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第46章:高瀬の帳簿
高瀬の残した帳簿は、監査済みの正しい記録として、翌期の補助、支払い、そして組合の判断にそのまま用いられていた。
事務所の空気は相変わらず静まり返り、壁のアナログ時計の秒針だけが乾いた音を刻んでいた。窓の外には曇天の空が広がり、遠くの山の稜線が夕暮れに向けてゆっくりと青みを失っていく。机の上には、新しい期の収支予定表が広げられている。高瀬は手元の受話器を見つめたが、地方銀行や機械業者からの確認の電話がかかってくることはなかった。先月の五万円の穴も、今月の六万三千円の修理代も、すべては「消耗品費」という数字になり、帳簿の上では何の不自然さも残っていなかった。
先月書き換えた数字が、別の書類の欄にも印字されている。
高瀬はその数字を見て、一瞬だけ手を止めた。外から吹き込む風が、窓際の古いカレンダーをめくる音がかすかに響く。しかし、高瀬はすぐに視線を戻し次の欄へ進んだ。手元のペンは止まらない。
新しい書類の項目に淡々と数字を書き込んでいく。
窓の外では、いつものように軽トラックが椎茸のコンテナを積んで遠ざかっていく。高瀬はただ静かに手を動かし続け、その音だけが乾いた室内に響いていた。




