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第百話「オズとリュウホウ」

こんばんは、作者です。


昨日はすいませんでした。

やはり更新は無理でした。


熱に浮かされながらも、何とか書き上げました。


記念の百話。

案内人はモトユキです。

「陛下、お話があります」


俺は陛下の部屋のドアを開けた。


「わ!」


陛下は窓から逃げようとしていた。

バカか!?、あ、失礼しました。

無理だから。


「この期に及んでの悪あがきはお止め下さい」


「ぼ、ぼ、ぼ、僕は何も知らないよ!プシュー、プシュー」


陛下は鳴らない口笛を吹いて、すっとぼけていた。

いやいや。


「あれは誰ですか?」


「だ、誰とは?」


「分かっておられるでしょう?アークです」


「あ、用事を思い出した、じゃあ」


陛下は窓枠を越えようとした。


無駄です。


「わ!うわ!」


ガタガタン!


陛下が窓枠から転がり落ちた音だ。


「だめ、、、陛下、、お説教」


ニュッとハンゾウが窓から顔を出した。


「ぅぅ、、、」


陛下、そう、リュウオウ様はたじろいでいた。

ハンゾウを押しのけてて出ていくとか、心優しいこのお方には無理だ。

というか、来るのが分かっていたんだから、先に逃げときゃいいのに。

まったく、最近やたら殿下に似てきたな。

叔父リュウホウ様のテキトーで天然なところと父リュウエイ様の頑固で融通が効かないところが何故か見事に同居しておられる稀有なお方だ。

兄弟の悪いトコばかりが似てきて困る(苦笑)


「アーク?」


「アークです」


「タバコ?」


「違うわ!」


「引っ越し屋?」


「違うわ!、ち、違わないけど、違う!」


この下らないボケは殿下譲りだな。

最近殿下に感化されて、やたら下界に詳しくなって来た。

陛下はふーっとため息をついた。

どうやら話す気になったようだ。


「アーク、、、アークと叔父上が出会ってしまうとは、、、まさか叔父上があの世界にいるなんて思わなかったんだよ」


「どういう事ですか?」


「言っておくけど、アークはただの人だよ」


「し、しかし」


「うん。よく似てるよね」


そう。

アークという少年は、あまりに似ていた。

というか、瓜二つだった。リュウエイ陛下に。

オズの弟であり、リュウオウ陛下の亡き父である、前精霊王に。


「あの者はいったい?」


「少し長くなるけど、いい?」


陛下は諦めたように俺に問いかけて来た。

俺はコーラとコーンチップスと、お気に入りのパン屋のラスクを差し出した。

時間がかかっても聞くよという意思表示だ。


「あ!これは、モトユキの名前のパン屋さんの物だね。ありがとう」


陛下はニッコリ笑った。

うお!

笑顔に圧される。

この笑顔はまさに凶器、これをたたえて、死ね、と言われたら、喜んで命を絶つ者が溢れるだろう。

これが陛下の武器、、いや、、本領だ。

もっとも、このお人柄だ、そういう事はしないが。


「ま、負けませんぞ!お話下さい」


「え?何の勝負?」


「あ、い、いえ、何でもありません。お続けください」


そう、本人に自覚は無い。

女神さえ跪きそうな笑顔なのに。

あまりにシャイ過ぎるから、たかが天使一人口説けないんだよな。

ま、まあいいか。


「ん?う、うん。続けるよ。モトユキ、僕の父が病気で亡くなったのは勿論知っているね?というより、モトユキも私たちと一緒にそこにいてくれたんだよね」


「当然だ!し、失礼しました。はい存じ上げております。その場におりました」


陛下の一人称が僕と私を行き来している。

私的な話をする時の癖だ。

そう、陛下の父、リュウエイ様は病気で亡くなられた。

未曽有の事態だった。

何故って?

病気で亡くなったんだぞ?

ああ、そうだな、下界では割と普通の話だな。

だが、ここでは違う。

精霊は病気になどかからないのさ。

身体の構成が人間とは違う。

たとえ万が一、風邪のウイルスが入って来たとしても、マナで構築されている身体を分解して、ウイルスだけを切り離し、再構築するだけでいいからだ。

だが、リュウエイ様は病に倒れた。

前代未聞の事件だった。

最初身体の不調を訴えられた時は、マナの不安定化かと思われた。

バイオリズムというやつだ、人間にもあるだろう?

