2-19話 猫又国、出立!(イヤだツラい……)
『『『旅人さんたち、ご出立~! ニャ~~~!!』』』
アイン達がミーニャを家族に迎え入れてから、数日後――猫又国を出立する日、モンスターたる猫又たちが、揃って見送りのため集まってくれた。
『気をつけて旅しろニャ~! けったいな旅人たちニャけど、ニャんやかんや楽しかったニャ、また追いかけっこするニャ~!』
『ミーニャ、もーお魚泥棒すんニャよ! また来いニャ~!』
『また来てニャ~ン♡ 今度はもしかすると、多分、気が向けば、ラーメン屋とかやってるかもニャン。名付けてラーメン猫又、アリにゃんね……ヨシ!』
『猫又三獣士、旅人たちの旅先の幸運を祈るニャン! 三獣士、敬礼!』
『ウニャオオオ! なんかテンション上がってきて、上がってきてっ……情熱で背が焚けるニャーンッ!!』
『眠り猫、既に半分寝てますニャけど、全寝に入りますニャン。スピスピ……』
(※書置き:お気にのニンゲンの女の膝で寝てるので欠席ニャン)
揃って見送りに、というのはちょっと嘘だったが、猫又たちの盛大な見送りに――美貌のメイド・ロゼは無表情に、けれど地に根を張るような固さで別れを惜しむ。
「必ずや、必ずや、また伺います。滞在中、存分にモフらせて頂きましたが、今ひとたびモフってよろしいでしょうか。暫くお別れなので、小一時間ほど――」
「ハイハイ、行くわよロゼ、旅の続きよ続き~、キリキリ歩きなさ~い」
「トゥーナ様。殺生でございます。殺生でございます」
言葉は名残惜しそうだが、表情は終始、無表情なのでシュールである。
そして猫又国の中枢、体躯も器量も巨大なる、笑みを浮かべる猫又の美女――猫又女王が、彼方まで轟きそうな声を放った。
『ミーニャよ、もはや迷い猫にあらず、親愛ニャる家猫よ! 大切な家族、今度は失うことニャく、守り抜くのじゃぞ! 旅人どもよ、妾ら猫又の同胞、ワー・キャットのミーニャをよろしく頼む! 汝らの旅路に、祝福を祈り――ニャニャンと大笑してくれよう! ニャーッハッハッハ!!』
遠雷の如く轟いた呵々大笑が、アイン達の行く先の雲を切り裂き、行く道に陽光を齎してくれる。
無表情ながらブンブンと手を振るロゼと、快活な笑みと共に「またね!」と手を振るトゥーナ。
そして、少しだけ気恥ずかしそうに、頬を赤らめたミーニャが――おずおずと、小さく手を振る。
ミーニャがアイン達の家族になってから、数日間、猫又国で過ごして分かったことがあった。
ミーニャは決して、猫又国で嫌われていた訳ではない。ミーニャは前の飼い主を求めて孤独を選んでいたが、猫又たちは誰もが、そんな彼女を心配していたという。
だからこそ猫又女王などは何かと理由をかこつけて、前の飼い主の動向などを隠しつつ、ミーニャを(捕らえる体で)保護しようとしていた。ついぞ、それも適わなかった辺り、ミーニャの能力も相当なものだ。
あれから猫又女王とも少しは打ち解けたらしい、今は家族のワー・キャットの少女を見て――アインは〝フッ〟と口元を緩めるのだった。
◆ ◆ ◆
さて、猫又国を出立してから、日が落ちる頃合い。
新たなる家族ミーニャは、少しばかり呆れた顔をして言った。
「全く、誰も狩りの一つも出来ニャいって……今まで、どーやって旅してきたの?」
「面目ないな、フフッ!」
「なに笑ってんニャ。猫パンチするぞ、フシャーッ!」
笑いどころがおかしいアインだが、ひと狩り終えてきたミーニャの言い分は尤もだ。しかも〝話す知能がある魔物とかはちょっと……〟というリクエストに応え、道すがらの森で草食獣を獲ってきた功労者である。
と、それはそれ、トゥーナも同様に呆れ顔で横槍を入れてきた。
「ていうか……カボチャ料理ばっかで飽きるなら、言いなさいよねっ! 文句の一つも言わなかったから、不満なんて無いのかと思ってたわよ!」
「ニャ。……ちなみにトゥトゥ、今までどんニャ料理を?」
「そりゃ、カボチャの果肉を使うのはもちろん――皮は油で揚げてサクサクに、種もスナック感覚で食べられる備蓄食に、ワタを使ってポタージュを作り……ソースもカボチャをドロドロまで煮込んで、カボチャ調味料で味付けしたもので……全てをカボチャで支配する、贅沢フルコースよ……!」
「マジかニャ。……全部が全部、カボチャ塗れ料理で、旅の十日以上を……道理でカボチャに恐れおののいてたはずニャ、アイン……」
夢にまで出そうなカボチャ尽くしに、けれどアインは軽く身震いしつつ、それでも弁明を口にした。
「い、いや、トゥーナのおかげで食料に困らなかったのは、本当にありがたかったし……それに料理の腕前が確かなのは真実なので、毎回驚くほど美味かったし、心から感謝させて頂いておりました(敬語)。……とはいえミーニャが狩り出来るのは、本当に助かる……食材一つ足せれば、トゥーナの腕前ならアクセントを付けられるしな。ミーニャが家族になってくれて、本当に助かった」
「! ん、んニャぅ……まあ、ね? 全く、しょうがニャいニャア……♪」
言いながら、どことなく満更でもなさそうなミーニャだった。
――さて、話している間に、夜も更けてきた。
まるで夜営のため焚き木を組むような気軽さで、巨大棺桶の複雑な機構を回転させ、アインが一つの家を建てる。
どことなく満足そうなアインと、無表情のロゼ、呆れ顔のトゥーナが――エントランス・スワッグのように白百合の花束が飾られている、玄関へと歩んでいった。
少し遅れたミーニャが立ち尽くしていると、三人そろって振り返る。
「さあミーニャ、おいで」
「ミーニャ様、どうぞお入りください」
「さっさとご飯にしましょ、ミーニャ!」
そう言って、手招くと――金色の目を、大きく瞬かせたミーニャが、ふるっ、とその体を震わせる。
ゆっくりと、三人《家族》の下へ、向かっていった。
「――ただいまっ」
そうして、新しい家へと、入っていった――




