第一章 The Dead Firefly Is More Beautiful Than The Cicada ?
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
夏の夜中。雨が降る河川敷。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
少年は走っていた。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ!」
ここまでわき目も振らずに全力で走ってきたからか、その呼吸は荒い。
短く染めた金髪には、雨とは別のべっとりとした雫がまとわりつき、短パンからはみ出した足とサンダルは、ぬかるんだ地面から跳ね上がった泥で真っ茶色に汚れている。カラーシャツは雨で体に張り付き、もはや衣服としての機能を放棄したかのようだ。
しかし、それでも少年は走り続ける。
「はぁっ……! はぁっ……! 何なんだよあれは! ……って、うわ!?」
だが、高架下。沛然と降り注ぐ雫から逃れたところで、少年は運悪く道端に転がっていた石に躓き、転んだ。
打ちどころが悪かったのか、膝小僧が擦り剝け、生々しい血が体を起こした少年のすねを伝っていく。
「ってぇ……! ……っ!」
蹲り、膝を抱える少年。しかし、高架に降り注ぐ雨音とは違った音が聞こえてきて、慌てて視界を上部へと移した。
暗闇の高架下でも分かる。真っ白な肌。艶やかな長い黒髪。そして――まるで少年が流す血が大好物だとでもいうように、うっとりと微笑む顔。
それは少年の逃避の原因――この場にはあまりにも不釣り合いな――紺色のリクルートスーツに身を包んだ女だった。
「な……なんなんだよ! お前は! いったい俺が何をしたってんだ!」
逃避はもはや無駄だと分かり、必死に大声で言い募る少年。しかし、その力強い言葉とは裏腹に、体は後ずさる。女はそんな少年の行動を嘲笑うかのように軽い足取りで一歩近づき、少年を再び見下ろした。
「や、やめて……。殺さないで、くれ……たの……頼みます」
逃避の術である足は使えず。説得しようにも相手は聞く耳を持たない。それを知った少年の決死の覚悟の命乞い。しかし、それを女は不気味な笑顔で無情にも振り払う。
そして――そこから十秒程経った頃だろうか。
電車の轟音が響く高架下。
そこは火の海と化した。
離れたところから、その光景を目撃していた者は後にこう語る。
あれはまるで――
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