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『東京インバージョン』  作者: Moon


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第7章 小沼の服従

コンビニのレジカウンター。

小沼は目の前に広げられた納品書を見つめている。

納品書には、商品の検品欄が並んでいた。

第一商品、正常。第二商品、正常。第三商品――。

小沼の手が止まった。

第三商品の段ボールを見る。隅がわずかに潰れていた。肉眼では見過ごしてしまうほどの歪みだったが、確かにある。小沼は指先でその部分をなぞった。段ボールの乾いた感触が残る。

これを報告すれば、再検品になる。再検品になれば、明日の朝の会議に間に合わない。上司の松永の「納品は午前三時までに片付けろ」という声が頭をよぎる。

小沼は段ボールの潰れた角をもう一度指でなぞった。

それから、納品書に目を戻した。

「……異常なし」

小沼はそう呟き、その横の確認欄に「正常」と書き込んだ。

第四商品、正常。第五商品、正常。第六商品、正常。

納品書は、すべて「正常」で埋まった。

小沼はペンを置いて、しばらくそのまま紙を見ていたが、やがて納品書を閉じた。

椅子から立ち上がり、バックヤードへ向かう。

バックヤードの窓から見える従業員用の駐車場では、数台の車が白線の中に並んでいた。そのうち一台のフロントガラスに、外灯が細長く映っている。

その時、店の自動ドアが開いた。

夜勤の交代に来た店員だった。

「お疲れさまです」

「おう。お疲れ」

短いやり取りのあと、小沼は鞄を持ち上げた。

中で納品書の角が、太腿に当たった。

裏口から外へ出ると駐車場の向こうを、一台の配送トラックが走っていく。小沼はその後ろ姿を見送るでもなく、ただ立っていた。

「……明日でいい」

誰に言うでもなく呟いて、歩き出した。

背後では、交代した店員が店内の照明を一つずつ点け直していた。


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