1-8話 魔女娘の悩みと夢と ★魔女娘SIDE
小高い丘の上にある、ハロウィン・タウンの中でも最も巨大な屋敷、その内部――ハロウィン・モンスター一家の一人娘の部屋にて。
トゥーナ=スクウォッシュ=ウィッチ・ガールは、カボチャ頭の天蓋付きベッドにうつ伏せになり、枕に顔面を突っ伏して身悶えていた。
「なんなのよ、なんなのよ、なんなのよっ……わっけ分かんないっ、あのアインってヤツ! いきなり家族になれとか……あまつさえ、あんなっ……!」
つい少し前、親友・リリィ=フラワーの家で、大騒ぎを繰り広げた。
その際に『俺の家族になってくれないか?』などと口走ったアインに真意を問いただしたところ、次のような返答があった。
『俺とロゼは、ぶっちゃけ生活力が死んでいる――が、トゥーナ。キミの魔法があれば、少なくとも餓死することは無くなる。是非、俺たちと〝家族〟になって、この世界を一緒に旅しよう』
「――アタシの魔法が、ていうかカボチャが目当てなんじゃないっ! よくも乙女心を弄んだっ……弄んでくれたぁぁぁっ!」
ベッドの上、怒りのままにジタバタと暴れまわっていたトゥーナが――しかし続けて述べられたアインの言葉を、更に思い出す。
『いや死活問題だし、大事なことだが……それだけが目当てじゃない。俺は、トゥーナの料理の腕前に惚れた。それにトゥーナは、いい子だしな。一緒に旅が出来れば、きっと、楽しいと思うのだ』
「っ。……な、なにを身勝手なこと……な、なにが、惚れた、よぉ……恥ずかしいこと、真顔で口にしちゃってさぁ~……う、うう~……」
怒りで茹っていた顔が、今度は違う感情で赤くなる。なかなか情緒豊かな魔女娘である。
ごろん、と仰向けに寝転がり、「はあ」とため息を吐いたトゥーナが、ぼんやりと呟いた。
「旅。……世界を、旅……か。色んな街や国を回って、色んなモノを見て……アタシの知らない、新しい魔法を見つけて。…………」
再度「はあ」とため息を吐く、トゥーナが思いを馳せるのは――自分が知らぬ、ハロウィン・タウンの外の世界。モンスターだらけの世界を旅し、新たな魔法を手に入れる、そんな自分の姿を夢想する。
トゥーナは、ハロウィン・タウンに文句がある訳でもなく、支配者であることに誇りを持ってもいる――が、〝世界を自由に冒険する〟ことへの渇望も、否定できない真実の気持ちだ。
ただそんな旅のお供が、あの正体不明かつ変な旅人のアインと、自称・忠実なるメイドのロゼだというのは、何とも心許ない。
そんなことを考えて、くすっ、とトゥーナは失笑する。
「ふふっ……魔女のママも世界を放浪して、それでパパと出会ったんだっけ。あのアインとかいう変なのが、アタシのパパと似てるとは思わないけど……ママも初めは、こんな風に出会ったのかしら。ねえ、ママ……どうなの?」
呟きつつトゥーナが語りかけるのは、精巧な肖像画に描かれた、魔女姿の美女――まさしくトゥーナの実母だが、彼女は娘が幼かった頃、亡くなっている。
そんな亡き母の肖像に語りかける娘の姿には、哀愁すらあった。
当然、肖像画から返事などない――かと思いきや。
『ん~っそぉねぇ~~っ。あたくしもパパに求婚された時は、めっちゃ急だったわね~っ。〝美しい魔女よ、どうか結婚してほしい……いつも心にトリック・オア・トリートを〟なんつって、ね~~~っ!』
「あ~そんなカンジだったんだ~。なんかパパらしいわね~」
普通に肖像画の母親は返事したし、娘も会話している。
他者が見れば〝何が何だか分からない……〟と呆然とするところだろうが、ハロウィン・タウンでは、これが普通なのだろうか。
さて、思い悩む娘を慮るように、肖像画の母親は告げる。
『まあでも、向こうが急だからって、こっちまで合わせて急いで返事することないわ。一晩ぐっすり眠れば、寝てる間に頭の中の記憶が整理されて、答えが出やすくなるものよ。今日は色々あったってことでしょうし、もう休んだら? 何なら、眠りの魔法でもかけてあげよっか?』
「ん。ん~……そうよね、ママの言う通りにする。……ちょっと気が昂って寝付けそうにないから、魔法、お願いしていい?」
『は~い★ マジカルスリープ★ 安らかな眠りにつけ~★』
「いや安らかにって何か死にそうじゃグーッスヤスヤッ。う~ん、むにゃむにゃ……うう、棺桶が、棺桶が迫ってくるぅ~……永眠にはまだ早いわよぅ……」
『アラアラ、なんだか可愛い悪夢なんて見ちゃって、心にトリック・オア・トリートを持ってるわネ★ それにしても夢に出てきちゃうほど、その人のこと考えてるなんて……微笑ましい反面、ちょっとジェラッちゃう! さ~て、それじゃ』
肖像画で微笑みを浮かべる母親の、その口元が――ぐにゃり、大きく歪み。
『一体どんな男の子が、大切な愛娘に粉かけたのか――確認しなくっちゃ!
場合によっては――トリック・オア・ダイだぞ★』
果たして、トゥーナの既に亡き母が、如何にして現世に留まっているのか。
それはこの後、アインの前で明かされる――




