼ける。リズはメイドだ。伯爵のお気に入りでな、身の回りの世話から、いわゆる夜の奉仕までさせられていたらしい。そして、こいつ、このトーマスな。この嘘つき野郎は元軍の特殊部隊にいたそうだ。ちなみに兄とか農場の話は真っ赤な嘘で、実のところは伯爵家の執事長だ。ま、農夫じゃないことは会って数秒でわかったがな(笑)」
「な、何?バカな」
トーマスが呻いた。
「バカは貴様だ。そんな目つきの農民がいるか?それに農民はな、そんな綺麗な手はしていない。お前のそれは、土と対話する人々の手じゃないぞ。ま、お前の手は違う意味で汚れてるがな」
さすがだな。会って数秒でそこまで見抜いたのか。
この数日のモトユキの行動がなんとなく読めた。
恐らくコイツから辿ったんだろう。
「お前らは嫌われ者だな、村には協力者が多くて助かったよ」
「き、貴様ら、生きて帰れると思うなよ」
イートンが言う。
トーマスの経歴がホントなら、空威張りではないはずだ。
だがモトユキは意に介した様子は無い。
「ふはは、袋のネズミが偉そうに!」
実に楽しそうでなによりだ(苦笑)
俺はトーマスと距離をとり、ジェイクとリズの側へ移動した。万が一の場合に備える為だ。
「すまん。俺が踊らされたばかりに迷惑をかける。でもアイツがああいう風になってる時は大丈夫だ」
「ま、守ってくれるのか?」
ジェイクは脅えるリズを抱きしめながら話しかけてきた。
「ああ、そう決めたからな。それに、俺知らない?薬草の鬼にして銀髪の恋愛キューピットとかなんとか言われてるんだけど?」
リズの顔が少し明るくなった。
「知ってます!ブランドンさんの知り合いですよね?ブランドンさんうちのパンをよく買いに来てくださって、娘の家族だって自慢してました」
家族ね、、、複雑な心境だ(苦笑)
「というわけで、信じろというのも無理はあるが、まあ、ここでしばらく待っていよう」
昼の俺は弱いからね。
その時、伯爵が声を発した。
「トーマス、とりあえずあの男女からやれ、厄介なヤツだ」
「はっ!」
トーマスは答えると、どこからか武器の様な物を取り出し、伯爵を背にモトユキへと歩み出した。
トーマスの獲物は、長い糸のようなものの先にクナイのような刃物がついた物が2つだった。
糸は両手それぞれで握られており、それを回転させて使うらしい。
ヒュンヒュンと音を鳴らすそれは、前進しつつ、周りの椅子や床を切り裂いていく。
なかなかの破壊力だった。
モトユキは、ふん!と鼻で笑っている。
「貴様の指の妙なタコはそのせいか。ま、玩具の域を超えんがな」
「負け惜しみは、死んでから言え」
そう言うとトーマスは一気に間合いを詰めた。
が、そこまでだった。
モトユキがめんどくさそうに扇を払う。
トーマスの武器は、黒いビームによって砕かれ、トーマス自身も蜂の巣になって絶命した。
「やっぱビーム出るんじゃねーか!」
「出ないとは言ってないぞ」
仰る通りだが、なんか腹立つな。
「さて、残るは貴様だけだ」
「ま、待て、幾らだ、幾らなら手を打つ!言え、幾らでもやろう」
「そうだな、命で払え。この場所なら誰にも見られない、人知れず死んでいけ、ゴミが」
モトユキ、悪魔が言うセリフだよそれ(汗)
って最初からそれが目的でここにしたのか。
「待ってくれ。そ、そうだ、ここは教会だぞ、神がおられる神聖な場所だぞ?そこで人を殺すのか?」
「愚問だな。ここには神などおらん。ついでに神の野郎は大嫌いだ」
モトユキ。気が合うな。
俺もだよ。
「貴様にはとっておきの最期をプレゼントしてやる。ぴったりな死に方だぞ。嬉しいサプライズだろ?」
そう言うと、モトユキは扇をイートンの足元に向けてくるりと円を描いた。
イートンの足元の床がみるみるタールのように黒ずんで液化してゆく、まるで漆黒の沼だ。
「な、なんだ!何をした?」
「ほらお迎えが来たぞ、お前が苦しめた人達の分だけ苦しんで来い」
イートンの足元の床から、黒い手が何本も浮かび上がってきた。まるで仇を引きずり込むかのように。
イートンは逃げようともがいたが、手は足に腰に絡みついて離れない。
「ぎ、ギャー、離れろ!離せ、わしを誰だと、う、ウワァァァァァー」
それがイートンの最期の言葉だった。
イートンは、そして、トーマスの死体も、全身を手に覆われながら沈んで行った。
どこに行ったかはだいたい分かるが、どーでもいい。胸くそ悪いヤツにはお似合いの場所だ。
「さて、、、大変だー伯爵様がテッサで行方不明になられたぞー。、、、ま、困る奴は誰もいないがな」
前半棒読みだったモトユキは片目を閉じてニヤリと笑った。
「あ、ありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいか」
ジェイクとリズが深々と頭を下げてきた。
「いや、俺何にもしてないし」
「その通りだ、その間抜けに頭を下げる必要はない」
モトユキ。しまいには怒るよ?(笑)
「礼を言うのはまだ早い。そいつに礼を言うのは、これを受け取ってからにしろ」
モトユキはどこからか、サンタクロースが持ってるような袋を出して、夫妻の前に置く。
ジャリンと音がした。
袋からは金貨が見えた。
「こ、これは?」
「この間抜けの実家の蔵から、とある物を魔法具屋に売りつけた。しけた物だったが、村が買えるくらいの金額にはなった」
おい!!
