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一筋の|光明《炎》


「それで、犯人分かった?」


 図書委員の仕事を終えた後、僕は学校を早退した。

 事件について新聞やネット、SNSを使って調べたり、実際に現場に赴(おもむ)いたり、霊殺士兼刑事に話を聞いたり(協会が意図的に配備している刑事だ。警察の幹部には何人か霊殺士がいるため、こういった人選が可能。ちなみに幽霊や霊殺士の情報が世間に漏れにくいのもこのため)色々情報を集めるためだ。

 そしてなんやかんやあって、午後六時。

 場所は昨日と同じく喫茶百合黄。

 ただし昨日の京子さんの部屋の和室とは違い、その上の二階、やけにファンシーな色合いが強い部屋――立花(りつか)の自室にいる。

 兎のぬいぐるみがごろごろ置かれていて、カーテンはピンク色の部屋。

 あの煙草(たばこ)臭かった和室とは対照的な甘い香りがする。

 僕はにらめっこしていた脚の短いガラスのテーブルから顔を上げて、壁際に設置されたベッドの上で、昔僕が買ってあげた巨大な兎さんのぬいぐるみにもたれかかり、昼間と変わらず不機嫌な様子で本を読みふりながらそんな風に問うてきた立花に返事をすることにした。


「何さ、急に。もしかして立花には犯人が分かったの?」

「私に分かるわけない。馬鹿なの?」

「…………」


 そこは即答しないでほしかったなぁ。あと馬鹿って言う必要ありました?


「それで、分かったの?」

「え?」

「犯人。分かったの? それとも分かったの?」

「なんで選択肢が一つだけなの……」

「分かったの?」

「……ま、結構絞り込めては来てる感じかな」

「そ。ならその調子で頑張って」

「何でそんなに上からなのさ。まぁ頑張るけど……」


 流石に手伝う、とまではいかなくとも手伝う素振りくらい見せて欲しい。まぁ強いて言うなら詳細を渡してくれたことだけは立花の手柄なんだろうけれど……けど、あれはたぶんほぼほぼ京子さんから聞いたことを丸写ししただけだと思うしなぁ……。

 だけど、まあいい。

 立花にはこの先、大仕事が控えているからだ。

 幽霊を殺すという、そんな大仕事が。 

 それは今の僕みたいな探偵ごっことは比べ物にならないくらいの大役で、しかも僕みたいな能力の持ち主は雀の涙ほども活躍できない、立花にしかできない仕事だ。

 もちろん僕も霊殺士である以上最大限手伝いはする。けれど、僕の手伝いなんて大抵の場合、立花の足を引っ張らないようにするくらいが関の山だ。まぁもっとも、それも無事僕が犯人を見つけ出せたら、の話だけど。


「あ、そういえば立花、一個訊きたいことあるんだけど、いいかな?」

「何?」


 本から顔を上げないまま立花は気怠(けだる)そうに訊き返してきた。

 手伝いと言えば、一つ、情報収集を終えた後、是非とも立花に手伝ってほしい、もとい訊いて、その意見を参考にしてみたいと思っていたことがあったのだ。

 僕は言った。


「立花。自分の能力の元になった未練のこと、覚えてる?」

 

 パサリ。

 突如、そんな短い音が部屋に響いた。音源となった場所にはベッドシーツを巻き込んだハードカバーの本がある。読書をしていた立花の手から滑り落ちたものだ。


「……立花?」


 立花は持っていた本が滑り落ちたことにさえ気が付いていないのか、呆然と魂が抜けたような顔をして僕を見据えていた。

 それはそう、まるで、ミステリーの犯人が名探偵に正体を見破られたような。


「どうしたの、立花。僕何か変なこと言った?」

「……京子さんに何か聞いたの?」

「え、いや、僕の独断だけど……。京子さんが何か関係あるの?」


 立花は少しの間黙っていたけれど、やがて「ううん。何でもない。忘れて」と言う。そして若干拗ねた様子で再び本を拾いあげて読み始めてしまった。何なんだ、いったい。


「……ちなみに、何でそんなこと訊いたの?」

 

 立花の声が本の向こう側から聞こえてくる。一応会話は続けてくれるようだ。


「事件と関係があるんだよ」

「事件と?」

「そう。さっきも言ったように犯人はだいたい絞り込めてきてる感じなんだけど、未練の方がどうにも判断がつかないんだ。ほら、僕達の仕事は犯人を見つけることじゃなくて、犯人を見つけ出すかおびき出すなりして成仏か殺すことが仕事でしょ? だから犯人の能力の元になった未練さえ分かれば、それを利用して上手く誘い出すことができると思ったんだけど……」