精霊にもある。

だが、違った。

高熱を発症し、次第に身体は弱って行った。

何かの病気だと分かったのはかなり後になってからだ。

オズ、そう、殿下が、インフルエンザみたいなものじゃないかと言い出したからだ。

殿下はどこぞの下界から治療のスペシャリストを拉致して来て、陛下を診せた。


その治療士は、魔法と科学が高度に融合した世界から連れてこられた男だった。


「これは未知の魔導ウイルスです」


陛下の病室の外で、殿下と俺にその治療士は言った。


「ウ、ウイルスだと?マナを再構築すれば済む事なのでは無いか?」


殿下が激しく問い詰めた。


「無理です。このウイルスは、陛下のマナをどんどん破壊しております。それだけならまだしも、ウイルスは陛下がマナを生み出す力を阻害しているようです。もはや、再構築を試みれば、逆に陛下の身体が持ちません。下手をしたら、陛下と共に消滅してしまいます」


「そ、そんな!だ、だが魔導ウイルスと言ったな?それなら魔法で破壊出来ないのか?」


今度は俺が聞いた。


「残念ながら、私も破壊を試みましたが無理でした。魔導ウイルスと申し上げたのは便宜上、そう説明したほうが分かりやすいからで、実際には、何らかの意志を持たされて活動しているウイルスです。破壊出来なかったのは、魔法が効かなかったからです」


「そ、そんなバカな」


殿下がヨロヨロと座り込んだ。

あんなんでも弟思いの男だ、相当こたえたようだ、あそこまで狼狽する姿はあまり見ないな。

代わりに俺が質問をした。


「ウイルスと言ったか?感染する可能性は?」


「分かりません。現在は空気中に拡散している様子はありません、陛下の体内だけにあるようです。しかしながら、陛下がお亡くなり」


「貴様!滅多な事を口にするなよ!」


殿下が物凄い剣幕で治療士に掴みかかった。


「殿下、およしになって下さい。あくまで可能性の話です」


慌てて俺が殿下をなだめつつ、治療士から引き離した。

殿下はまた、座った。


「すまんな。続けてくれ」


「いえ、こちらこそ失礼しました。もし寄りどころを失ったウイルスがどうなるかは、現段階では分かりません。少々特殊な性質のウイルスでして」


「先ほどウイルスが意志を持っていると言ったが、それはどういう意味だ?」


「はい。通常ウイルスは空気感染や、接触、体液の交換などによって感染しますよね?」


「ああ」


「このウイルスは違います。サンプルを取り出してみましたが、陛下の体外に出たウイルスは自壊を始めました」


「何!?」


「あたかも、そうプログラムされているかのようです」


「そんなウイルスが存在するのか、、、そ、そういえば、破壊魔法が効かないと言っていたか?具体的には破壊魔法を発動した時に、何が起こった?」


「はい。破壊魔法がウイルスに到達しましたが、雷の力により相殺されました」


「雷、、、だと?」


座り込んだまま黙っていた殿下が声をあげた。


「はい。雷です。このウイルスは雷のエネルギーで動いているようです」


雷、、、。

形ある物すべての天敵だ。

分子レベルで物質を分解してしまう。

しかし、雷とはな。

神にしか使えない能力のはずだが?