何を売ったのか知らんが、勝手に何してくれるんだ!あと、しけた物は余計だ!
「こ、こんなに、受け取れません、お礼をするのはこちらです」
夫妻は恐縮しきっている。
「いらん!これでパン屋を開け。結婚式もしてないと聞いたぞ。あと、まだのようだが、子宝に恵まれたら金もいる。今まで苦労したんだ、これからは幸せになれ!」
上から目線が気になるが、モトユキの想いは俺にも伝わってきた。異論は無い。
「で、ですが、どうして見ず知らずの私達の為に?」
「パンが美味かったからだ」
言い切りやがった(苦笑)
多分理由はそれだけじゃないが、照れ隠しなのは間違いないな。
それを言うとモトユキはくるりと背を向けて教会を出て行った。
「あ、あのー、いいんですか?」
リズが恐る恐る聞いて来る。
「いいんだ。アイツはああいうヤツだ。あなた方が幸せになってくれればそれでいい」
ジェイクとリズは泣いていた。トーマスの涙とは違う、本物の涙だった。
俺も教会を後にした。
1ヶ月後ギルドの近くに、新婚夫婦が切り盛りする、絶品のパンを売ると評判の店ができる事になるが、それはまた別の話だ。
俺はモトユキに追いついた。
「好き勝手やりやがって、分かってたんなら最初から言え!」
「あ?言ったぞ?」
「いつ?」
「依頼を受ける時に、「どうする?」って聞いたし、どうやって調べたのかも「知りたいか?」と言ったぞ」
その通りだった(苦笑)
「気に入らんか?」
モトユキが珍しく俺の目を見ながら話しかけた。
「いや、お気に召したよ」
「ふふ、そうだろう?」
「だな」
モトユキはその日のうちに、なんとも満足げな顔をしながら精霊界へ帰って行った。
ホントに何しに来たんだか(苦笑)
次の日、レストランへ行ってパンを買った。
夫妻は大喜びで出迎えてくれた。
事情を知るレストランの主人が、ただで好きなだけ持って行ってくれと言ってきたが、ちゃんと払った。
モトユキならそうするはずだ。
しっかし今回、俺何の役にも立たなかったな(苦笑)
《まったくだ!》
モトユキ!空耳じゃないよな?
今回も色々ありがとうな
《何の話だ?》
何でもねーよ。
歩きながらパンを食べた。
パンはとっても美味しかった。何も付けずにパクパク食べれた。
バターの香り高い、こうばしいパンだった。
パンが美味かったからだ!、、、か。
なるほどね。納得だな。
《当然だ!》
したり顔で言っているであろうモトユキの声がした。気がした。
いかがでしたでしょうか?
ご愛読ありがとうございます。
いやー、オズ以上のマイペースぶりですね彼は。
ま、その位で無いとオズのおもり役はつとまりませんね。
息が合っているのかいないのかはともかく、大体はオズと似た考えの持ち主です。
態度以上に深いところで信じ合っている仲ですねー。
ちなみに、モトユキのあれが空耳なのかどうかは、御想像にお任せします(笑)
色々気になる所もあるかと思いますが、それはまた別の機会に。




