第45章 山岸の新しい現場
工場を去った山岸は、新しい現場か短期の仕事で、別の作業者が以前の自分と同じように「再起動で消える」警告を処理するのを目撃していた。
新しい職場の空気は、かつての地方工場とはまた違った乾いた匂いがした。重油と金属粉の混じった独特の臭気が漂う広大なフロアの隅で、山岸は補助的な立場の作業員として、ただ黙々とベルトコンベアから流れてくる部品の仕分けを続けていた。かつて十年間、自分が誇りを持って正確なビス打ちを続けていたメインの組立ラインからは遠く離れた、どこか仮住まいの空気の漂う空間だった。足元のコンクリート床からは、絶え間なく微弱な振動が伝わり、古傷のある左膝が鈍く疼く。休憩時間になっても他の作業員と雑談を交わすことはなく、山岸は持参した水筒のお茶を一人で静かに飲み干すだけだった。
目の前で、新しい若手の作業員がモニターの端に点灯した黄色いインジケーターに気づき、眉をひそめている。山岸はかつて自分がそうしたように、マウスを手に取って再起動のメニューを開こうとするその手元を、わずかに見つめた。
「それ、そのままにすると……」
山岸は言いかけたが、言葉を途中で飲み込んだ。
自分が教える側ではない。そもそも、その警告が何を意味しているのか、山岸自身も最後まで分かっていなかったのだから。
山岸は、あの封筒の感触を思い出していた。だが、それ以上は考えなかった。
男は迷うことなくエンターキーを軽く叩いた。
画面の中で黄色いインジケーターが一瞬明滅し、スッと緑色の表示へと切り替わる。警告のログはきれいに消え、システムは通常通りの稼働準備完了を告げた。
男は「なんだ、やっぱり消えたか」と小さく笑い、作業帽のツルを引っぱってコンベアに向き直った。
山岸は流れてくる部品に手を伸ばした。
黄色い表示は、もう見えなかった。




