第43章 瓦礫のなかで
十月二十五日、午後四時四十五分。
与党本部の総裁応接室。厚手のカーテンが引かれ、外の昼の光を完全に遮断していた。天井のシャンデリアから投げかけられる人工的な光が、無機質なマホガニーのテーブルの上に重苦しい影を落としている。
与党幹事長の堂島は、ソファに深く腰掛けたまま、目の前に置かれた冷めきった緑茶のカップをじっと見つめていた。その隣では、広報委員長の神谷が、汗ばんだ額をハンカチで押さえながら、タブレットの画面を荒い息とともにスクロールし続けている。
「……始まったな」
神谷の声が、静まり返った部屋に低く響いた。
「先ほどの内閣府の定例会見……三上の野郎、案の定『軽微な遅延』の一点張りで逃げ切りやがった。だが、記者団の反応は最悪だ。大手各社が一斉に、北関東側の資産管理データの不整合について突っ込みを入れている」
堂島は微動だにせず、ただゆっくりと首を横に振った。
「逃げ切れると本気で思っていたわけではないさ。あれはただの、時間稼ぎの儀式だ」
「しかし、このままでは夕方のニュースで『国家システムの機能不全』として大々的に取り上げられます。野党も緊急会合を招集した。……御子神の奴、いったいどこで何をトチ狂ったんだ」
神谷はタブレットをテーブルに叩きつけるように置き、椅子の上で体を前のめりにした。その顔には、隠しようのない焦燥が浮かんでいた。
「御子神を捜せ」
堂島は静かに言った。その声音には、怒気はなく、ただ冷徹な事実だけが宿っていた。
「捜したところで、連絡がつかないのは分かっているでしょう!」
「連絡がつかないなら、引っ張り出してでも話を合わせるしかなかった。だが、もう遅い。あいつが引いた引き金の結果を、いま私たちがこうして一片ずつ拾い集めている」
堂島は立ち上がり、窓際のカーテンの隙間をわずかに押し開けた。
外の通りには、すでに抗議の声を上げる人々や、情報を求める報道陣の姿が群がり始めていた。その喧騒は、分厚いガラスとカーテンを隔てて、まるで水底の底鳴りのように低く、くぐもった音となって室内に伝わってきた。
「瓦礫のなかでどう生き残るか、それを考える時間だ」
堂島は背中を向けたまま、神谷に告げた。
「システムがどうなったかなど、もはやどうでもいい。問題は、この崩落の責任を誰の首に被せて幕引きを図るか、それだけだ」
部屋の隅にある置時計が、重苦しい音を立てて午後五時を告げた。
崩壊はもはや予兆ではなく、目の前で形を伴って進行する現実となり、政治の心臓部を少しずつ、しかし確実に埋め尽くし始めていた。