「その未練が分からない」

「そう。どうにも無数の光が被害者の体にまとわりついて人を燃やす、なんて能力が発生しそうな未練が思いつかなくて。立花、何か知らない?」


 前も述べたように僕達半霊同様、幽霊に与えられる能力も、主にその未練や恨みに関連する。

 例えば、生前、いじめを受けて除け者にされていた幽霊であれば、人を消し去る能力。そして、その能力はひっきりなしに行使されるのではなく、例えば、いじめっ子を見つけた時に起こったり、その能力の行使を邪魔しようとする霊殺士に対して行使される。いつでも能力は使えるが自制している僕達半霊とは違い、害を為す幽霊は必ずその未練が関連する場所や状況でのみ、無意識に能力を行使するようになっている。

 故に、僕達半霊、もとい霊殺士はその未練の内容を解釈し、利用する形で幽霊の居場所を突き止め退治する手法を取ることが多い。それが最も幽霊退治に有効な手段だからだ。

 だけど、その未練の内容が分からなければ幽霊の居場所も目的も突き止めることはできない。


「放火、とか?」


 六花はてきとーな口調で言った。


「うーん。それは考えたけど、でもそれなら四人も焼死体で発見されているのはおかしいよ。幽霊が放火に遭ったことでその復讐として能力を得た、ってところまでは納得できるけど、流石に被害者全員が放火魔だったとは思えない」


 一応、その線もなくはなかったので調べたけど、調査する限りそういうデータは出てこなかった。というか、最初の被害者の千台さんはともかく、他の被害者はほぼ未成年だ。年齢で人間を推し量ることはあんまりいいことじゃないけれど、互いに何の関係もない未成年三人ともが放火犯だったとはとても考えられない。

「火を使ったいじめ、とか?」

「それもなかったよ。調べた限り四人とも人格者とまではいかなくても常識はあったみたいだし、誰かをいじめたりなんかはしてなかった」

「じゃあ、牛の置物の中に閉じ込められて焼かれた、とか」

「それは中世の拷問だよ。というか、何でそんなの知ってるの?」

「気になって調べた」


 ……どうかその拷問が、僕が何かやらかした際の罰にならないように。


「じゃあ、爆弾で自分の住む町を焼かれた、とか」

「立花、光は無数の小さな球みたいなものだったんだよ」

「クラスター爆弾だった」

「確かにそれだと無数の光の玉、っていう点にはかろうじて説明がつくかもしれないけど……」


 流石にこじつけが過ぎる。

 ちなみにクラスター爆弾とは、空中で無数の小さな爆弾を散布する爆弾のことだ。


「あっそ、じゃあもう知らない」

 

 否定ばかりされたのが面白くなかったのか、立花はそう言って僕に背を向け、顔をうずめるようにして、また本を読み始めてしまった。

 いや、推論を否定されただけで、特に後半二つのおふざけ推論を否定しただけでそこまで怒らなくても。確かに僕も自分の意見も言わないで立花にばかり考えさせてしまったのは悪かったのかもしれないけれど……。

 もしかすると、立花はまだ昨日のこと根に持っているのかもしれない。

 やれやれ。これは本当に京子さんと距離を置いて会話をするハメになるかもしれないな。

 僕達は付き合っているわけではないけれど、この恋人同士のような嫉妬が起こるのは極力避けなければ。


「…………ん?」


 ……嫉妬?


「…………」


 その瞬間、一筋の光明が差した気がした。

 アハ体験のような、目から鱗が落ちていくような感覚。

 人魂(ひとだま)。

 無数の火の玉。

 四人の死。

 焼死体。

 人を燃やす能力。

 嫉妬。

 嫉妬の、炎。

 ……真っ白だったパズルのピースに絵柄がついて、それぞれが未練という絵を構築していく感覚に陥る。

 ……まさか、これが鍵なのか?

 そうだとしたら、まさに光明だ。

 光と明かり。

 光明。

 あの『生物』にぴったりじゃないか。


「立花」

 僕は立ち上がり、立花のいるベッドの前まで移動した。


「……何?」


 立花が嫌々顔を上げたのを確認して、微笑みかける。おそらくこれで立花も少しは機嫌を直してくれるだろう。

 僕は膝を少し折り曲げ、不機嫌な立花に手を差し伸べた。


「今日から毎日、プリクラ撮りに行こう」



ご一読ありがとうございました。次話はバトルです。楽しんでいただけると幸いです。

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