第13章 直人の再燃
日付が変わる少し前。
直人の書斎には、翌日の会議に回される事業別の配分データが広げられていた。省庁からの通知を受けて作成された資料だった。
直人は一ページずつ慎重に目を通していく。第三項目に差しかかったところで指が止まった。
数値に、ごく小さな差がある。
直人は数字の横に押された承認印に視線を落とした。官邸を経て、すでに正式に処理された数字だった。指先が微かにその文字の輪郭をなぞる。
見覚えがあった。
かつて自分が父の書斎へ持っていったあの稟議書。あのとき、微小なズレを前にして自分で決められず、父に判断を仰いだ。
――そのまま進めろ。
あの日の返答が耳の奥で蘇る。
直人は資料からそっと手を離した。
今回は、もう聞く相手がいない。
承認印の下に記された父の名前を見つめながら、直人はしばらく座っていた。
それから、前後のページをめくった。
小さな差は、後続の配分表にも反映されていた。すでに次の処理へ回っている。
ここで差し戻せば、自分の部署だけでは済まない。
机の端に置かれた電卓に手が伸びかけたが、直人はその指を途中で止めた。
直人は資料を一度閉じ、鞄へ入れる直前に第三項目のページだけを指先で引き抜いた。わずかに力を込め、紙の端に小さな折り目をつける。
それから、そのページを元の場所へ戻した。
鞄のチャックを閉める。
紙の角だけが、わずかに浮いていた。