「雷は、、、それはアイツらの」


「殿下!お止め下さい、あくまで可能性でしか無い事を口にしてはなりません」


「あ、ああ。モトユキ、すまん。しかし、雷がどうしてウイルスに、、、」


俺達のやり取りに畏怖しながらも、治療士は言葉を紡ぎ出した。


「仕組みは分かりませんが、ウイルスはいくつかの機関で構成されています。それを繋いでいるのが雷の力です。そしてマナを燃料にしてウイルスは活動しています」


「何と!?陛下の体内のマナをエネルギーにすると同時に体内のマナを破壊する活動を行っているのか?それじゃあまるで」


「ええ、だから意志あるウイルスと申し上げました。その形状や、動力の仕組みからも見て、もはやウイルスというより、殺戮ナノマシンです」


ナノマシン。

聞いた事がある。

確か、数ある下界のうちで文明が高度に発達した世界の多数で運用されている、極小サイズの機械だ。

主に人間の体内で活動する。


「オズ様。申し訳ありません。私の力不足です」


治療士は悔しそうに唇を噛んだ。


誰も何も言わない。

打つ手が無いと分かってしまったからだ。


城の廊下に空虚な静けさが漂っていた。


「何で弟なんだ。俺なら良かったのに」


「リュウホウ!」


「その名前で呼ぶんじゃねー。俺には母が付けた名前がある」


「すまん。だけど、そんな事を言うなよ!」


臣下では無く、幼なじみとして言いたかった。

次にこいつが吐く言葉もだいたい想像出来た。


「どうせ、俺なんて、精霊界の鼻つまみ者だからな。いないほうがいい、こんな半人前の精霊なんてよ!」


「慰めの言葉なんて無いからな」


「ああ。ありがとうよ」


半人前、、、。

言いようによっちゃそうだな。

鼻つまみ者。

それはその通りだ。

忌まわしき血などと呼ぶ者さえいる。

オズは、先の精霊王、つまりオズの父リュウゼンと、人間の女の間に出来た子供だ。

何でそんな事になったのか?

当人達にしか分からんさ。

ただ、当人達にとっては望まれて産まれた子供だ。

そして、精霊界の長い歴史上、初めてのハーフの皇位継承者だった。

みなまでは言わないが、オズは相当の妬みや嫌がらせを受けて育った。

命を狙われた事さえある。

イットウの片腕が義手なのはその時の傷だ。

皇位継承権を放棄したのも、そういった精霊界からのオズへのアレルギーが一つの理由だ。

うんざりしたらしい。


ちなみに、精霊界全部がオズの敵だった訳では無い。

人間と交わって、子をもうける精霊は少なく無い、勿論皇族にはいなかったが、後は、出生はともかく、オズ本人はあの性格だ、慕う精霊も多い。

その後援者達の力に、精霊界のリベラル派がつき、オズを担ごうとした。

一方保守派は断固反対。


もしオズが精霊王になっていたら、、、どうなったかは想像に難く無いだろう?そういう争いにも辟易したオズは、継承者レースから降りた。

ちょうど折りも良く、弟が産まれたからな。

それが、当時、病に伏せっていたリュウエイ様だ。



リュウエイ様は、いわゆるサラブレッドだ。

保守派のごり押しに負けたリュウゼン様が、設けた側室との間に出来た子だ。

母親は何かと我が子を溺愛して、オズとは諍いが絶えなかったが、リュウエイ様とオズは仲がよかった。

オズは何かとリュウエイ様を可愛がっていたし、リュウエイ様もオズに懐いていた。

腹違いとは言え、血の繋がった兄弟だからな。

まあ、オズにとっては、保守派の側近によって父や母親から遠ざけられていたから、家族と言えば、リュウエイや俺、イットウを指していたのさ。


俺の父はリュウゼン様の友人だった。

一人ぼっちのオズに遊び相手をと思ったリュウゼン様が俺の父に相談して、俺を王宮に連れて行ったのさ。

オズはリュウゼン様の事を冷たい父だと思っているようだが、リュウゼン様だってオズともっと長い時間を過ごしたいと思っていたのさ。

だが、王宮というのは面倒くさい力関係が存在する。

王がオズを可愛がれば可愛がるほど、オズへの反発は強まるのさ。

リュウゼン様も、どうする事も出来なかったのさ。

ま、親の心、子知らずだな。

ただ、唯一の救いか、俺とオズは気が合った。

楽しい幼少時代だったよ。

俺もひねた性格だ、オズのぶつける場所の無いやるせなさも相まって、二人で色んなイタズラをしたもんだ。

ま、そのまま今に至るのが俺達の関係だ。


イットウはな、オズのボディーガード兼子守りだ。

正確にはイットウと、彼の友達がその役割を担っていた。

イットウはな、元々はリュウゼン様の片腕とも言われる護衛隊長だったのさ。

言うなれば、俺とオズの関係に近い。

友人でもあり、主従関係でもあった。

オズが暗殺されそうになったのは一度じゃない。

それを危惧したリュウゼン様が、自分が一番信頼出来る男をオズに付けたのさ。ちなみに、俺達が物心ついてからは、イットウは俺達の護身術の先生でもあった。


オズ本人は認めたがらないだろうが、オズにとっては父親代わりと言っても過言では無い。


親父代わりにしては甘過ぎるのは否めないがな(苦笑)


