第30章 検察(断片)
東京地検の地下資料室は、夜を徹した照明の下で、特有の乾燥した匂いを放っていた。
フロアの隅の細長い机には、クリアファイルと製本された業務記録が積まれていた。紙の端が乾燥して、わずかに反り返っている。
関谷は、その山から抜き取った二冊のファイルを並べ、眼鏡のブリッジを指で押し上げた。
手元にあるのは、他部署から回されてきた監査資料と、半月ほど前に別のルートで押収された改修ログの写しだ。
「これ、どこから回ってきた?」
隣の席で資料を繰っていた若い事務官が、手を止めて顔を上げた。
「監査部からです。先月の処理について確認依頼が入っていまして」
「……同じ番号だな」
関谷は低い独り言を漏らし、ボールペンの軸で二つの文書の日付欄を順に叩いた。
最初のファイルには、十月十四日付の更新記録がある。その数日後の例外処理のログ。そして、北関東からの問い合わせ履歴。
十月二十四日の未明に行われた二つの修正記録が並んでいた。
2026/10/24 03:14:22
2026/10/24 03:42:15
関谷の指が、二つ目の日付欄で止まった。
「この修正履歴。前にも似たのを見た気がする」
事務官がファイルを覗き込む。
「自動処理じゃないんですか」
「かもしれない。そこはまだ分からない」
関谷は古い承認記録へ目を戻した。
承認者の欄だけが空いている。その下に、数年前の改修に使われた識別番号が残されていた。名前はない。
「問い合わせへの回答はまだか」
「先方からは、通常の運用範囲におけるデータ調整だという回答だけです」
「通常の調整ねえ……」
関谷はペンを置いた。
「去年の北関東分を出してくれ」
「全部ですか」
「二十四日の前後一週間でいい。似た修正がないか見たい」
「分かりました」
関谷は二冊のファイルを閉じた。
「どうしますか、先輩」
隣の事務官が、おずおずと尋ねる。
「どうもしない。まだ形になっていない」
関谷は立ち上がり、背もたれに掛けてあったコートを手に取った。
冷めかけた緑茶の入った紙コップをゴミ箱に放り込み、資料の山の間を抜けて奥の部屋へ歩いていった。