イットウは、今でこそあんなんだが、それでも俺達が幼少の頃は普通に接してくれていたんだ。

先生になってからは、超スパルタだった。

まあ、愛情の裏返しだとは分かっていたが、よく泣かされたよ。


イットウが酔った時に言っていたが、最初はリュウゼン様への忠誠心から俺達の子守りを引き受けたらしい。

当時のイットウは結婚適齢期を過ぎても独身だったからな、子育てという物への憧れもあったようだ。


それが愛情に変わるのは自然の流れだったと言っていたな。


溢れる愛情をグッとこらえ、心を鬼にして、オズには身を守る術を、俺にはオズを守る術を叩き込んだわけだ。

そんな決意で鍛えるもんだから、鍛えられるほうはたまったもんじゃない。

ほんと!何回死ぬと思った事か。

ランデルさんのルースへの修行や、マックとクルーガーさんの修行の比じゃないとだけ言っておこう。


やがて、それなりに一人前になった俺達に満足したのかイットウは、先生としての役目は終わりにしたんだ。

それから、今みたいな接し方になってしまった。


元に戻るどころか、一時愛情を殺していた反動で、スーパー激甘で過保護になってしまったのさ。「殿下ー!」ってね(苦笑)


そうそう、ランデル家にお邪魔した時に、妻帯者だとイットウが言っていたと思うが、イットウの奥さん、チナというが、彼女が、当初イットウが子守りとして連れて来た友達なのさ。

二人でオズの子守りをするうちに、何かに目覚め、恋愛結婚してしまったのさ。

今は子宝に恵まれて、二人の娘がいるぞ。


さて、オズと言う名前についても、話しておこうか。

名付けたのは、母親だ。

精霊界の習わしで、精霊王の血筋は代々、リュウなんちゃら、と言う名前になる。

これは決められた事だから変えようが無い。

だが、オズはハーフだ。

人間としての名前をと、父と母は望んだのさ。

勿論公式にでは無い。

精霊界でも、限られた者しか、二つ名は知らないのさ。

あ、言っておくが、オズは名付けられた経緯を勘違いしているようだが、二人が下界で出会い、愛し合って産まれた子供だという証しとして、名前がもう一つあるのさ。

決して夫に疎遠にされ、我が子と引き離された妻が、反抗として勝手に付けた名前じゃあないのさ。

オズはちゃんと父と母の愛情を受けて育ったのさ。

オズがその事分かっているのか、分かっていないのか、分からないふりをしているのか、、俺にも定かでは無い。

ちなみに、名前の由来は俺もオズも知らない。


そうそう、オズの母親はヒイロという名前だ。

先ほども言ったが、人間だ。

リュウゼン様が、まさに今のオズと似たような事をして、どこぞの世界でひっかけたらしいぞ。

親子だねえ。

どこの世界かは、俺も知らない。

ただ、母親は、自分の産まれた故郷に留まったらしい。

というより、リュウゼン様が反対したようだ。

人間が、精霊界で暮らす事の世知辛さをよく知っていたからだ。

まあ、会おうと思えばすぐに会えるからな、さほど悲観的な選択では無かった。

母親はオズが物心付く前に病死したという。

だが、保守派に謀殺されたという説もある。

真相は不明だが、そんな理由によって、オズには母親の記憶があまり無いのだよ。


とはいえ、俺にもおぼろげに、オズがイットウにオンブされて、嬉しそうな顔で出かけて行く姿と、決まって泣いて、イットウにあやされながら帰って来る姿の記憶がある。


後々聞いたが、あれは下界にいる母親に会いに行っていたらしい。

共の者も連れずに行ったのは、目立たないからと、イットウがいる限り必要ないからだ。


ヒイロさんの人となりについてはイットウとチナがよく話してくれた。

彼らはオズが産まれる以前より下界で親交があったからだ。

たまに俺がオズに言う、親父譲りだな、とか、母親に似て、とかは、そこから来ているのさ。


最後に、オズがよく言う「〜だよママン」は大目に見てやってくれ。

淡い記憶の中の母への想いから来るセリフだ。

たまーに「〜だよパパー」とか、時には「クソ親父」とか言っているが、あれもアイツなりの父への愛情表現だな。

最近あまり言わなくなったのは、家族が増えて、寂しくなくなりつつあるからだと思うぞ。


とまあ、いい機会だから、少し昔話をしたよ。


懐かしいな。

だが、思い出は良い物ばかりじゃあ無い。


先ほどの回想に戻ると、病室の前にいる俺達は、悲しい別れと向き合わなくちゃいけない運命にあった。

読んで頂きまして、誠に有り難うございました。


オズとリュウホウ、理由がお分かり頂けましたでしょうか?


「ママン」と「クソ親父」の所以もこんな感じです。


やっとこの話が書けたかなと、感慨深いものがあります。


次回は兄ちゃんと弟のエピソードです。

最初からずっと、頭にあった話。

もう少し、モトユキにお付き合い下さい。

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